アンソニー・ホロヴィッツの「メインテーマは殺人」を読む。この作者の本は、以前も「カササギ殺人事件」を読んでいたのだが、面白かった。好みかと言われては困るのだけど……とどこか歯がゆい言い方をしてしまうのは、この著者が、アガサ・クリスティーが大好きと公言しており、「カササギ…」も、クリスティーへのオマージュがそこかしこに散りばめられていて、古き良き英国のミステリーの要素もたっぷり、凝ったプロットといい、ミステリファンの心をくすぐる作品でいながら、どうしても「二番煎じ」の感が否めなかったからではないかと思う。
ついで、彼がコナン・ドイル協会から、シャーロック・ホームズの続編を書いてよいとのお墨付きで、発表した「絹の家」。これも、ホームズとワトソンが活躍する、ヴィクトリア朝英国社会の暗部をえぐった力作なのだが、やはり、どこか「この作者、好き」と言いきれないものが残った。
今回の「メインテーマは殺人」でも、子供の頃から、ミステリや文学作品をさんざん読破してきたのだろうな、ということがうかがえる博覧強記ぶりで、巧みな構成で、読者を引っ張っていくのだが、何かが足りない……ような気がする。ここでは、アンソニー・ホロヴイッツ自身が主人公として登場し、癖のある謎だらけの元刑事ホーソーンから、魅力的な殺人事件を作品化してみないか、と持ちこまれる。ところが、この事件というのが、目下進行中。
ホーソーンの曲者ぶりに、反発を感じつつも、ホロヴイッツは、彼のワトソン役として、事件を捜査してゆく――というのが全体のストーリー。
事件そのものは、錯綜していながら、謎解きがさほど面白い訳ではないので、ここでは割愛することにする。だが、クリスティー、シャーロック・ホームズの世界を21世紀に蘇らせるという、オールドファンにとってはこたえられない趣向や、個人的に大好きなイギリスやロンドンの空気感がよく伝わってくるのにもかかわらず、この作者の世界が好きになれないのは、なぜか?
一言で言えば、器用な職人芸で、本物のミステリーが放つ香気がないせいだろうと思う。ホロヴィッツが今をときめく、人気作家で、彼の作品が日本で翻訳された時、「このミステリーがすごい!」1位やその他の絶賛を浴びたことなど、この際関係ないのである。
余分なことを言えば、この「メインテーマは殺人」でも、自分の作家としてのライフスタイルを自慢(?)気に述べたてているところも、少し鼻につきますね。
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