先日のニュースから。『東京都港区のマンションで先月、97歳の母親と2人暮らしだった女性(63)が8日間にわたり自宅トイレに閉じこめられた。女性が見舞いに来なくなったことを心配した入院中の母親が、看護師に安否確認を依頼。女性は救助されたが、母親はその日に永眠した。「母は、寿命を早めることで私を助けてくれたのだと思う」。女性は自らの身に起きた出来事をそう振り返った』。
老々介護の果てに親を殺すという話も珍しくない昨今、会社を退職して母親の介護に当たっていたという孝行娘の話にはホッと心が温まる。1人暮らしの身に起きたアクシデント、最悪の場合、助からない可能性もあったろうに、母親の訴えから無事に救出されたということは、孝行娘への神仏のご加護があったということであろう。
「一寸先は闇」で、何が起きるか分からないものである。女性は救助後、トイレ内での暮らしや心情を手記につづったそうだが、この女性の意志の強さと冷静さに感服した。
1日目 「ドアをドンドンたたき、何度も叫んだが無反応。脱水状態になると思い、手洗い水を飲んでみたら意外とおいしく感じた。(トイレに置いてあった)お清め用の塩で歯茎をマッサージ。夜はまんじりともせず」
2日目 「隅々の掃除と便器を徹底的に磨いた。しばらく暮らすとなるときれいにせずにはいられなかった。スクワットやラジオ体操をして足慣らし」
4日目 「唯一の頼みは病院が連絡してくれること。お願いだから気づいてよ!」
5日目 「床に身体を『く』の字にして横になったら少し眠れた。不思議とそれほど空腹感はなかった。書くものがあれば遺言を書いておくのに…」
6日目 「会社に勤めているときであれば1日無断欠勤しただけで、おかしいと家に訪ねてきてくれるであろう。お一人さまとはこういうことなのか」
7日目 「夜中に電話のベルが鳴った。具合が悪くなっているか、殺されているか、どちらかと思わないのか! 泣きたいと思っても、不思議と涙が出ない。明日こそは、母に会えると期待した」
8日目 「ついに救出された。私は助かった! とやっと涙が出た」
実は私もこれに似た経験がある。もう25年以上も前のことだが、私の場合はお風呂だった。当時、住んでいたのは新築の3階建ての左端の部屋で、右隣は空き部屋。ここの風呂の戸はおかしくて、外側のドアノブの真ん中のボタンを押して鍵を掛けるようになっていて、中からは掛からない。多分、戸を左右反対に取り付けたのではないかと思う。
夕方、早めに風呂に入って、いざ出ようとしたら戸が開かない。何かの拍子にドアノブのボタンが押したままになっていたのか、押せども引けどもビクともしない。もうパニック状態で冷や汗が止まらない。その頃は家でタイプ製版の下請けをしていたので、仕事が出来上がらなければ出てゆかないし、土・日のアルバイトは行かなかったら変だとは思うだろうが、身内でもなければすぐに大騒ぎはしてくれまい。
どのくらい時間がたったか、なすすべもなく虚脱状態だった。このまま死ぬのか。でも、水はふんだんにあるから当分は生きられるだろうが、餓死するのは辛いだろうなあ。裸で見つかるのは恥ずかしいなあ。――などなど、色々考えたことを覚えている。
戸のガラスを割ろうにも硬いものがない。他に何かないかと見回すとぶら下がった小籠が目に付いて、中にヘアピンが1本があった。これで鍵を開けられないかと伸ばして鍵穴につっこみガチャガチャやってみたが、空き巣狙いでもなければ開けられるわけがない。でも、これしかないので無我夢中でガチャガチャやっていたら、なんと開いたのである。
どうして開かなくなったのか、それよりも鍵が壊れたのでもないのにどうして開いたのか、まるで狐につつまれたようであった。そのときのうれしさはいい表せないが、それ以上に密室に閉じ込められた恐怖感は、今思い出しても鳥肌が立ってくる。以来、お風呂もトイレも戸を少しあけたままでなければ入れない。これがトラウマというものであろう。
今回の当事者の女性が、「お一人さまとはこういうことなのか」と思ったという心情には、私も大いに共感できる。1人暮らしは気ままなようであっても現実は厳しいのである。
