映画「サスペリア」を観る。何か月か前、綾辻行人の「緋色の囁き」を読んでいたら、最後に綾辻氏自身が「この作品のイメージソース」となったのは、ダリオ・アルジェント監督の「サスペリア」だと聞いて、俄然興味を持ってしまった。
というのは、これに先じて、よしもとばななの「彼女のこと」という不思議な小説がとても面白かったのだが、そこでも本のあとがきに、ばななさんが「この作品の元となったのは、分かりにくいかと思いますが、ダリオ・アルジェントの『インフェルノ』という映画です」と書いていたから。
ものの本によると、「インフェルノ」は、「サスペリア」の続編らしい。しかし、私は寡聞にして、「サスペリア」が有名なホラー映画であることも知らなかったくらいなのだ。
大体、私という人間は、怪奇小説は大好きなのに、ホラーは苦手。怪奇とかゴシック物につきものの品格なんて、これっぽっちもなく、ただ人をこわがらせりゃいいと思っている、「お化け屋敷映画」だと思い込んでいた。
しかし、振り返ってみると、「オーメン」シリーズはTVで何度も公開されたこともあって、面白かった記憶がある――あれも、ホラーではなかっただろうか?
ニコール・キッドマンが主演した「アザーズ」も怖くて怖くて、鳥肌が立ったくせに、二回も繰り返して観た記憶もある。
じゃあ、まったくホラー映画が苦手という訳ではないのかも……そう思いつつ、Amazonで購入した「サスペリア」のDBD.
これが期待以上に、とっても面白かった!
主人公の若い女の子スージーは、ニューヨークからドイツにやって来る。ひどい豪雨の日で、空港でやっとタクシーをつかまえ、バレエスクールに向かう。彼女は、バレリーナ志望で、そのためにバレエの名門校フライブルク学院にやって来たのだ。
ところが、学校に着いた時、戸口で押し問答をしていた少女が不思議な言葉を叫びながら、外へ飛び出す「扉に秘密がある……青いアイリスの花……」
その少女はむごたらしい殺され方をし、スージーはこの奇妙な学校に入学することになるのだが、怖いというより、雰囲気や美術の美しさに、ほうっと溜息をつかされてしまう。
「これは、確かに熱狂的なマニアのファンがつくよねえ」と思いながら、映画を観ていったのだが、学院の外装や内装を彩る赤が極めて印象的。
しいて言えば、ロシアのクレムリンの建物にあるようなこっくりした赤色なのだが、そこに金色の装飾的な飾りが浮かび上がり、アールデコとかそんな美術も、思い浮かんでしまう。
そして赤は、貧血を起こしたスージーから流れ出る血液の色でもあるのだ。
学院はバレエの名門校という表看板と相反する、秘密めいたムードを持って、スージーの前に迫ってくる。副校長のエレガントだが、腹黒そうなマダム・ブランク。厳格な教師タナー女史(これを、名女優アリダ・バッリが演じている)、フランケンシュタインみたいな怪異な容貌の下男パブロ…といったわき役の面々が、いかにもいかがわしい。
スージーは、美少女サラと親しくなるものの、突然寄宿舎の天井から、白い蛆虫が無数に降ってくる事件があったり、気味の悪いいびきを耳にし、「あれは、普段はいないはずの校長のいびきだ」と彼女に告げられたりする。
そして、食事に睡眠薬を入れられていたスージーがつい眠ってしまっている間に、サラは何者かに追われ、天井裏に逃げ込んだ挙句、惨殺される――ここで悲劇が最高潮に達するのだが、もちろん、スージーは友人が殺されたことを知らない。
彼女は翌朝、サラの居場所をタナー女史に聞いてみるものの、「勝手に出て行った」と意味不明の言葉を告げられる。
不自然さを感じたスージーは、サラの友人の精神科医フランクを訪ねるが、そこで聞いたのは、フライブルク学院が、元はバレエ学校ではなく、魔女の学校だったという気味の悪い話だった。そして、サラが以前「先生達は、学校の外に住んでいる訳じゃない。夜、廊下を学校の奥に向かってゆく足音を聞いたことがあるの」と言っていたことを思い出す。
その晩、スージーは廊下を歩く足音の数を数え、それが指し示す通り、進んでゆく。彼女がたどり着いたのは、学院の奥深く、ウィ~ン工房のデザインを思わせる美しい装飾が施された部屋と、黄金の植物紋様が縫い取りされたカーテンが続く廊下だった――その奥の部屋では、教師たちが不気味な集会を開いていた。
姿を見せたことのない校長も、とっくに死んでしまったはずの魔女エレナ・マルコスであることが分かる――というのが大体のストーリー。
この映画が作られたのは、多分1970年代の頃のはずで、今のように刺激に満ち満ちたコンテンツが溢れかえる時代から見ると、さほど怖いとも思えない。
けれど、アルジェント流の美術というか、道具立て、洒落て優雅な雰囲気を漂わせている世界は、確かにゴシック風で、うっとりするほど魅惑的。映画を観終わった後も、ウィーンの世紀末美術のようなカーテンの模様、洗面所の蛇口に流れるワインの赤が、くっきり瞼の裏に息づいているのを感じてしまったほど。
ダリオ・アルジェント――何だか、いいです。
「インフェルノ」も、ぜひ観たいな☆彡
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