旅の途中

にいがた単身赴任時代に綴り始めた旅の備忘録。街道を歩いたり、酒肴をもとめてローカル線に乗ったり、時には単車に跨って。

甲虫兄弟と排骨酥面と葡萄啤酒と 内湾線・六家線を完乗!

2024-09-30 | 呑み鉄放浪記 番外編

長い直線区間、ずいぶん前に前照灯の煌めきを見た気がしたけれど、
待つこと数分、ようやく2両編成のDRC1000型気動車が竹東車站に入ってきた。
新竹から山間部へ28キロ、この日は内湾線のディーゼルカーに揺られている。

台北09:00発の自強号に乗って70分、台湾のシリコンバレー新竹にやってきた。
内湾線はここ新竹車站を起点に、頭前渓を遡って竹東そして内湾を結んでいる。
元々は石炭輸送を目的に敷設されたらしい。戦後、台湾鉄路管理局が開業させた路線だ。

跨線橋を渡って内湾線の第三月台、気動車が待っていると思いきや、深青の4両編成の電車が止まっている。
どうやら台湾新幹線の新竹駅に繋ぐために、途中の竹中車站まで電化・高架・複線に生まれ変わったらしい。

ところで台鉄の新竹車站は、バロックとゴシックがコラボした1913年の生まれ。東京駅とは姉妹駅だ。
ハイテクの町だけど、車站を中心とした旧市街は清代、日本統治時代の旧い建築物が残っている。
それでは内湾線に揺られる前に、この旧い街並みをぶらり。

新竹車站を背にして正面に見えるのが(東門城)竹塹城迎曦門だ。
このロータリーから道路は放射状に延びているから、名実ともに新竹の中心であると言っていい。

東門城のロータリーを左手(西)へ進むと、この地方の守護神である城隍爺を祀る城隍廟。
おそらくこの町で最も賑やかな場所だと思う。
きらびやかな廟は、ビーフンや竹塹餅などの名物を売る屋台に囲まれて、全体を見渡すことはできない。

新竹州庁(新竹市政府)は煉瓦造りの2階建て、主要部は洋風で瓦葺き屋根の和洋折衷だ。

新竹市美術館(新竹街役場)は、こちらも赤煉瓦造りに日本式の屋根瓦を載せて美しい。

深青のMU500型は北新竹で本線(西部幹線)と離れて大きく左(東)へカーブを切る。
IT企業のビルディング群を抜け、高速道路を潜り、旧市街とは打って変わって先進都市の風景だ。

この深青の4両編成とは4つ目の竹中でお別れ、時間にして15分、席が温まる間もない。
電車は緩やかにカーブを切って視界から消える。一区間の支線を走って台湾新幹線に接続する。

第一月台に移って待つこと10分、2両編成のDRC1000型気動車がディーゼルエンジンを唸らせてやってくる。

竹中を発った2両編成はすぐさま高架を降りると、ガクンとスピードが落ちるのが分かる。
車両は左右に揺れ、広葉樹の枝が右から左からムチのように窓を叩く。これぞローカル線的風景ではある。

狂ったように冷気を吹き出す空調、わずかな乗客、窓はあっという間に白く曇っていく。
それでも新竹車站のキオスクで買った350mlをプシュッと開ける。トンと窓際に置いたら呑み鉄の始まりだ。
久しぶりのキリンに期待したけれど、この “Bar BEER” は現地生産もの、慣れ始めた台湾の味だ。

3つ目の竹東は沿線で最も賑やかな駅、内湾線の交換駅でもある。少し遅れて上り列車もやってきた。

月台で迎えてくれるキャラクラーは「甲虫兄弟」というらしい。
可愛らしくも、少し憎たらしげな表情をする奴も混じっていて、なんだか楽しい。

夏の陽がほぼ真上から容赦なく照りつけて、紅の瓦がギラギラと輝いている。
待合室には大きな扇風機が回っていて、どこかで見たことがあるような無いような、懐かしさを感じる駅だ。