老々介護の果てに親を殺すという話も珍しくない昨今、会社を退職して母親の介護に当たっていたという孝行娘の話にはホッと心が温まる。1人暮らしの身に起きたアクシデント、最悪の場合、助からない可能性もあったろうに、母親の訴えから無事に救出されたということは、孝行娘への神仏のご加護があったということであろう。
「一寸先は闇」で、何が起きるか分からないものである。女性は救助後、トイレ内での暮らしや心情を手記につづったそうだが、この女性の意志の強さと冷静さに感服した。
1日目 「ドアをドンドンたたき、何度も叫んだが無反応。脱水状態になると思い、手洗い水を飲んでみたら意外とおいしく感じた。(トイレに置いてあった)お清め用の塩で歯茎をマッサージ。夜はまんじりともせず」
2日目 「隅々の掃除と便器を徹底的に磨いた。しばらく暮らすとなるときれいにせずにはいられなかった。スクワットやラジオ体操をして足慣らし」
4日目 「唯一の頼みは病院が連絡してくれること。お願いだから気づいてよ!」
5日目 「床に身体を『く』の字にして横になったら少し眠れた。不思議とそれほど空腹感はなかった。書くものがあれば遺言を書いておくのに…」
6日目 「会社に勤めているときであれば1日無断欠勤しただけで、おかしいと家に訪ねてきてくれるであろう。お一人さまとはこういうことなのか」
7日目 「夜中に電話のベルが鳴った。具合が悪くなっているか、殺されているか、どちらかと思わないのか! 泣きたいと思っても、不思議と涙が出ない。明日こそは、母に会えると期待した」
8日目 「ついに救出された。私は助かった! とやっと涙が出た」
実は私もこれに似た経験がある。もう25年以上も前のことだが、私の場合はお風呂だった。当時、住んでいたのは新築の3階建ての左端の部屋で、右隣は空き部屋。ここの風呂の戸はおかしくて、外側のドアノブの真ん中のボタンを押して鍵を掛けるようになっていて、中からは掛からない。多分、戸を左右反対に取り付けたのではないかと思う。
夕方、早めに風呂に入って、いざ出ようとしたら戸が開かない。何かの拍子にドアノブのボタンが押したままになっていたのか、押せども引けどもビクともしない。もうパニック状態で冷や汗が止まらない。その頃は家でタイプ製版の下請けをしていたので、仕事が出来上がらなければ出てゆかないし、土・日のアルバイトは行かなかったら変だとは思うだろうが、身内でもなければすぐに大騒ぎはしてくれまい。
どのくらい時間がたったか、なすすべもなく虚脱状態だった。このまま死ぬのか。でも、水はふんだんにあるから当分は生きられるだろうが、餓死するのは辛いだろうなあ。裸で見つかるのは恥ずかしいなあ。――などなど、色々考えたことを覚えている。
戸のガラスを割ろうにも硬いものがない。他に何かないかと見回すとぶら下がった小籠が目に付いて、中にヘアピンが1本があった。これで鍵を開けられないかと伸ばして鍵穴につっこみガチャガチャやってみたが、空き巣狙いでもなければ開けられるわけがない。でも、これしかないので無我夢中でガチャガチャやっていたら、なんと開いたのである。
どうして開かなくなったのか、それよりも鍵が壊れたのでもないのにどうして開いたのか、まるで狐につつまれたようであった。そのときのうれしさはいい表せないが、それ以上に密室に閉じ込められた恐怖感は、今思い出しても鳥肌が立ってくる。以来、お風呂もトイレも戸を少しあけたままでなければ入れない。これがトラウマというものであろう。
今回の当事者の女性が、「お一人さまとはこういうことなのか」と思ったという心情には、私も大いに共感できる。1人暮らしは気ままなようであっても現実は厳しいのである。
確かに、トイレのドアノブが壊れた時に私が新しいのに付け替えたのですがノブを回す方向が逆だと開かないものに変えたので、最初は時々開かなくてパニックになりました。
家族も同様で、大ブーイングを食ったものです。
大昔のことを思い出して、この女性の心情がよく分かりました。それにしても、この方の精神力はすごいですね。テレビに出ておられましたが、想像通りのしっかりした女性のように見えました。
私の場合はお風呂だからトイレよりは広いし、水はあるからそれだけでもましですが、狭いトイレだったら閉所恐怖症気味のある私は狂っていたかもしれません。
1人暮らしはあらゆる出来事を想定して冷静に対処できる強さがなければいけないと思いましたね。