府中駅の高架ホームに特急京王八王子行きが駆け込んでくる。
この7000系は、呑み人が学生時代にデビューした車両だから、ずいぶん貫禄がついたね。
さっきまでの眩しいハイビームを落として、新宿駅の3番ホームに特急が終着する。
LEDの行先表示はすでに折り返しとなる京王八王子に変わっている。今日は京王線で呑む。
地下2階の下り線ホームから這い出ると、駅舎という主を持たない駅前広場が広がっている。
11番のりばから三鷹行きのバスに乗って15分、久しぶりに足を延ばして深大寺そばを啜ろう。
深大寺はご存知のとおり天台宗の古刹で、釈迦如来像は国宝に指定されている。
どちらかと言えば「だるま市」とか「深大寺そば」の方が有名だろうか。
っと言うことで、如来様に手を合わせるのもそこそこに、護摩行の念仏が響く境内を抜けて、
門前に蕎麦挽く水車が回る蕎麦処の暖簾をくぐる。時間にして11時半、なんとか待つことなく席を占める。
この店の定番酒は出雲の “王録”、東京ではちょっと珍しいけど、出雲だけに蕎麦とは親和性があるだろうか。
五百万石で醸した超辛をチビチビやりながら蕎麦を待つ間が楽しい。
あとクラスに一杯を残したタイミングで、本日限定の “炙りきつねそば” が着丼する。
温かいそばに、おろし蕪、香り柚子、生海苔をのせて、この香りには冬を感じる。
そして最優秀助演は、香ばしく炙ったお揚げ、ほどよく出汁を含んでいるけど、パリッと食感もある。
先ずは木杓子でひと口出汁と香りを楽しんで、あとは一心不乱にズズっと啜る。美味しい。
調布を発った特急が飛田給という駅に臨時停車するという。なっ何ごと?こういう時は降りてしまうに限る。
コンコースに吊り下がる大きなサッカーボール、青赤と緑のフラッグ、そうか味の素スタジアムの最寄駅か。
人波に紛れてボクも駅から北へと流されてみる。歩くこと6〜7分、あっさりとスタジアムに至る。
どうやら真っ赤なジャージの東芝ブレイブルーパスの試合みたいだ。リーチ マイケルが所属するチームね。
納得がいったら、次の特急停車駅府中までコマを進める。
1990年代に連続立体交差事業を終えた府中駅は、高架ホームに駅ビルを併設した都会的な駅だ。
南口に抜けると「ラグビーのまち府中」のモニュメントを見つけた。
なるほど、東芝ブレイブルーパスとサントリーサンゴリアスの2チームが府中を拠点にしているからね。
そのまま欅並木を南に進むと大國魂神社の大鳥居を潜ることになる。
大國魂大神(おおくにたまのおおかみ)を武蔵国の守り神としてお祀りした神社は大きくて威厳に満ちている。
武蔵の国府もここに置かれたから、まさに武蔵の國の中心地であったわけだ。
府中を出ると、京王線は一旦進路を南に変え、やがて轟音を立てて多摩川橋梁を渡ると、
聖蹟桜ヶ丘の駅構内までかかる大きな右カーブを切る。こうして進行方向を西に向けると旅の終わりは近い。
聖蹟桜ヶ丘を過ぎると多摩丘陵が迫ってくる。高幡不動で動物園線を分岐し、
北野で高尾線を振り分けると、ほどなく地下に潜ってその旅を終える。
休日の終着駅は降車する人も疎で、堂々の10両編成は案外寂しげに折り返しまでの時間を過ごしている。
京王八王子駅前に徐々に街灯が点り始める。
10年前に京王線を呑み潰した時より、ずいぶん閑散としたなぁと思うのだが、
駅ビルの京王八王子ショッピングセンター(K-8)が閉鎖になったことが影響しているようだ。
今宵の一杯は京王八王子から徒歩5分、JR八王子からも離れる閑静な住宅街の店。
コンセプトは『農夫と尼の逢瀬』と言うから面白い発想、八王子野菜を使用というのも関心がある。
やはり生ビールで慣らし運転、お通しでさっそく八王子野菜が登場、華やかな盛り付けですね。
あなご棒鮨が美味しかったし、この生姜がまたいい。最初から日本酒で行くべきだったか。
“塩炒銀杏” を割りながら「今宵の目玉」と睨めっこ、よくできたお品書きだと思う。
甲州街道沿いに小さな酒造場がある。“桑乃都” は当に八王子の地酒だ。
“帆立をなめるな安岡盛り” という威勢のいいメニューを択ぶ。果たして安岡とは生産者か料理人か?
それでもチーズ焼きとバター焼きは1粒で2度おいしい。ちなみに呑み人は後者を推す。
二杯目は青梅の澤乃井酒造 “純米吟醸 蒼天”、旨味の豊な酒とお見受けした。
アテは “飯田葱のどろぶた巻き”、地元生産者の名前を冠しているだけあって、甘みのある美味しいネギだ。
これも出汁醤油とスパイス岩塩のハーフハーフで、抓まんでいて楽しい。
さて人気店の小上がりは、地元の方であらかた埋まって19:00。そろそろお暇しますか。
旨い多摩の趣向を堪能して、かなり満足度の高い京王線の旅なのです。
京王線 新宿〜京王八王子 37.9km
<40年前に街で流れたJ-POP>
いっそセレナーデ / 井上陽水 1984