長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『セカンドステップ 僕らの人生第2章』

2025-01-11 | 映画レビュー(せ)

 魔法使いたちが歌い踊り、剣闘士が血の雨を降らせ、CGの大海原がうねりを上げる…まったく私たち観客、すなわち“普通の人々”を描いたアメリカ映画はどこに行ってしまったんだ?そりゃあジェイソン・シュワルツマンでは華には欠ける。しかし、男やもめのユダヤ教先唱者が第2の人生を歩み始めるネイサン・シルヴァー監督・脚本の『セカンドステップ』は妙に心地が良く、しかも観客の気を引くスリルも兼ね備えているのだ。

 ベン(シュワルツマン)は地元のシナゴーグに務める先唱者。1年前、妻が不慮の事故死を遂げ、以来ミサでの先唱ができなくなってしまった。今は実家に出戻り、口うるさい母親たち(『逆転のトライアングル』ドリー・デ・レオンと、今や“ユダヤのおかん”とも言うべきキャロライン・アーロンが抜群に可笑しい)に再婚を促されている。そんなある日、小学校時代の音楽教師カーラ(キャロル・ケイン)と再会。彼女はユダヤ教に改宗しバト・ミツバを受けるべく、ベンにヘブライ語の指導を乞う。

 ネイサン・シルヴァーは“年齢を超えた友愛”なんて陳腐なヒューマンドラマに貶めることもなければ、“年の差愛”なんて俗っぽさにも陥らない。すっとぼけた甘い声音のキャロル・ケインにはどこかしら艶があり、ベンでなくとも好きにならずにはいられないチャームがある。111分という然るべき映画時間を心得たシルヴァーは2人の交流を積み重ね、気付けば彼らが分かち難い絆で結ばれているのは誰の目からも明らかだ。

 2024年は『リアル・ペイン』『ブルータリスト』などユダヤ系映画作家が自身のルーツを探る物語が相次いだ。何処から来て何処へ行くのか。そして現在(いま)なぜこんな事になってしまったのか。それは自省であり、アイデンティティの探求である。そんな最もパーソナルな想いが突き詰められた時、宗教を超えた普遍の感動と共感が映画には宿るのだ。


『セカンドステップ 僕らの人生第2章』24・米
監督 ネイサン・シルヴァー
出演 ジェイソン・シュワルツマン、キャロル・ケイン、キャロライン・アーロン、ドリー・デ・レオン、マデリン・ワインスタイン

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