そいつは、夜にやって来る。
寝ようとすると、忍び足でやって来る。
いつの間にか私の部屋に入り込み
おごそかな儀式のように
ピシャッ…
パタン…
ドアや窓を閉めて、部屋を密室にする。
テレビが消され
部屋はにわかに夜半の静けさに包まれる。
煌々と灯る明かりの下
そいつは私の顔をのぞき込んでニヤリと笑う。
そして低い声でこう言う。
「さあ…奥さん…語ろうか」
「語ろうか」と言っても
しゃべるのはほとんどそいつだ。
とりとめのない話が延々と続く。
うつらうつらすると、お腹の肉をつまむ。
「奥さん、このアブラミはどうするつもりだね?ええ?」
と厳しく追求される。
「今日の弁当にゆで卵が入ってなかったぞ」
苦情も忘れない。
おまえは板東英二か…。
ひとしきり語ると、何か食わせろと要求する。
せっかく片付けたキッチンへ行き
しぶしぶ夜食を作る。
食べ終えると
「じゃ」
と言って立ち上がり
悠々と去って行く。
週に一度はやって来る。
妖怪カタリ…次男のことである。