日本語の「は」と「が」について。

象は鼻が長い=∀x{象x→∃y(鼻yx&長y)&∀z(~鼻zx→~長z)}。
とりあえず「三上文法」を「批判」します。

(314)「括弧」と「返り点」。

2019-08-04 16:38:35 | 返り点、括弧。

(01)
① 楚人有鬻盾與矛者。誉之曰、盾之堅、莫能陥也。又誉其矛曰、矛之利、於物無不陥也。或曰、以子之矛、陥子之盾、何如。其人弗能応也=
② 楚人有[鬻〔盾與(矛)〕者]。誉(之)曰、盾之堅、莫(能陥)也。又誉(其矛)曰、矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。或曰、以(子之矛)、陥(子之盾)、何如。其人弗〔能(応)〕也⇒
③ 楚人[〔盾(矛)與〕鬻者]有。(之)誉曰、盾之堅、(能陥)莫也。又(其矛)誉曰、矛之利、(物)於〔(陥)不〕無也。或曰、(子之矛)以、(子之盾)陥、何如。其人〔(応)能〕弗也=
④ 楚人に[〔盾と(矛)與を〕鬻ぐ者]有り。(之を)誉めて曰く、吾が盾の堅きこと、(能く陥す)莫きなり。又た(其の矛を誉めて)曰く、吾が矛の利なること、(物に)於いて〔(陥さ)弗る〕無きなり。或ひと曰く、(子の矛を)以て、(子の盾を)陥さば、何如ん。其の人〔(応ふる)能は〕ざる也=
⑤ 楚の国の人で盾と矛とを売る者がゐた。自分の盾を誉めて言った。 私の盾を突き通すことができるものはない。 又其の矛を誉めて言った。 私の矛の鋭いことには、どんな物でも突き通すことができないものはない。或るひとが言った。 あなたの矛で、あなたの盾を突いたらどうなるのか。 其の(盾と矛を売る)人は、答へることが、出来なかった。
然るに、
(02)
② 楚人有[鬻〔盾與(矛)〕者]。誉(之)曰、盾之堅、莫(能陥)也。又誉(其矛)曰、矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。或曰、以(子之矛)、陥(子之盾)、何如。其人弗〔能(応)〕也。
に於いて、
② 有[ ]→[ ]有
② 鬻〔 〕→〔 〕鬻
② 與( )→( )與
② 誉( )→( )誉
② 莫( )→( )莫
② 誉( )→( )誉
② 於( )→( )於
② 無( )→( )無
② 不( )→( )不
② 以( )→( )以
② 陥( )→( )陥
② 弗( )→( )弗
② 能( )→( )能
といふ「(からへの)移動」を行ふと、
③ 楚人[〔盾(矛)與〕鬻者]有。(之)誉曰、盾之堅、(能陥)莫也。又(其矛)誉曰、矛之利、(物)於〔(陥)不〕無也。或曰、(子之矛)以、(子之盾)陥、何如。其人〔(応)能〕弗也。
といふ「語順」になり、
(03)
③ 楚人[〔盾(矛)與〕鬻者]有。(之)誉曰、盾之堅、(能陥)莫也。又(其矛)誉曰、矛之利、(物)於〔(陥)不〕無也。或曰、(子之矛)以、(子之盾)陥、何如。其人〔(応)能〕弗也。
に於いて、
③ 有[ ]←[ ]有
③ 鬻〔 〕←〔 〕鬻
③ 與( )←( )與
③ 誉( )←( )誉
③ 莫( )←( )莫
③ 誉( )←( )誉
③ 於( )←( )於
③ 無( )←( )無
③ 不( )←( )不
③ 以( )←( )以
③ 陥( )←( )陥
③ 弗( )←( )弗
③ 能( )←( )能
といふ「(からへの)移動」を行ふと、
② 楚人有[鬻〔盾與(矛)〕者]。誉(之)曰、盾之堅、莫(能陥)也。又誉(其矛)曰、矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。或曰、以(子之矛)、陥(子之盾)、何如。其人弗〔能(応)〕也。
といふ「語順」に戻る。
然るに、
(04)
