※この記事は、月刊「正論12月号」から転載しました。ご購入は。
岸田文雄首相を誕生させることになった九月二十九日の自民党総裁選には、どんな意味があったのか。派閥に属しておらず、当初は泡沫候補扱いだった保守派の高市早苗政調会長のブームはなぜ起こり、どういう効果を生んだのか。安倍晋三元首相が果たした役割を中心に振り返りたい。
「いやあ、これだけの相手を一度に片づけてしまったんだから、安倍さんはすごい」
総裁選事情に詳しい自民党関係者は総裁選直後に、こう感嘆していた。
ここでいう「相手」とは、自民党の不人気の一因となっていた二階俊博前幹事長、世論調査では人気が高かったものの総理・総裁の座を担うには修行が足りなかった河野太郎広報本部長、安倍氏の背後から矢を射続け、総裁選では河野氏に付いた石破茂元幹事長、知名度は高くても中身がなく、同じく河野氏を推した小泉進次郎前環境相らのことである。
二階氏は総裁選で、いつものように勝ち馬に乗ることができず、何もできないまま役職を追われて求心力を失った。二階派も勢いを完全に失った。
河野氏は、安倍氏が支援した高市氏の勢いに押されて党員・党友票を思うように確保できず、自身の横柄で曖昧な言動もあって失速した。総裁選前の下馬評では、ダントツで逃げ切るとも言われていたが、国会議員票では高市氏の後塵を拝して三位にとどまった。
石破氏と小泉氏は、河野氏と合わせて人気者トリオの「小石河連合」を演じたものの、頼りの人気がたいしたことはないことを露呈することになった。日の当たる道を歩いてきた小泉氏は道に迷い、石破氏は「首相候補として完全に終わった」(総裁選候補の一人)として背景に没した。
ついでにいうと、国会議員引退後も自民党宏池会(岸田派)に隠然たる影響力を行使してきた古賀誠元幹事長も、軽くみてきた岸田首相の「親離れ」で、大きく力を削がれた。
自民党は、小石河連合が目指したものとは違う形で世代交代し、新陳代謝を果たしたといえる。二階氏や古賀氏に代表される古い自民党も、小石河連合のような小泉純一郎元首相以来のポピュリスト政党としての自民党も、ひとまず幕を下ろすことになった。
■保守的な無党派層の動向
この結果を安倍氏が明確に意図していたかどうかはともかく、安倍氏の一連の動きが果たした役割は大きい。
安倍氏がリベラル派の総裁候補ばかりでは、保守的な無党派層の自民党離れを加速させかねないとの危機感を抱いたことと、思想・信条の近い高市氏の覚悟をみて意気に感じたことが、総裁選の在り方を変えた。総裁選の終盤、河野氏を支持した石破派のある議員は、『西遊記』のエピソードを引いてこう語っていた。
「結局、安倍さんの手のひらで転がされただけだった。石破さんも(釈迦の手のひらから出られない)孫悟空に過ぎなかった」
また、前掲の自民党関係者はこう指摘する。
「総裁選前の八月の党の世論調査と、十月の調査を比べると投票先に自民党を選んだ無党派層が大きく増えている。自民党支持者も戻ってきた。まさに高市効果であり、安倍さんの狙い通りだ」
ただ、安倍氏も当初から高市氏を支持していたわけではない。官房長官として自身を七年九カ月も支えてくれた菅義偉前首相が予定通り出馬していたら、菅氏支援に回っていたのは間違いない。
安倍氏は七月中旬には周囲に「(自民党の票が伸びなかった)東京都議選を見ても、強固な自民党支持層が離れてきた。衆院選は危うい」と危機感を示していたが、菅氏以外の選択肢はなかったのである。
高市氏の総裁選出馬への意欲が明らかになってきた七月下旬には、安倍氏はこう漏らしていた。
◇
続きは、月刊「正論」12月号でお読みください。ご購入は。
「正論」12月号 主な内容
【特集 政治家・国民に問う】
モリソン豪首相の決意見習え 杏林大学名誉教授 田久保忠衛
誰が日本を滅ぼすのか グループ2021 安保環境の厳しさを語れ 東京外国語大学教授 篠田英朗×ハドソン研究所研究員 村野将
〝やってる感〟出したいアメリカの思惑 軍事社会学者 北村淳
TPPに乱入する中国の狙い チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫
仏研究所が警鐘 中国の沖縄浸透工作 産経新聞パリ支局長 三井美奈
