長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』

2020-03-07 | 映画レビュー(け)

 2008年アメリカ大統領選挙でのオバマ勝利はまだ記憶に新しいが、共和党の大統領候補として彼と争ったのが2018年に亡くなったジョン・マケインだった事を覚えている人はそう多くないだろう。ベトナム戦争の英雄であり、保守中道を行った人格者である彼の敗北は今こそ見るべきものが多い。この選挙で彼はアラスカ州知事サラ・ペイリンを副大統領候補に指名した事で敗北する。地元で絶大な人気を誇ったペイリンはほぼワンイシューで知事選を勝ち抜いたに過ぎず、政治観はおろか、人格的にも破綻した人物だったのだ。

 本作が放映された2012年当時であればブラックコメディとして笑えただろうが以後、共和党が求心力を失い、トランプ誕生のきっかけとなった今となればそうもいかない。過激なポピュリズムで資質なき政治家が台頭する様はここ日本でも馴染み深く、他人事では済まされない。選挙戦終盤はあのマケインですらオバマ陣営へのネガティヴキャンペーンに終始してしまった。「ポピュリズムは怖ろしい」というセリフにマケインの無念が滲む。

 ジェイ・ローチ監督は0年代からポリティカルなTV映画をいくつも作っており、以後15年の『トランボ』、19年の『スキャンダル』劇場映画で成功を収めていく。ペイリン役ジュリアン・ムーアはじめウディ・ハレルソン、そしてマケイン役エド・ハリスらが名演を披露し、本作はエミー賞でも複数部門に輝いた。近年、アダム・マッケイやトッド・フィリップスらコメディ監督のシリアスドラマ転向が相次いでいる中、一回り年上のジェイ・ローチが道を切り開いた格好だ。今こそ再評価すべき作品だろう。


『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』12・米
監督 ジェイ・ローチ
出演 ジュリアン・ムーア、エド・ハリス、ウディ・ハレルソン、サラ・ポールソン、ピーター・マクニコル

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