筑豊本線の桂川(けいせん)駅の3番線、都会的なオールステンレスの4両編成が入線してきた。
両開きのドアから車内に一歩入ると、天井から降りてくる心地よい冷気にようやく人心地つく。
「福北ゆたか線」と愛称される篠栗線は、福岡と筑豊を結ぶ通勤通学の足として、20分ヘッドで電車が走る。
桂川から篠栗の区間は1968年の比較的新しい開業、トンネルと鉄橋が連続する山岳区間だ。
小さな橙色のとんがり帽を頭に載せた駅舎が可愛らしい篠栗駅。
ここから終点の吉塚駅までの区間は明治37年に開業している。もちろん石炭輸送を担うためだ。
篠栗折り返しのダイヤもあるから、ここから先はかなりの運行頻度になってくる。
それでも全線単線なので、だいたい2駅毎に下り電車と交換する感じなのだ。
車窓は一転、隙間なく宅地が並んで、なるほど150万都市・福岡のベッドタウンであることを実感する。
電車が山陽新幹線を潜って高架に駆け上ると、正面にマンション群が見えてくる。
4両編成がゆっくりと左カーブすると、鹿児島本線の複線が寄り添ってきて吉塚駅5番ホームに滑り込む。
延長25キロ、所要40分の短い篠栗線の旅はここで終わり、呑み人はひとり813系電車を見送る。
ステンレスのボディーに西日を反射させ、電車は一つ先の博多へと並走する山陽新幹線を追いかけて行く。
夕方の吉塚駅に向かう人並みが半端ではない。人混みに逆らって県道の交差点を渡る。
なるほど、駅の西側には威圧的な福岡県庁舎がでんと構え、さらにその先には九大病院の敷地が広がる。
亀山上皇銅像を戴く東公園をぐるっと巡ったら、予定調和で駅前の酒場に吸い込まれてみる。
席を占めたのはカウンターの角、目の前に “もつ煮込み” の大鍋が雰囲気を出している。
今日も暑い中を歩いたから、先ずはキンキンに冷えた “サッポロ生” を呷る。美味いねぇ。
お通しは “珠どうふ” にたっぷりの “しらす” をトッピングしてもらって、訳もなくハッピーな気分になる。
地酒は八女の喜多屋 “蒼田ブルー”、山田錦を磨いた上品な芳香とふくよかな味わいの純米吟醸酒だ。
アテは対馬に揚がった “本マグロ盛り合わせ”、洒落た器に中トロ、炙り、漬け、ネギトロと華やかに並ぶ。
店推しの “梅タルタルで食べるアジフライ” が、夏のひと皿らしく、さわやかに美味しい。
そして二杯目の “喜多屋” は50%磨きの純米大吟醸、フルーティーな香りと芳醇で深い味わいの一杯がいい。
“日南鶏の鶏天” はポン酢でいただく。さらに和がらしをたっぷり付けて、ツンとくる位が美味しい。
一度訪ねてからお気に入りになった “三井の寿” は三井郡大刀洗町の蔵、日本酒度+14の大辛口。
辛いだけじゃない爽快な旨口の酒を愉しみながら、夏の福岡に夜がやってくる。んっ、やはり出張はいい。
篠栗線 桂川〜吉塚 25.1km 完乗
酒と泪と男と女 / 河島英五 1981