映画「世にも怪奇な物語」を見る。1967年の映画である。実は――この映画の存在はよく知っていたのに、一度も見たことがない!(私の場合、若い頃読んだ、ダイジェスト版だけで、映画を観た気になっていることが多いです。これも、問題だなあ……)
そして、ようやく巡り合えたこの映画、期待にたがわず、面白かった! 一言でいえば、エドガー・アラン・ポーの短編を三つ取り上げたオムニバス映画なのですが、これらの監督と出演スターがふるっている!
何と、一話目の「黒馬の哭く館」はロジェ・バディム監督。主演が若かりし日のジェーン・フォンダ。
二話目の「ウィリアム・ウィルソン」の監督がルイ・マル。主演がアラン・ドロンに、相手役がブリジット・バルドー。
三話目の監督が、巨匠フェデリコ・フェリーニ。主演がテレンス・スタンプ。
どうです? 映画史に残る、垂涎もののキャスティングでしょう?
個人的に最も面白かったのは、一話目の黒馬をモティーフとした怪異譚。私の好きな中世を舞台にしたらしい、設定や美術に惹かれてしまったせいもあるのですが……。
怪奇小説は結構読んでいる方だと思うのですが、このポーの短編は知りませんでした。やっぱり、「アッシャー家の没落」とか「黒猫」「黄金虫」といった有名な名作にばかり、目が向きがちですね。
さて、どんな話かというと、貴族のフレデリック(どこの国の貴族なんだろう?)は、まだ二十三歳の若き女性。夫が亡くなったため、莫大な財産を受け継ぎ、自由気ままに暮らし始めます。まわりにいる者をすべて、下女下男のように扱う、高慢な彼女には、一族の中でも貧しい従弟のウィルヘルムがいて、両家が互いに反目しあっています。
彼女はウィルヘルムを馬鹿にし、ウィルヘルムは女王然と振舞う彼女を、初めから相手にしない。その実、近づいて、口をきき合ったこともない二人ですが、ある日、森の中で、フレデリックは獣の罠にかかってしまいました。
フレデリックは、偶然近くにいたウィルヘルムに助けを求め、不承不承彼は、彼女を助けるのですが、この時、フレデリックな我知らずウィルヘルムに惹かれてしまいます。
しかし、ウィルヘルムが彼女に向けたのは、激しい嘲りのみ。拒否されたフレデリックは怒りに燃え、彼の愛する馬たちのいる馬小屋に放火するのですが、この時、ウィルヘルムは愛する馬を救おうとして、焼死。
そののち、謎めいた、黒馬がフレデリックの館にあらわれる――というのが、おおかたのストーリー。
ウィルヘルムに扮していたのが、いかにもヨーロッパ的な憂鬱そうなハンサムで、「この俳優は誰だろう?」と思っていたところ、何と彼がピーター・フォンダだと知った時の驚き!
って、フレデリックを演じているジェーン・フォンダの実弟ではないか。「イージー・ライダー」とかベトナム帰還兵のロマンスを描いた「帰郷」での彼しか知らなかったけれど、こんな繊細なムードのヨーロッパの貴族を演じていた側面があるとは……監督のロジェ・バディムは当時、ジェーン・フォンダの夫だったし、彼なら姉弟に恋愛ドラマを演じさせることも平気でやれそうです。
ロジェ・バディム自身は、決して大監督というわけではないのですが、どこか品が良く、作品そのものが面白い(「バーバレラ」も面白かったですし……代表作とされる「血とバラ」は未見なのですが)。ジャック・ドゥミや「愛人(ラ・マン)」を監督したドアノー監督といい、フランスにはこんな繊細な映画を撮る監督が多いと思わせられますね。
三話目の主演俳優テレンス・スタンプは、「コレクター」で女性を監禁する病的な会社員や、「ランボー 地獄の季節」で詩人アルチュール・ランボーを演じた個性俳優。彼なら、ポーの怪奇ものにはぴったりだと思わせられるし、監督があのF・フェリーニ。でも、サーカス的な演出を得意のするフェリーニには、怪奇ものはあまり、ぴったりこないような…。
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