天竜川に寄り添って飯田線を北上中。幾つか秘境駅も通りながら。
全長196km、東にも西にも逃げられない。呑み潰しにはかなりハードなローカル線だ。
起点の豊橋、路面電車も走っているんだね。豊橋鉄道はまた別の機会に。
ワンマン運転の2両編成で、細かく刻んで、まずは豊川をめざす。
キツネも踊る豊川駅前広場。豊川稲荷の最寄り駅だからね。
豊川稲荷って神社ではないんですね。圓福山妙嚴寺、曹洞宗の寺院です。
お祀りするのは見目麗しき霊神、吒枳尼眞天(だきにしんてん)。
この霊神が白い狐に跨って真言を唱えていることから「稲荷」と通称されたそうだ。
圧巻なのは霊狐塚。祈願成就の御礼に信者が奉納したお狐様が、大小800体ほど祀られる。
参道の「曽我の軒」はもともと鰻屋、"鰻まぶしいなり寿司" が絶品。
ふっくらやわらか絶妙に焼き上げた鰻と、軽めに味つけた油揚げとよく合うのだ。
第2走者は天竜峡行きの2両編成。首都圏では見かけなくなった一世代前の湘南電車。
JR東海のローカル列車はクロスシート、テーブルは無いものの窓枠は幅広だ。
よって、沿線は設楽町の "蓬莱泉・生酒" のスクリューキャップを切る。
軽やかな味わいなので、チーズとわさび風味の柿ピーを抓みながら、天竜川を眺める。
暮れかる天竜峡駅に終着。県境の秘境駅など停車しながら、いつの間にか信州なのだ。
乗り継ぎの岡谷行きをやり過ごして天竜峡を散策してみる。
通学の便か、この時間帯の飯田方面は30分に1本走っているからね。
天龍川の清流によって侵蝕された景勝地・天竜峡、健脚なら30分ほどで散策路を巡れる。
展望台から見下ろす吊り橋、吊り橋からの芙蓉峒、龍角峯が見どころだろうか。
第3走者は岡谷行きの3両編成。このまま乗車すると今日中に呑み潰せる。
でも折角なので沿線の中心都市・飯田に投宿、酒場で地酒を愉しむことにしよう。
「いざかや縁」のカウンターで、常連さんに交じる。
"明鏡止水・垂氷" は厳寒期に醸す旨みとキレを兼ねそろえた槽しぼりの純米酒。
肴は名産の "長芋の千切り"、山葵と海苔で美味しい。
信州と云えば "馬刺し"、まっ旅先だから、ネギやらニンニクやらふんだんに絡めるのだ。
"喜久水" は南信州唯一の蔵元、飯田の地酒だ。きりりと冷えた生貯蔵酒が美味い。
第4走者は05:45発 "快速みすず"、長野まで走る3両編成。
スカイブルーとエメラルドグリーンのラインは信州のイメージにぴったりだ。が......
このJR東日本の車両はオールロングシート、ローカル線にあって旅情より機能は寂しい。
駒ヶ根06:44着、ここで長めの途中下車。始発バスで駒ケ岳ロープウェイをめざす。
麓のわらび平駅から7.5分、パノラマを眺めながら2,612mの千畳敷駅まで駆けのぼる。
ちょうど霧が晴れて宝剣岳(2,931m)が、その凛々しい姿を見せてくれた。
荒々しい岩峰の直下に、氷河によって削り出された "千畳敷カール" は、天空の花畑。
ヨツバシオガマ、コバイケイソウ、ハクサンイチゲ、ミヤマアキノリンソウ、ミヤマリンドウと。
んっと、覚えきれないけど、ひとつひとつが可憐で美しい。
駒ヶ根から乗車した第5走者は上諏訪行きの2両編成。これもJR東海の車両。
辰野11:44着。ここで飯田線の旅は終わる。この分岐はどちらへ行っても中央本線だ。
列車はこのまま中央本線に乗り入れる。釜口水門まで天竜川の旅に付き合うそうだ。
"ほたるの町" 辰野も中心街は寂しいことになっている。
冷房もない神田食堂、金足農業の吉田くんの力投、職人さんが焼酎の水割りを呷る。
それでは遠慮なく、辰野の地酒 "夜明け前" を燗でいただく。肴は瓜の浅漬けだ。
程よいところでこの地方の名物ソースカツ丼を味わって、ボクの飯田線の旅が終わる。
飯田線 豊橋~辰野 195.7km 完乗
Mr・サマータイム / サーカス 1978