【過労死の国 日本】労組の存在意義(1)
本来であれば、組合員である労働者の命と健康を守るべき労働組合。今の労働組合が、「karoshi」にどうかかわっているのかを探る。
◇
「相談なんてとんでもない。会社に筒抜けになる」。社内の労働組合を活用できないか、と電話越しに問われた男性はこう即答した。そして翌朝、出勤前に倒れたという。
◆外部に相談も…
外食チェーン大手「すかいらーく」の社員だった中島富雄=当時(48)、横浜市都筑区=は平成16年8月、脳梗塞で死亡した。神奈川、静岡両県の複数店舗で店長の不在時などに応援に駆け回る「支援店長」。月平均130時間にも及ぶサービス残業が2年も続いた末の過労死だった。
「言うことを聞けないなら辞めろ」。上司から暴言も吐かれていた中島は、退職覚悟で会社に未払い残業代を請求する決意を固めていた。
中島は企業内労組「すかいらーく労働組合」の組合員で、組合費月4500円は給与から天引きされていた。にもかかわらず、頼ったのは、個人加盟できる「全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合」(東部労組)。東部労組が実質的に運営する相談窓口に中島がかけた最初で最後の電話が、冒頭のやりとりだったのだ。
◆労組同士が対決
「会社を正すのが僕の使命だ」。生前に中島からそう聞かされていた妻の晴香(57)は、中島が救いを求めようとした東部労組に自ら加盟し会社側と交渉。労災認定を経て、18年7月に謝罪を勝ち取った。会社側は職場の改善状況を年1回、報告することも約束し、現在も続けている。
ところが、すかいらーく労組はこの間、晴香を支援してこなかったばかりか、中央執行委員長が専門誌のインタビューでこんな発言をして、物議を醸した。
「できる店長は、忙しい中でも休みが取れる。誰かが『私が代わりに働きます』と言ってくれるだけの、人間的魅力がなくてはならない」
「冒涜(ぼうとく)された」と怒った晴香と東部労組は19年7月、「労組としての義務を果たさなかった」として、すかいらーく労組を相手に謝罪などを求める民事調停を申し立てた。労組同士が法廷で対決する異例の事態に発展したのだ。
組合員の健康を守るという点において共通するはずの労組同士の争いは、すかいらーく労組が謝罪を拒否し続け、19年末に決裂。当時の委員長は労組を離れ、関連会社の社長になった。
すかいらーく労組の役員は取材にこう答えている。
「労組に責任があったかは、私たちでは判断できない」
◆昇給と雇用優先
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が19年、労働者10万人に行った調査では、職場の苦情や不満を労組が予防・解決することに「期待できない」という回答が47・5%を占め、「期待できる」(31・0%)を上回った。
理由としては「会社と同じ対応しかできない」(36・8%)、「会社から不利益な扱いを受けるおそれがある」(20・1%)、「労組が従業員個別の問題を取り扱うことに関心がない」(19・7%)-などが目立っている。
従業員の多くが労働組合に失望していることを浮き彫りにしたこの調査結果に、甲南大名誉教授(労使関係論)の熊沢誠(74)は別の側面からも光を当てる。過労死問題に取り組む労組が少ないことへの、不満が透けてみえるというのだ。
熊沢は解説する。「労組は昇給と雇用の保障さえあればいいと考え、残業時間や仕事量などをめぐる働き方の問題について、意見を言わなくなってしまった」(敬称略)
http://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/130927/ecn13092714070009-n1.html#_methods=onPlusOne%2C_ready%2C_close%2C_open%2C_resizeMe%2C_renderstart%2Concircled%2Cdrefresh%2Cerefresh%2Conload&id=I0_1385206285468&parent=http%3A%2F%2Fwww.iza.ne.jp&pfname=&rpctoken=95979753
本来であれば、組合員である労働者の命と健康を守るべき労働組合。今の労働組合が、「karoshi」にどうかかわっているのかを探る。
◇
「相談なんてとんでもない。会社に筒抜けになる」。社内の労働組合を活用できないか、と電話越しに問われた男性はこう即答した。そして翌朝、出勤前に倒れたという。
◆外部に相談も…
外食チェーン大手「すかいらーく」の社員だった中島富雄=当時(48)、横浜市都筑区=は平成16年8月、脳梗塞で死亡した。神奈川、静岡両県の複数店舗で店長の不在時などに応援に駆け回る「支援店長」。月平均130時間にも及ぶサービス残業が2年も続いた末の過労死だった。
「言うことを聞けないなら辞めろ」。上司から暴言も吐かれていた中島は、退職覚悟で会社に未払い残業代を請求する決意を固めていた。
中島は企業内労組「すかいらーく労働組合」の組合員で、組合費月4500円は給与から天引きされていた。にもかかわらず、頼ったのは、個人加盟できる「全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合」(東部労組)。東部労組が実質的に運営する相談窓口に中島がかけた最初で最後の電話が、冒頭のやりとりだったのだ。
◆労組同士が対決
「会社を正すのが僕の使命だ」。生前に中島からそう聞かされていた妻の晴香(57)は、中島が救いを求めようとした東部労組に自ら加盟し会社側と交渉。労災認定を経て、18年7月に謝罪を勝ち取った。会社側は職場の改善状況を年1回、報告することも約束し、現在も続けている。
ところが、すかいらーく労組はこの間、晴香を支援してこなかったばかりか、中央執行委員長が専門誌のインタビューでこんな発言をして、物議を醸した。
「できる店長は、忙しい中でも休みが取れる。誰かが『私が代わりに働きます』と言ってくれるだけの、人間的魅力がなくてはならない」
「冒涜(ぼうとく)された」と怒った晴香と東部労組は19年7月、「労組としての義務を果たさなかった」として、すかいらーく労組を相手に謝罪などを求める民事調停を申し立てた。労組同士が法廷で対決する異例の事態に発展したのだ。
組合員の健康を守るという点において共通するはずの労組同士の争いは、すかいらーく労組が謝罪を拒否し続け、19年末に決裂。当時の委員長は労組を離れ、関連会社の社長になった。
すかいらーく労組の役員は取材にこう答えている。
「労組に責任があったかは、私たちでは判断できない」
◆昇給と雇用優先
独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が19年、労働者10万人に行った調査では、職場の苦情や不満を労組が予防・解決することに「期待できない」という回答が47・5%を占め、「期待できる」(31・0%)を上回った。
理由としては「会社と同じ対応しかできない」(36・8%)、「会社から不利益な扱いを受けるおそれがある」(20・1%)、「労組が従業員個別の問題を取り扱うことに関心がない」(19・7%)-などが目立っている。
従業員の多くが労働組合に失望していることを浮き彫りにしたこの調査結果に、甲南大名誉教授(労使関係論)の熊沢誠(74)は別の側面からも光を当てる。過労死問題に取り組む労組が少ないことへの、不満が透けてみえるというのだ。
熊沢は解説する。「労組は昇給と雇用の保障さえあればいいと考え、残業時間や仕事量などをめぐる働き方の問題について、意見を言わなくなってしまった」(敬称略)
http://www.iza.ne.jp/kiji/economy/news/130927/ecn13092714070009-n1.html#_methods=onPlusOne%2C_ready%2C_close%2C_open%2C_resizeMe%2C_renderstart%2Concircled%2Cdrefresh%2Cerefresh%2Conload&id=I0_1385206285468&parent=http%3A%2F%2Fwww.iza.ne.jp&pfname=&rpctoken=95979753