長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『アメリカン・ファクトリー』

2020-03-22 | 映画レビュー(あ)

 オバマ前大統領夫妻が設立した製作会社“ハイヤー・グランド・プロダクション”がいきなりアカデミー賞に輝いた。アメリカ経済の現在を撮らえたドキュメンタリーだ。
 08年のリーマンショック以後、GM(ゼネラルモーターズ)は全米各地で工場を閉鎖。オバマ政権は公的資金で救済に当たるも、本作の舞台となるオハイオ州のデイトンには間に合わず、多くの失業者を生み出してしまった。

 その工場を買い取ったのが中国のガラスメーカー“フーヤオ・ガラス・アメリカ”だ。同社の進出は多くの雇用を生み出すが、やがて文化の違い、安全軽視の労働管理が中国人経営者、アメリカ人労働者の間に溝を作っていく事になる。

 オハイオ州は車産業で発展後、やがて衰退していった“ラストベルト”と呼ばれる地域であり、トランプ大統領の票田でもある。アメリカ人に全体主義的社風を強要し、労働組合の結成すら認めないフーヤオのやり方は日本人の僕から見ても反発を覚えるのだから、米中貿易戦争の只中にあるアメリカ人にとっては侵略以外の何ものでもないだろう。見方によってはトランプ政権が利するような映画と言っても過言ではない。

映画はカルチャーギャップに悩む両者を公平に描く事で分断の実態を明らかにしているが、その問題意識はもっと先にある。2030年には業務の多くが機械化され、彼らの多くは職を失うのだ。自国の礼賛ばかりをやっている日本の深刻さは言うまでもないだろう。ドキュメンタリーとは観客の目を見開かせるジャンルである。


『アメリカン・ファクトリー』19・米
監督 スティーブン・ボーグナー、ジュリア・ライヒェルト

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