ノエルのブログ

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引き裂かれたカーテン

2021-04-18 17:31:35 | 映画のレビュー

ヒッチココックの「引き裂かれたカーテン」を観る。

二週間前にはじめて観たのだけど、あんまり面白くてもう一度観てしまった。ヒッチコック映画には、そんなに詳しくない私。こんな題名の映画があることも、今までつゆとも知らなかった……惜しいことをしたもの…。

この映画は、スパイスリラーともいうべきもので、制作されたのは1966年。東西冷戦たけなわなりし頃で、このタイトルの「カーテン」というのも東西陣営をわける「鉄のカーテン」のこと。 時代を経て観ても、とても面白い。主演が油の乗り切った頃のポール・ニューマンに、ジュリー・アンドリュースという組み合わせも、とても刺激的。この二人が、スパイ物で、婚約者同士を演じるだなんて! 意外だけれど、とてもしっくりくる配役ではなかろうか。

ストーリーをかいつまんで言うと、アメリカの物理学者アームストロングは、学会のため、恋人のサラ・シャーマンと共に、スウェーデンに来ているのだが、そこでπという人物に接触しろという指令を受けて、東ドイツに渡る。ところが、婚約者のサラがアームストロングの不審な行動に気づいて、彼の後を追って東ドイツ(つまり、鉄のカーテンの向こう側)にやって来たから大変。

アームストロングは、東側に寝返った物理学者として東ドイツで歓迎されるのだが、彼が国を裏切ったと確信したサラは深いショックを受けてしまう。だが、彼を愛するがゆえに東ドイツにとどまる決意をする。本当を言えば、アームストロングはライプチヒ大学のリント教授が発見した重要な公式を盗むため、東側に亡命したと見せかけていたスパイだったのだ。

 

       

このポール・ニューマン演じるアームストロングが西側の諜報部員であるπの農場へ出かけてゆくシーンはとってもスリリング! 彼の見張り役であるクロフツを巻くために、ベルリン美術館の裏口から脱出して、農場へ向かうも強者のクロフツにかぎつけられてしまう。

この郊外なる農場はいかにも、当時の社会主義国という感じのするもので、なぜか観ているうちに中学時代社会の教科書で読んだソ連の「ソフホーズ」「コルホーズ」という言葉を思い出してしまった。

その農家にいたπの妻と言葉の通じない身振り手振りの会話を交わしているところに、クロフツが入りこんでくる。「お前は、やはりスパイだったんだな」と息巻くクロフツは、電話をかけてアームストロングを当局に引き渡そうとする。その電話機をπの妻が叩き壊し、ついでアームストロングに襲いかかるクロフツを、農作業用の鎌か何かで、バシンバシンと頭を叩き割るところで、思わず唖然としてしまった。この農婦って……すさまじい底力がある……。

だが、それでもクロフツはなかなかお陀仏とはならず、アームストロングと彼女は彼をガスオーブンの方へ引きずって行き、その頭をオーブンの中に入れる。コックを捻ると、ガスが飛び出してきて、クロフツは死んでしまうのだが、この時、その指が断末魔のダンスを踊るところが怖い。 このシーンだけで、いうまでも網膜に焼き付いてしまいそうな迫力である。

物語は二転三転し、アームストロングとサラの二人は西側へ脱出するために、運行バスをよそおった偽物のバス(こんな風に、亡命者を逃がす方法があったなんて、目からウロコ)に乗ったり、奇妙なポーランドの伯爵夫人の手引きで、秘密のメッセージが受け取れる郵便局へ行ったりと大冒険をするのだが、冷戦当時は本当に、こんなことがあったに違いない。

そして、最も面白かったのは、東西冷戦当時の空気感が画面から、ひしひしと感じられること。西側と東側を往来するバレエ団の存在や、東ベルリンのいかにも、「社会主義」を感じさせる整然たる街並み。 少し見当はずれな連想かもしれないけど、ソフィア・ローレン&マルチェロ・マストロヤンニの「ひまわり」を思い出してしまった。あの映画も、当時初めてソ連でのロケが許されたとかで、マストロヤンニを追って、モスクワまでやって来たソフィア・ローレンが巨大な駅の長い長いエスカレーターを上がってゆくシーンがとても印象的だったもの。 広告看板など一切ない無機質で整然とした街や、そこに漂う寂寥感など、「これがモスクワの空気なのか」と当時中学生だった私は感じ入ったことを懐かしく思い出す。

二十世紀は遠くなり、東西冷戦という時代が存在した記憶も薄れゆく今、この「引き裂かれたカーテン」はとてもスリリングで、一種の郷愁さえ呼び覚ますものだった。ぜひ、当時を知らない若い人たちにも観てほしい。

こんな面白い映画、きっと脚本もしっかりしているのだろうなあと思っていたところ、原作があることを発見! 早川ポケットミステリから、過去に翻訳されていたのだとか。できたら、この原作も読みたいな。

 

おまけ:観ていて、なぜか私が中学生の頃愛読していた青池保子の少女マンガ「エロイカより愛をこめて」をも、思い出してしまった。そのマンガは、当時東側からの亡命者が多かったウィーンやヨーロッパ各地を舞台にして、怪盗エロイカとNATOの少尉(だったかな?)が渡り合うスパイ物だったのだが、深刻な時代背景など感じさせぬ洒落た味わいの漫画でありました。あなたは、知ってる?

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