これだけ向上した北朝鮮の攻撃力 軍事・情報戦略研究所長 西村金一
【特集 政権への注文】
正面から尖閣問題に向き合う覚悟示せ 八重山日報編集主幹 仲新城誠
拉致の〝異常〟に慣れきってないか 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)事務局長 横田拓也×家族会事務局次長 飯塚耕一郎
拉致被害者救出 政治が決断せよ 特定失踪者問題調査会代表 荒木和博
米国から聞こえる低調な岸田評を覆せ 麗澤大学特別教授 産経新聞ワシントン駐在客員特派員 古森義久
温暖化防止の本質は国益かけた経済戦争 産経新聞論説委員 長辻象平
「財務省の影」脱し思い切った財政出動を 上武大学教授 田中秀臣
緊急事態宣言は二度と必要ない 医師・元厚生労働省技官 木村盛世
左翼政策「こども庁」実現めざすのか モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授 麗澤大学大学院客員教授 高橋史朗
再生エネ礼賛で進む中国依存 姫路大学特任教授 平野秀樹
太陽光規制 地方の実情 福島県議会議員 渡辺康平
【特集 政局・秋の陣】
「甘利幹事長」人事のあまりのひどさよ 連載「元老の世相を斬る」 元内閣総理大臣 森喜朗
やっぱり恐ろしい安倍晋三という男 「政界なんだかなあ」 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比
立憲民主党幹部は共産党綱領読むべし 元衆議院議長 伊吹文明
▼「在日ウイグル人証言録④」帰りたくても帰れない 評論家 三浦小太郎
<証言1>アフラン「脅かされている家族」
<証言2>サダ―(仮名・男性)「早く日本に帰りなさい」
<証言3>イリク(仮名・男性)「息子との
通話は監視付き」
▼中共に忠実な「財新」が独立系メディアですか 本誌編集部
▼新連載 産経新聞の軌跡
昭和20年代編 第1回 戦後保守とリベラルの源流 評論家 河村直哉
岸田文雄首相を誕生させることになった九月二十九日の自民党総裁選には、どんな意味があったのか。派閥に属しておらず、当初は泡沫候補扱いだった保守派の高市早苗政調会長のブームはなぜ起こり、どういう効果を生んだのか。安倍晋三元首相が果たした役割を中心に振り返りたい。
「いやあ、これだけの相手を一度に片づけてしまったんだから、安倍さんはすごい」
総裁選事情に詳しい自民党関係者は総裁選直後に、こう感嘆していた。
ここでいう「相手」とは、自民党の不人気の一因となっていた二階俊博前幹事長、世論調査では人気が高かったものの総理・総裁の座を担うには修行が足りなかった河野太郎広報本部長、安倍氏の背後から矢を射続け、総裁選では河野氏に付いた石破茂元幹事長、知名度は高くても中身がなく、同じく河野氏を推した小泉進次郎前環境相らのことである。
二階氏は総裁選で、いつものように勝ち馬に乗ることができず、何もできないまま役職を追われて求心力を失った。二階派も勢いを完全に失った。
河野氏は、安倍氏が支援した高市氏の勢いに押されて党員・党友票を思うように確保できず、自身の横柄で曖昧な言動もあって失速した。総裁選前の下馬評では、ダントツで逃げ切るとも言われていたが、国会議員票では高市氏の後塵を拝して三位にとどまった。
石破氏と小泉氏は、河野氏と合わせて人気者トリオの「小石河連合」を演じたものの、頼りの人気がたいしたことはないことを露呈することになった。日の当たる道を歩いてきた小泉氏は道に迷い、石破氏は「首相候補として完全に終わった」(総裁選候補の一人)として背景に没した。
ついでにいうと、国会議員引退後も自民党宏池会(岸田派)に隠然たる影響力を行使してきた古賀誠元幹事長も、軽くみてきた岸田首相の「親離れ」で、大きく力を削がれた。
自民党は、小石河連合が目指したものとは違う形で世代交代し、新陳代謝を果たしたといえる。二階氏や古賀氏に代表される古い自民党も、小石河連合のような小泉純一郎元首相以来のポピュリスト政党としての自民党も、ひとまず幕を下ろすことになった。
■保守的な無党派層の動向
この結果を安倍氏が明確に意図していたかどうかはともかく、安倍氏の一連の動きが果たした役割は大きい。
