いくらなんでもこれは分が悪いだろう。メキシコカルテルの資金洗浄に手を染めた一家の地獄巡りを描く本作は、先行する傑作『ブレイキング・バッド』の後継者と目されてきたものの、同時期にリリースされた『ブレイキング・バッド』前日譚『ベター・コール・ソウル』の類まれな完成度を前に、只々作劇の不手際を曝す事となってしまった。これで“アルバカーキサーガ”がいなければ評価も少しは異なったのかも知れないが、前後編2部作という勿体ぶった構成の最終シーズン4はまるで夜逃げでもするかのようにプロットを畳むばかりで、キャラクターアークには何1つ注目されていない。プロットを転がすためだけに新しいキャラクターが投入され、その最も効果的な役割は死ぬ事だけだ。“シリーズ終盤に登場するカルテル幹部”という、『ベター・コール・ソウル』のラロ・サラマンカと全く同じ立ち位置のキャラクター造形1つを取っても、本作の不足は明白である。
シーズン終盤はアマンダ・マルサリス監督が孤軍奮闘するものの、今や看板監督と言ってもいいジェイソン・ベイトマンは最終話までメガホンを取ることはなく、彼演じる主人公マーティ・バードの見せ場もほとんど他に譲って何とも気のない仕事ぶりだ。
それでも本シリーズが一定の功績を遺したことは書き記しておきたい。瀕死状態のシーズン4を救っているのはオザークのジェシー・ピンクマンことルース・ラングモアに扮したジュリア・ガーナーだ。第7話、ジェシーよろしく“面倒な犬”と化したガーナーは鬼気迫るパフォーマンスを見せ、続く第8話はシーズンベストの傑作回である。NaSの『N.Y. State Of Mind』の一節“The Cousin of Death”をタイトルとするこのエピソードで、従兄弟を殺され、復讐の鬼と化したルースがターゲットに迫る様は本シリーズの真骨頂とも言うべき神経衰弱ギリギリのサスペンスだ。彼女がラップの愛聴者というキャラクター設定も効いており、本作の真のギャングスタはルースである。ガーナーは3度目のエミー賞も受賞圏内、この才能を発掘しただけでも『オザークへようこそ』には価値があった。ここでシリーズが終了するのはガーナーにとってある意味、良かったのかも知れない。
今年のエミー賞ではローラ・リニーが主演女優賞、ジェイソン・ベイトマンが監督賞にノミネートされている。名女優にオザーク地方のマクベス夫人とも言うべき上質な役柄を4シーズンに渡って用意した功績は大いに評価すべきだ。シーズン4Part1ではゲスト監督にロビン・ライトが登板。主演作『ハウス・オブ・カード』同様、夫婦という共犯関係を描いた本作で同世代のリニーを後方支援している。本作でスリラー監督としての才能を開花させたベイトマンは最終回のみを担当。シーズンを救うには遅きに失した。
またエミー賞ではゲスト男優賞にトム・ペルフリーがノミネートされている。シーズン3の立役者でありながら選外となった彼への同情ノミネートはアカデミーの不明もいいところで、『オザークへようこそ』の失墜は彼を早々に退場させてしまった事に他ならない。
本作が初登場したのはドナルド・トランプが大統領に就任した2017年だった。資金洗浄のためボストンからオザーク地方へと移住し、地域産業を搾取していくマーティと、彼を翻弄する凶悪な地元マフィアの戦いは都市と地方、リベラルと保守、そして貧富の格差という2010年代後半に噴出したアメリカの分断と混沌を象徴するものだった。時勢を得た本作はしかしながら、マーティ一家同様に物語の出口を見失ってしまったのである。
『オザークへようこそ シーズン4』22・米
製作 ビル・ドゥビューク、他
出演 ジェイソン・ベイトマン、ローラ・リニー、ジュリア・ガーナー、ソフィア・ハブリッツ、スカイラー・ゲルトナー
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