夫の「堕ろせコール」は、日増しに執拗になってきました。
時には涙を流して哀願してみたり、声を荒げて威嚇してみたり
何か怪しげなものが取り憑いたように思えて、そりゃもう恐ろしかったです。
気味が悪いので、無視を決め込んでいましたが
心では、夫をここまで変えてしまった見知らぬ女性を激しく憎みました。
しかし、相手が知りたくてもその方法がわからない。
知ったところで、それからどうするのかもわかりませんでした。
そんな時、私は風邪をひきました。
通院している産婦人科に行きましたが、月曜日だったのでひどく混んでおり
おびただしい数の靴が、道路まではみ出していました。
普通、それでも妊婦としては、産婦人科に入るでしょう。
ここに、運命の分かれ道がありました。
怠け者で面倒くさがり屋の私は、靴を見てすっかりいやになり
夫の家のホームドクター、K病院に行ったのでした。
昔の個人病院は、のどかなものでした。
たいていの症状は引き受けてくれ、妊婦の私も診察してくれました。
診察の後、支払いの順番を待っていると
一人の若い看護師が近づいて来ました。
「こちらへどうぞ」
古くからの看護師が、私に対して姑みたいに振る舞う少々ケムたい病院で
その人は初めて見る人でした。
案内されるままについて行ったのは、奥まった場所にあるレントゲン室でした。
何度か入ったことのある部屋でしたが
まさか妊婦にレントゲンはナイだろう、と思っていたら…
「上着を脱いで」
「あのう…妊娠してるんですけど」
「大丈夫ですよ」
「え…でも…」
「ちゃんと調べておいたほうがいいですから」
昔は技師など置かずに、レントゲンや注射
簡単な切開や縫合までも看護師がやるところは、珍しくありませんでしたから
とりわけ奇異な行為ではなかったのですが
診察後のレントゲンは、やはり不自然です。
にぶい私にも、やっと気がつく瞬間が訪れました。
洗濯していたら、夫のポケットからプラスチックの注射器が出てきたこと。
病院でしか扱わない薬品が、箱ごと車に置いてあったこと。
夫は腰痛でこの病院に通っていたこと。
一度私に「マユ…」と呼びかけ慌ててごまかしたこと。
その人の名札には、「○○まゆみ」と書いてありました。
それでもまだ、偶然かもしれない
人違いかもしれない、と迷いましたが
思い切って言ってみました。
「あの…レントゲンはしません。離婚もしません。」
まゆみさんは、黙って部屋を出て行きました。
このことは、誰にも言わずに帰りました。
武士の情け…いや、妊婦の情けです。
一週間ほどして、K病院の姑看護師から電話がありました。
「あの子、辞めちゃったじゃないの!
あんたのせいよ!
どうしてくれるのよっ!」
聞けば彼女は、病院がお金を出して学校へ通わせ
やっと資格を取ったばかりで
これから学費を返済しながら働く
「お礼奉公」という習慣が、始まったところだそうです。
お礼奉公の途中で辞める場合には
立て替えてもらった学費は一括返済するのですが
ゼニカネ以上に、病院にとっては大変不名誉なことらしく
そのベテラン看護師は、管理責任を問われて不愉快な思いをしたようです。
まゆみさんの退職理由は
「うちの夫にだまされ、傷ついたから」
だそうです。
姑看護師は、当たるところが無かったのでしょう。
どうやら、夫を浮気に走らせた私に
重大な責任があると言いたいらしいです。
あまりの剣幕に何も言えませんでしたが
今考えても、病院の備品を外部に持ち出したり
どんな理由があったにせよ、妊婦をレントゲンにかけたがるような人は
看護師には向いてないと思います。
広い意味で、不特定多数の人を救ったつもりなんだけどなぁ…てへ。
時には涙を流して哀願してみたり、声を荒げて威嚇してみたり
何か怪しげなものが取り憑いたように思えて、そりゃもう恐ろしかったです。
気味が悪いので、無視を決め込んでいましたが
心では、夫をここまで変えてしまった見知らぬ女性を激しく憎みました。
しかし、相手が知りたくてもその方法がわからない。
知ったところで、それからどうするのかもわかりませんでした。
そんな時、私は風邪をひきました。
通院している産婦人科に行きましたが、月曜日だったのでひどく混んでおり
おびただしい数の靴が、道路まではみ出していました。
普通、それでも妊婦としては、産婦人科に入るでしょう。
ここに、運命の分かれ道がありました。
怠け者で面倒くさがり屋の私は、靴を見てすっかりいやになり
夫の家のホームドクター、K病院に行ったのでした。
昔の個人病院は、のどかなものでした。
たいていの症状は引き受けてくれ、妊婦の私も診察してくれました。
診察の後、支払いの順番を待っていると
一人の若い看護師が近づいて来ました。
「こちらへどうぞ」
古くからの看護師が、私に対して姑みたいに振る舞う少々ケムたい病院で
その人は初めて見る人でした。
案内されるままについて行ったのは、奥まった場所にあるレントゲン室でした。
何度か入ったことのある部屋でしたが
まさか妊婦にレントゲンはナイだろう、と思っていたら…
「上着を脱いで」
「あのう…妊娠してるんですけど」
「大丈夫ですよ」
「え…でも…」
「ちゃんと調べておいたほうがいいですから」
昔は技師など置かずに、レントゲンや注射
簡単な切開や縫合までも看護師がやるところは、珍しくありませんでしたから
とりわけ奇異な行為ではなかったのですが
診察後のレントゲンは、やはり不自然です。
にぶい私にも、やっと気がつく瞬間が訪れました。
洗濯していたら、夫のポケットからプラスチックの注射器が出てきたこと。
病院でしか扱わない薬品が、箱ごと車に置いてあったこと。
夫は腰痛でこの病院に通っていたこと。
一度私に「マユ…」と呼びかけ慌ててごまかしたこと。
その人の名札には、「○○まゆみ」と書いてありました。
それでもまだ、偶然かもしれない
人違いかもしれない、と迷いましたが
思い切って言ってみました。
「あの…レントゲンはしません。離婚もしません。」
まゆみさんは、黙って部屋を出て行きました。
このことは、誰にも言わずに帰りました。
武士の情け…いや、妊婦の情けです。
一週間ほどして、K病院の姑看護師から電話がありました。
「あの子、辞めちゃったじゃないの!
あんたのせいよ!
どうしてくれるのよっ!」
聞けば彼女は、病院がお金を出して学校へ通わせ
やっと資格を取ったばかりで
これから学費を返済しながら働く
「お礼奉公」という習慣が、始まったところだそうです。
お礼奉公の途中で辞める場合には
立て替えてもらった学費は一括返済するのですが
ゼニカネ以上に、病院にとっては大変不名誉なことらしく
そのベテラン看護師は、管理責任を問われて不愉快な思いをしたようです。
まゆみさんの退職理由は
「うちの夫にだまされ、傷ついたから」
だそうです。
姑看護師は、当たるところが無かったのでしょう。
どうやら、夫を浮気に走らせた私に
重大な責任があると言いたいらしいです。
あまりの剣幕に何も言えませんでしたが
今考えても、病院の備品を外部に持ち出したり
どんな理由があったにせよ、妊婦をレントゲンにかけたがるような人は
看護師には向いてないと思います。
広い意味で、不特定多数の人を救ったつもりなんだけどなぁ…てへ。
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