ノエルのブログ

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華麗なるギャッビー

2022-09-02 13:51:13 | 映画のレビュー

映画「華麗なるギャッビー」(2013)を観ました。あのレオ様が主演している、リメイクもの。もちろんロバート・レッドフォードが主人公のJ・ギャッビーを演じていた旧作(1974)版も見ているのですが、今回のものの方が、個人的にはよかったです。

ロバート・レッドフォードの甘く、優雅な雰囲気が、このロマンチックな恋愛ものにはぴったりといえばいえるのですが、レオナルド・ディカプリオ(しかも、中年になって、ずんぐりむっくりが目立ってきている)のふてぶてしさや野性味が、素晴らしい! 原作のスコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャッビー」が世に出たのは1925年、と何と百年近くも前なのですが、レオナルドは、その伝説的な1920年代に、生き生きとした命を与えているように思うのです。

この作品は言うまでもなく、アメリカ文学史上に残る傑作で、ストーリーは多くの人が知るところなのですが、あえて書ききるしてみると――

主人公のニックは三十歳の文学青年だが、作家としては伸びず、普段はウォール街の証券会社で働いている。彼には美しい従妹のデイジーがいて、彼女はアメリカでも有数の富豪のトムと結婚している。

ニックが住むコテージの隣には、城かと見まごう豪邸があり、しばしば豪勢なパーティーを催している。しかし、主のJ・ギャッビーの素顔を知る者は誰もいず、彼が何をしてこれほどの財力を蓄えたかも、知る者はいない。

だが、ニックはある日、ただ一人、正当な招待状を受け取り、ギャッビーのパーティーに行く。呼ばれてもいないのにやって来る人々が、チャールストンを踊り、酒を飲み、狂乱の騒ぎを起こしている、風変りなパーティー。茫然としていたニックの前に、本物のギャッビーが姿をあらわすが――というのが発端。

実は、ギャッビーはかつて戦線の将校だった時、デイジーと恋に落ちたのだが、戦争の後、彼女はさっさと金持ちのトムに乗り換え、結婚してしまっていた。それでも、ギャッビーは彼女を忘れることができず、裏社会や酒の密造などで巨万の富を築いた後、デイジーに近づこうとする。

こう書くと、まるで自分を裏切った恋人を見返す男の復讐譚のよう。しかし、そうではなく、ギャッビーの人生の切なさも、悲しみも、彼が純粋にデイジーを愛し、彼女を手に入れようとあがくことに終始するところにあるのです。

     

再会したデイジーは、ギャッビーの願った通り、彼を愛し、トムの目を盗み不倫の関係にいたります。しかし、ギャッビーがトムと離婚して、自分と結婚してほしいといった時、彼女ははかばかしい返事をせず、この時点で、我々観客には、彼女が安楽なセレブ生活にすっかり浸りきり、、自分を投げ出すような真似は絶対にしない女性だということがわかってしまいます。

デイジーの返事に失望はするものの、彼女をあくまで愛し続けるギャッビーですが、自分とトムと、二台の車を連ねて行ったランチ会で、デイジーの夫トムから、自分の怪しげな仕事のことを暴露され、挙句の果てには、「ここにいる俺たちとお前とでは、決定的に違うものがある。それは、お前がどんなにあがいても手にいれられないもの。生まれが違うんだ」と侮蔑の言葉を投げられてしまう。

この時、終始にこやかだったギャッビーが見せた凄まじい怒り。ノースダコタの貧農の息子として生まれた彼の、密かなコンプレックスが、この瞬間あぶりだされたものとして、忘れがたいシーンです。

我を忘れたギャッビーの怒りに、デイジーの心は冷えてゆき、度を失った彼女はギャッビーと家路につく途中、女性をひき殺してしまう。しかし、トムはこの事故がギャッビーの引き起こしたものであるかのように、女性の夫に語り、彼はギャッビー邸に忍び込み、プールにいたギャッビーを射殺してしまう。

これが大筋のストーリー。あまりにドラマチックというかメロドラマなのだけれど、この小説が痛切な悲しみを感じさせる名作となっているゆえんは、結末。リックは事故の当事者であり、ギャッビーの死にも責任がありデイジーに「ギャッビーの葬儀に来てほしい」と電話をするのですが、すでに彼女は夫のトムと、旅に出てしまっていました。すべての罪を、ギャッビーに覆いかぶせて。

    

ギャッビーという人間を愛するようになっていたリックは、従妹や彼女が代表するブルジョワ世界の利己主義に悲憤を感じるのですが、それでもこの物語は、「憧れ」を描いて素晴らしい!

デイジーの住む屋敷の対岸にある城に住むギャッビー。彼が、湾に手を差し伸べて、デイジーの家の船着き場につく緑の明かりに手をさしのべるところ――映像の美しさと共に、憧れの美しさ・はかなさを象徴する緑の灯が、いつまでも心に残りました。

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