第96回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞したムスチスラフ・チェルノフ監督は、スピーチの開口一番こう言った「私はここに立って、この映画を撮りたくなかったと言う初めての映画人です」。彼らAP通信取材班はウクライナ紛争開戦直後マリウポリ入りし、病院に密着取材する。徐々に包囲網が狭まる中、病院に担ぎ込まれてくるのはその大半が子供だ。戦争は本人の心身はもちろんのこと、居合わせた人々にも深い傷を与える。治療のかいなく命を落としていく子どもたちを前に、医療従事者たちは無力感に苛まれる。
開戦当初、私達が度々目にした現地映像はチェルノフ監督らチームによるものだった。ロシア軍によってインターネット通信も遮断された中、果たして彼らはマリウポリで起きている現実を世界に発信することができるのか?後半、映画は手に汗握る脱出劇となり、これがことの外“面白い”。事態の深刻さとは裏腹に、映画がいつ何時も娯楽性を持ち合わせてしまう事に「撮りたくなかった」という言葉が出たのかもしれない。決死の覚悟で撮られた映像に対し、国際舞台で「フェイクだ」と呼ばわったのがロシアであった事も決して忘れてはならない。
『マリウポリの20日間』23・ウクライナ
監督 ムスチスラフ・チェルノフ
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