吉崎達彦氏の意見がまっとう。
年の瀬である。アベノミクスもいよいよ2年目に突入する。
1年目はかなり良い成果を収めたといえるだろうが、
来年の課題はどこにあるのか。
今年の3つの成功を振り返りつつ、
来年の3つの課題を考えてみたい。
≪株高/雇用改善/成長率好転≫
1年目を振り返ってみると、アベノミクス最大の成果は、なんといっても円高を是正し、株高

を実現したことであろう。
株価は1年前のほぼ倍

となり、家計や企業に資産効果をもたらした。
このことは個人消費を押し上げ、企業の財務内容を改善してくれた。
くれぐれも、「もうかったのは金持ちだけ」などと言うなかれ。
個人年金の「日本版401K」の収支はもちろんのこと、公的年金の資産内容も良くなっている。
企業の新規上場計画も増えているようだ。
証券市場は「日本人全員のお財布」であるから、多々益々(ますます)弁ずと心得るべきである。
株高と円安のおかげで、日本企業には明るい気分

とリスクをとる余裕が生じている。
これで来年、設備投資や賃上げが続けば、そもそものアベノミクスの狙い通りデフレ脱却が視野に入ってくる。
企業がこれまで消極的になっていたのは、
リーマンショック後の国際金融危機、
東日本大震災などによる不透明性を嫌気していたことが大きい。
その意味では、来年も市場の安定を

維持することが欠かせない。
特に警戒すべきは長期金利の上昇であろう。
だからといって、今から新しい手立てを講ずる必要はない。
むしろ予定通り、税財政政策を着実に実施していくことが肝要である。
成功のその2は雇用情勢だ。直近のデータでみると、
失業率は4・0%にまで低下し

、
有効求人倍率も0・98まで改善している。
しかしそれ以上に重要なのは、働く人の実数が増えていることだ。
わが国の雇用者数はこの夏には5570万人と史上最高を更新している。
そのうち約3分の1が非正規であるとはいえ、
人口が減少

する中にあって雇用者の総数が

増えているのは、
健全な方向であることは間違いあるまい。
≪需要の「反動減」抑え込め≫
しかも、団塊世代が引退しつつある中で雇用者が増えているということは、企業の人員構成が若返っていることを意味する。
つまり賃上げが起きやすい状況だといえる。
過去5~6年は

就職氷河期と呼ばれ、いわゆる「ブラック企業」が跋扈(ばっこ)し、若者にしわ寄せが行ってしまった。
この点を修正すべき時期が来ているといえよう。
心配なのは、熟練社員が企業を去りつつある中で若い世代に必要な技能やノウハウの伝承が行われているかどうかだ。
JR北海道の最近の不祥事は、その失敗事例でもあるのではなかろうか。
社内のコミュニケーションを良くし、日本企業が本来の強みを取り戻すことも来年の課題となるだろう。
3番目の成功は昨年末の安倍晋三内閣誕生以来、実質GDP(国内総生産)が4四半期連続のプラス成長を続けていることだ。
今年7-9月期には、GDPは実額ベースで527兆円となり、
ようやくリーマンショック以前のピークである2008年第1四半期の530兆円にあと一歩のところまで迫っている。
来年はいうまでもなく、消費税増税という関門が控えている。
駆け込み需要の反動減をいかに小さくとどめるか。
既に5・5兆円の経済対策が用意されており、その効率的な投入が欠かせない。
その一方で、鉱工業生産など製造業に関するデータは、いまだにリーマン前の水準に届いていない
。通関統計を見ても、円安が続いているにもかかわらず、輸出の回復が思わしくない。
≪製造業力回復し原発再稼働を≫
思えばここ数年、製造業は国内の供給能力削減と生産拠点の海外移転を続けてきた。
円安で好機到来と思っても、すぐには増産が効かない態勢になっているのであろう。
あるいは国内需要の回復によって、輸出余力が低下していることも考えられる。
また、アジア新興国の生産能力向上に伴い、現地調達が増えて競争が激化している可能性もある。
いずれにせよ、製造業の競争力回復は、来年の重要課題ということになるだろう。
輸
出が伸び悩む一方で輸入は着実に増えている。
現時点では、ほぼ毎月1兆円のペースで貿易赤字が出ている。
この点は以前の日本経済との大きな違いといえる。
輸入で増えている品目には、通信機(スマホ)、医薬・医療品、衣料・同製品などが目立つ。
かつての貿易構造とは様変わりであるが、一方で高齢化が進むわが国で製品輸入が増えることは、決して間違ったことでもないだろう。
ただし、鉱物性原料の輸入拡大はいただけない。
原発が止まっているために化石燃料の輸入が増えているからで、
この分が3~4兆円分を占めているもようである。
安全が認められた原発は徐々に再稼働を認め、貿易赤字の縮小を目指すべきである。
これも来年の重要な課題といえよう。
(よしざき たつひこ)