『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』に登場したヴィラン、ピースメイカーを主人公にしたTVシリーズはジェームズ・ガンがほぼ全エピソードの監督、脚本を務め、映画版のファンが楽しめる痛快作に仕上がっている。ヨトゥンヘイムでブラッドスポートに破れ、息絶えたと思われていたピースメイカーは生きていた。彼はアマンダ・ウォラーの監督する政府組織に再び回収され、新たな任務を与えられる。地球外生命体が密かに人間社会に紛れ込み、政府要人に成り済まして地球征服を企てている…前作同様5秒で語れるプロットラインが素晴らしい。この危機に立ち向かうのはピースメイカーの他、ほとんど事務要員(『ザ・スーサイド・スクワッド』では後方支援に当たっていた)のようなメンバーばかり。自称ピースメイカーの“ずっ友”自警ヒーローのヴィジランテも加わり、まったく息の合わないデコボコチームの結成だ。そんな彼らが懐かしのパンク音楽をBGMに、次第に結束していく…とガンの出世作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と全く同じ方程式。コレがわかっていても気持ちがイイ。
はじめこそ白人マッチョ男の有害さを絵にしたようなピースメイカーのキャラクターには後の彼の改心を予想できても食傷するし、昨今のPeakTVとはあえて真逆にテレビドラマのチープさを踏襲するガンの演出にも興が乗らなかった。しかし、回を重ねる毎に互いの違いと共通点を認め合い、仲間として結束していく彼らの不器用さが何とも愛しく思え、気付けば推しだらけになってしまうのだ。人は誤った選択によって誤った行動をするものであり、それは他者との関わりによってのみ気付き、贖罪することができる…かつてキャンセルによってディズニーを追われたジェームズ・ガンならではのテーマ設定は2020年代の現在(いま)こそ響く。
ジョン・シナはスクリーンデビューを果たしてから随分経つものの、ジェームズ・ガンとのコラボレートによってついに俳優としての代表作を得たと言っていいだろう。平和のためなら例え子供を殺すことも厭わない、歪んだ正義心の持ち主であるピースメイカーに駄々っ子のようなチャームを込め、ジェームズ・ガンならではのユーモラスなセリフも嬉々として喋り倒す。その奥底には白人至上主義者の父親によって自ら兄を殺めてしまったトラウマがあり、ジョン・シナは繊細さも同居させているのだ。
彼を囲んでハーコート役ジェニファー・ホランドが凛々しさを見せ(なんとジェームズ・ガンのパートナー!)、アデバヨ役ダニエル・ブルックスは本作唯一の常識人として僕たち視聴者の拠り所となる。スティーヴ・エイジー演じるエコノモスの染ひげにまつわるモノローグは、中年男性の憐れな自尊心を見事に解体し、いつまでも胸に残る名シーンだ。そしてヴィジランテ(フレディ・ストローマー)のド級のアホっぷりに膝から崩れ落ちること必至である。普段はファミレス勤務のボンクラ白人にして殺人マシーンという一番の危険人物だ!
最終回もだからと言ってシリアスに話を畳むようなことはせず、グダグダなギャグとゴア描写満載のアクションを織り交ぜ、最後にはしっかり“ジャスティス・リーグ”までdisってここまでたったの44分(ちなみに『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』は242分)!ジェームズ・ガンの新作はファンとキャストの嘆願が叶って満を持しての『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第3弾だ。ガンの野郎、しっかりDCに爪痕残してMCUに帰っていきやがった!
『ピースメイカー』22・米
監督 ジェームズ・ガン、他
出演 ジョン・シナ、ダニエル・ブルックス、フレディ・ストローマ、ジェニファー・ホランド、スティーヴ・エイジー、チュクウディ・エイジ、ロバート・パトリック、ヌット・リー、アニー・チャン
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