安倍氏がリベラル派の総裁候補ばかりでは、保守的な無党派層の自民党離れを加速させかねないとの危機感を抱いたことと、思想・信条の近い高市氏の覚悟をみて意気に感じたことが、総裁選の在り方を変えた。総裁選の終盤、河野氏を支持した石破派のある議員は、『西遊記』のエピソードを引いてこう語っていた。
「結局、安倍さんの手のひらで転がされただけだった。石破さんも(釈迦の手のひらから出られない)孫悟空に過ぎなかった」
また、前掲の自民党関係者はこう指摘する。
「総裁選前の八月の党の世論調査と、十月の調査を比べると投票先に自民党を選んだ無党派層が大きく増えている。自民党支持者も戻ってきた。まさに高市効果であり、安倍さんの狙い通りだ」
ただ、安倍氏も当初から高市氏を支持していたわけではない。官房長官として自身を七年九カ月も支えてくれた菅義偉前首相が予定通り出馬していたら、菅氏支援に回っていたのは間違いない。
安倍氏は七月中旬には周囲に「(自民党の票が伸びなかった)東京都議選を見ても、強固な自民党支持層が離れてきた。衆院選は危うい」と危機感を示していたが、菅氏以外の選択肢はなかったのである。
高市氏の総裁選出馬への意欲が明らかになってきた七月下旬には、安倍氏はこう漏らしていた。
◇
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「正論」12月号 主な内容
【特集 政治家・国民に問う】
モリソン豪首相の決意見習え 杏林大学名誉教授 田久保忠衛
誰が日本を滅ぼすのか グループ2021 安保環境の厳しさを語れ 東京外国語大学教授 篠田英朗×ハドソン研究所研究員 村野将
〝やってる感〟出したいアメリカの思惑 軍事社会学者 北村淳
TPPに乱入する中国の狙い チャイナ監視台 産経新聞台北支局長 矢板明夫
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これだけ向上した北朝鮮の攻撃力 軍事・情報戦略研究所長 西村金一
【特集 政権への注文】
正面から尖閣問題に向き合う覚悟示せ 八重山日報編集主幹 仲新城誠
拉致の〝異常〟に慣れきってないか 北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)事務局長 横田拓也×家族会事務局次長 飯塚耕一郎
拉致被害者救出 政治が決断せよ 特定失踪者問題調査会代表 荒木和博
米国から聞こえる低調な岸田評を覆せ 麗澤大学特別教授 産経新聞ワシントン駐在客員特派員 古森義久
温暖化防止の本質は国益かけた経済戦争 産経新聞論説委員 長辻象平
「財務省の影」脱し思い切った財政出動を 上武大学教授 田中秀臣
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左翼政策「こども庁」実現めざすのか モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所教授 麗澤大学大学院客員教授 高橋史朗
再生エネ礼賛で進む中国依存 姫路大学特任教授 平野秀樹
太陽光規制 地方の実情 福島県議会議員 渡辺康平
【特集 政局・秋の陣】
「甘利幹事長」人事のあまりのひどさよ 連載「元老の世相を斬る」 元内閣総理大臣 森喜朗
やっぱり恐ろしい安倍晋三という男 「政界なんだかなあ」 産経新聞政治部編集委員兼論説委員 阿比留瑠比
立憲民主党幹部は共産党綱領読むべし 元衆議院議長 伊吹文明
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<証言1>アフラン「脅かされている家族」
<証言2>サダ―(仮名・男性)「早く日本に帰りなさい」
<証言3>イリク(仮名・男性)「息子との
通話は監視付き」
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昭和20年代編 第1回 戦後保守とリベラルの源流 評論家 河村直哉
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