客家人とは福建省や、広東省から移民してきた人たちのことで、竹東は客家人口が多いらしい。
竹東客家市場をぶらり、この辺りの生活様式を覗いてみようと思ったけれど、店はまだ準備中。

少し足を伸ばした蕭如松芸術パークは、水彩画家 蕭如松の住宅とその一角を一般公開している。
日本家屋が、ギャラリーやイベントスペース、カフェになっていて雰囲気がある。

ローカルな客家料理の店数軒にフラれて(時間が悪かった)、結局駅前の「竹東排骨酥面」へ。
コンクリート打ちっぱなしの店は、ちょっと辺りの建物から浮いている。

メニューにビールが無いのを知ってちょっとがっかり、でも暑い中熱い料理を食すのに慣れてきた3日目。
黄色い複写式の注文票の “牛肉麺” にチェックを入れる。

セルフになっている滷味(煮込料理)を、一つ二つと突っついていると “牛肉麺” が着丼。
ちょっと酸っぱい?スープ、刀削麺的な太麺、じっくり煮込んだ牛肉、これは美味しい。

ふたたび竹東車站、1時間に1本の気動車がやってくるまでは、憎たらしげな甲虫兄弟と戯れる。
旧いレールを柱や梁にした昔ながらのプラットホームに、列車案内だけがデジタルなのが妙味だ。

13:10発の下り列車で内湾線の旅を仕上げる。
お約束通り2分遅れで到着する上り列車を待って、2両編成の気動車がガクンっと動き出す。

デーゼルエンジンを唸らせて頭前渓の長い鉄橋を渡ると、気動車はいよいよ狭い谷間を上り始める。

キーンキーンと甲高い摩擦音を響かせて、右へ左へ半径の小さなカーブは続く。
ここらでプシュッっと、台湾ビールが出しているご当地もの “葡萄啤酒” を開ける。
六角精児バンドの「デーゼル」を聴きながら、時々トンネル、時々グビリとビール。甘すぎるなぁコレ。 

広大なセメント工場のヤードが残る九讃頭車站、恋人たちの聖地となった愛情(合興)車站に停車して、
いよいよ終点の内湾車站に到着する。新竹から乗り通せば、ちょうど1時間の旅になる。
って宇宙人の少女?ここでも奇妙なキャラクターが迎えてくれた。

かつての内湾車站は、林業や炭鉱業で賑わっていたと言う。
なるほど単式ホームは、2両編成の気動車が停まるためだけには、あまりにも長いのだ。

水色のタイルを貼った駅舎の木枠の窓は全開で、天井から大きな扇風機が淀んだ空気をかき混ぜている。
木製の椅子には、ランニングシャツの小父さんがが茶を飲んでいる。列車に乗るアテもないのだろうに。

近年のレトロブームに乗っかって、週末には観光客が溢れ、人気を集める内湾老街。
客家ちまきや、擂茶、麻糬などを頬張りながら歩いたら、きっと楽しい。

町はずれの内湾吊橋を渡ってみた。夕立後の対岸には亜熱帯の森が緑を濃くしている。
子どもが走って、揺れる吊橋から上流を眺めると、油羅渓の風景が雄大だ。

1時間後、呑み人はふたたび竹中車站に立っている。
最初に乗った深青の4両編成で、台湾新幹線と連絡する六家までのひと区間を乗車する。

深青の4両編成は左90°の大きなカーブを切って、新幹線と並走して頭前渓鉄橋を渡るとほどなく六家、
目の前に現れる無数のオフィスビルとタワーマンションに吸い込まれていくかのようだ。

のどかな田園風景と、レトロな老街での食べ歩きを楽しむ内湾線の旅。ゲートウェイの新竹までは、
台北から臺鐡の特急で70分、高鐡の新幹線で35分。なるほど小さな旅やデートコースにちょうど良い。
かく言う呑み人も、新幹線で台北に戻ってから呑み直すつもりなのだ。

内湾線 新竹〜内湾 27.9km 完乗
六家線 竹中〜六家   3.1km 完乗

<40年前に街で流れたJ-POP>
夏の日 / オフコース 1984



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