殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

うりこひめの場合

2009年09月19日 12時13分44秒 | みりこん童話のやかた


「ほんに、きれいな娘になって…」

おじいさんとおばあさんは年ごろになった娘…うりこを眺めて目を細める。

「まさかここまでになるとは…」

「良かったのぅ」


二人には子供が無かった。

瓜畑で泣いていた赤ん坊を家に連れ帰り

「うりこ」と名付けて育てた。


うりこはすくすくと成長し、界隈でも有名な美女となった。

結婚の申し込みは引きも切らず、男たちからの貢ぎ物だけで

家は充分に潤っていた。


やがてうりこの美貌は殿様の耳にも届く。

ぜひ城に迎えたいと言われ、おじいさんとおばあさんは飛び上がって喜んだ。

ここらで手を打とう…これで老後も安泰じゃ…。


うりこは殿様の元へ行く日を待ちながら

不安な日々を過ごしていた。

自分はこの家の娘ということになっているけど、本当は素性が知れない。

殿様には内緒にしているけど

自分が拾われた後でひょっこり生まれた、素行の良くない弟もいる。

格を上げるために、家族からは姫なんて呼ばれてるけど

お行儀もたしなみも知らないし

窮屈なお城でやっていけるのだろうか…。


それに…うりこは庭の柿の木に目をやる。

「あいつ…」

青々と茂った柿の葉っぱの陰で、こちらをうかがいながら

夜になるのを待つあまんじゃく。


おじいさんとおばあさんが寝てしまうと

今夜もうりこはあまんじゃくと、町へ遊びに出かけるのだ。

うりこはとっくにあまんじゃくとねんごろになっていた。


みんなはあまんじゃくのことを

バカでウソつきでどうしようもないヤツと言う。

でも、私はあいつと居ると、すごく落ち着くのよね。

私が一番自分らしく振る舞えるのは、あいつのそば…。


若者の集う酒場では、うりこはたいした人気だ。

「うりぴぃ」と呼ばれ、行けばチヤホヤしてくれる。

うりこの家に日参するいいとこの坊ちゃんたちとは違う刺激だ。

これぞ私の求めていたもの…という気持ちになる。

可憐で清楚な姫というのは世を忍ぶ仮の姿…

本当の私はイケイケのあばずれなの~!


無理して背伸びした玉の輿より、こっちのほうが気楽でいいかも…

だって、あまんじゃくは不思議な匂い袋を持っていて

時々かがせてくれるんだもん。

あのニオイをかぐと、すごく元気が出て気分が良くなっちゃうの…。

いけないモノらしいけど、かまうもんですか。


…殿様からの縁談は立ち消えになった。

とても釣り合わない…と、うりこが辞退したという説もあるし

殿様側がうりこの本当の姿を知って断わったという説もある。


やがてうりこはあまんじゃくの子供を生んだ。

あまんじゃくは怠け者だったので

うりこは美貌を生かして唄を歌ったり、芝居小屋に出たり

絵草紙の表紙になるのを頼まれたりしてお金を稼いだ。

生活費ももちろん必要だが、あの匂い袋の中味を新しいのと取り替えるのは

案外お金がかかるものだ…と知った。


年月が経った。

うりこは子持ちの人気者として不動の地位を築き上げていたが

ご法度の匂い袋を使っていたことがばれて

あまんじゃくもろともお縄になる。

騒ぎにはなったものの

初犯だし、美しいしで、たいしたおとがめは受けなかった。


うりこは思う。

困ったことは全部あまんじゃくのせいにしておけばいい。

私はダメな男にだまされた可哀相な女…この路線でまだ当分はいけるわ…。

みんな、罪を犯した美しい私を見たいはず。

お客が呼べるんだもの…涙を流して謝っておけば、大事にしてくれるはずよ。


困ったら絵草紙に裸を載せてもいいし

かわら版に暴露手記を書いてもお金になる。

いざとなったらしんすけ社中に頼み込んで

お笑い芝居「へきさごん」だって出ちゃうわ。

たけし劇団に拾ってもらって、もな太夫と共演もいいわね。

人情家だから、ちょっと泣けば保護してくれるわよ。


でも大丈夫…この国は「子供のため」と言っておけば

たいていはまかり通るんだもん。

うりこはにっこりと微笑むのだった。
コメント (14)
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