旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

紅いランタンが連なる非情城市

2024-08-10 | 旅行記

紅いランタンが連なる狭い豎崎路の階段が、東シナ海へと落ちて行く。
日が暮れた頃にこの階段を見上げたら、きっと異世界に迷い込んだ様な気持ちになるのかも知れない。

平渓線で呑んで瑞芳(ルイファン)車站まで戻ってきた。
幹線である宜蘭線の駅だが、平渓線の列車はたいていこの駅の発着だからだ。
そしてここは「非情城市」九份のゲートウェイでもある。

臭豆腐が匂う町並みを1ブロック進んで、區民廣場というバス停から金爪石ゆきの路線バスに乗ると
(酔うほどに曲がりくねった山道を飛ばして)概ね15〜20分で九份のメインストリートまで運んでくれる。

バス停からメインストリートの基山街に迷い込む。
びっしりと並んだスイーツの店、食堂、みやげもの屋が左右から庇を投げかけてアーケードを作る。
そして人、人、人。さながら夏祭りの縁日か、台北のあちらこちらに立つ夜市の様だ。

九份は19世紀末に金鉱が発見され一時期賑わいを見せた。狭い路地や石段は日本統治時代のものだ。
金鉱が枯れて急激に寂れた町は、今度は20世紀末に映画「非情城市」のロケ地になり、
このノスタルジックな街並みは再び脚光を浴びる。

豎崎路の「阿妹茶樓」は、宮崎アニメ『千と千尋の神隠し』の油屋のモデルになったという説がある。
まぁ噂の類だろうけど、その雰囲気を味わいたいのなら、やはり暮れてから訪ねるのがいい。
九份は3度目、たぶんこれが最後だと思うと、ミーハーにもこの茶藝館に入ってみる気になった。

夏の日が狂った様に照りつけた午後だけれど、海からの風が微かに簾を揺らしている。
花柄の小さなポットが結露するほどに冷えたお茶が心地よい。
空と海の色が変わって、灯が点る時間までこうしていたい気分になるね。

茶藝館のテラス席で風に吹かれて、汗がひいた頃に瑞芳の町に降りてきた。
台北に戻る列車は、これまたノスタルジックな「莒光号」に当たった。
静かに心地よく揺れる客車のシートに身を委ねて、台北までの1時間をうつらうつらするするのも愉しい。
ずいぶん遠くまで、いや遠い昔まで旅した一日が暮れて行くのだ。

<40年前に街で流れたJ-POP>
桃色吐息 / 高橋真梨子 1984