この間スーパーに行った時、高校の同級生を発見して駆け寄った。
「ヤマシタさんっ?」
久しぶりね~!ここで働いてるの?などとしゃべりまくる。
ものすごく嫌そうに
「私、ヤマシタじゃありません」
と冷たく言われ、謝ってとぼとぼ帰る。
道でガムを踏んづけたようなあの表情…たびたび間違えられていると察する。
だって、生き写しだったのだ。
この世にはそっくりな人間が、自分を含めて三人いると言うが
そのうちの一人に違いない。
私の場合は、すでに残り二人に出会い済み。
この世どころか、ごく近くでだ。
いくらありふれた顔といっても、ほどがある。
顔はありふれているが、身体がありふれていないところに問題が生じる。
身長167センチ・体重62キロ…これが私のイレモノである。
反応に困る微妙な数字じゃろ?
ま、繊細(せんさい)可憐(かれん)華奢(きゃしゃ)地区からは
ずいぶん遠い村に住んでるわけよ。
田舎でこのサイズの中高年女性は、まだ少ない。
自慢じゃないが…自慢にならんか…以前はもっと太っていた。
メイド・イン・ジャパンのありふれ顔に
縦も横もデッカちゃんの特徴的な身体がくっついていることによって
同じ人物と認識する機能がより強力に働くのではないかと推測する。
一人は以前暮らしていた隣の市。
やり手で、いろんな所に顔を出す人らしく
狭い町のあちこちでしょっちゅう間違えられた。
挨拶くらいならどうっちゅうことないけど
「あの話、どうなりました?」なんてたずねられても
「な…何の話?!」である。
町のイベントで、何かの代表として舞台に上がった本人を見て納得。
顔もそうだが、背格好、声…まっことよく似ている。
出しゃばりな性格もそっくりだ。
しかし私と違うところがただひとつ…言うことがことごとくご立派。
マジメな性格らしい。
その後は間違えられそうになると
「○○さんじゃないですよ~」と先に申告。
面倒な時は、妹になりすました。
彼女に妹がいるかどうかは知らない。
もう一人は、どこかよその土地から我が町に来て
とある趣味の店を出した女性。
このおかた…独身で男遊びがお盛んなのだ。
店でじっとしていてくれればいいものを
昼はデート、夜は酒場
そのうち男性限定の料理や書道の教室までおっぱじめる。
田舎のおじさんたちをとっかえひっかえ遊び歩くもんだから、当然目立つ。
いつのまにか、一部でそれは私ということになっていた。
「昨日、男と一緒のところを見た」「すごく遊んでるって本当?」
などと知り合いに言われる。
知らないおじさんが手を振る。
「いくらご主人がああでも、あなたはお母さんなんだからね…」
よそのオバサマに説教される憂き目にも遭う。
取り巻き男性の奥さんだと思う…いきなり怒鳴られたこともあった。
「人の亭主を誘惑するな!ろくでなし!」
ろくでなしは認めるけど、よその亭主を誘惑したおぼえは…
よその女を誘惑する亭主ならうちにいるけど…。
こんなのは厄介だ。
しょっぱなから強気に出た手前、なかなか認めようとしない。
「とぼけたってダメ!逃げられると思いなさんな!」
しかしまあ、その気持ちはわからないでもない。
亭主に遊ばれ、おまけに人違いで怒られたのでは立つ瀬がなかろう。
それにこういう場面、嫌いじゃないしさ…。
出来るだけやんわりと対応…免許証を見せてようやく解放される。
しかも捨て台詞…「まぎらわしい!」
♪そっくりで~ごめんなさいね~♪大江裕「のろま大将」のフシでどうぞ。
さすがにこれは危ない…いきなり刺されでもしたら痛いで…と思い
せめて髪型だけでも変えようと、かなり短くする。
似てるからおとなしくしてろ…なんて言いに行くわけにもいかないじゃん。
そしたら、彼女も切っているではないか。
じゃあ…と伸ばす。
そしたら彼女も伸ばしているではないか…わ~ん!
そのうち店の経営が行き詰まり、彼女は町から去って行った。
ホッとした。