③ 楚人[〔盾(矛)與〕鬻者]有。(之)誉曰、盾之堅、(能陥)莫也。又(其矛)誉曰、矛之利、(物)於〔(陥)不〕無也。或曰、(子之矛)以、(子之盾)陥、何如。其人〔(応)能〕弗也。
に対して、「平仮名を補ふ」と、
④ 楚人に[〔盾と(矛)與を〕鬻ぐ者]有り。(之を)誉めて曰く、吾が盾の堅きこと、(能く陥す)莫きなり。又た(其の矛を誉めて)曰く、吾が矛の利なること、(物に)於いて〔(陥さ)弗る〕無きなり。或ひと曰く、(子の矛を)以て、(子の盾を)陥さば、何如ん。其の人〔(応ふる)能は〕ざる也。
といふ「訓読」が、成立する。
cf.
與(前置詞)=と(格助詞・後置詞)。
然るに、
(05)
漢語における語順は、国語と大きく違っているところがある。すなわち、その補足構造における語順は、国語とは全く反対である。しかし、訓読は、国語の語順に置きかえて読むことが、その大きな原則となっている。それでその補足構造によっている文も、返り点によって、国語としての語順が示されている(鈴木直治、中国語と漢文、1975年、296頁)。
従って、
(01)~(05)により、
(06)
例へば、
② 楚人有[鬻〔盾與(矛)〕者]。誉(之)曰、盾之堅、莫(能陥)也。又誉(其矛)曰、矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。或曰、以(子之矛)、陥(子之盾)、何如。其人弗〔能(応)〕也。
③ 楚人[〔盾(矛)與〕鬻者]有。(之)誉曰、盾之堅、(能陥)莫也。又(其矛)誉曰、矛之利、(物)於〔(陥)不〕無也。或曰、(子之矛)以、(子之盾)陥、何如。其人〔(応)能〕弗也。
に於ける、
②[ 〔 ( )〕 ]( )( )( )( )〔 ( ) 〕( )( )〔 ( ) 〕
③[ 〔 ( )〕 ]( )( )( )( )〔 ( ) 〕( )( )〔 ( ) 〕
といふ「括弧」は、それぞれ、
②「漢文の補足構造」と、
③「国語の補足構造」を、表してゐて、尚且つ、
③ に関しては、
④ 楚人に[〔盾と(矛)與を〕鬻ぐ者]有り。(之を)誉めて曰く、吾が盾の堅きこと、(能く陥す)莫きなり。又た(其の矛を誉めて)曰く、吾が矛の利なること、(物に)於いて〔(陥さ)弗る〕無きなり。或ひと曰く、(子の矛を)以て、(子の盾を)陥さば、何如ん。其の人〔(応ふる)能は〕ざる也。
といふ「訓読の語順」を、表してゐる。
従って、
(02)(06)により、
(07)
例へば、
② 楚人有[鬻〔盾與(矛)〕者]。
であれば、
② 有[ ]→[ ]有
② 鬻〔 〕→〔 〕鬻
② 與( )→( )與
といふ風に、
②「括弧のにある一語」は、「訓読」では、
③「括弧のにあるもの」と見做して、「その順番」で読むならば、
④ 楚人に[〔盾と(矛)與を〕鬻ぐ者]有り。
といふ「訓読の語順」を、得ることになる。
然るに、
(08)
② 128[6〔35(4)〕7]。
に於いて、
② 8[ ]→[ ]8
② 6〔 〕→〔 〕6
② 5( )→( )5
といふ「(左から右への)移動」を行ふと、
② 128[6〔35(4)〕7]→
③ 12[〔3(4)5〕67]8=
③ 1 2 3 4 5 6 7 8。
といふ「順番」になる。
従って、
(07)(08)により、
(09)
② 楚人有[鬻〔盾與(矛)〕者]。
に於ける、
②[ 〔 ( ) 〕 ]
といふ「括弧」は、「訓読」に於ける、
② 128 6 35 4  7 。
といふ「順番」を表してゐる。
然るに、
(10)
② 楚人有鬻盾與矛者。
に付く「返り点」は、
② 楚人有 盾與一レ 矛者
すなはち、
② 下 二 一レ 上
である。
従って、
(09)(10)により、
(11)
②[ 〔 ( ) 〕 ]
といふ「括弧」は、例へば、
② 下 二 一レ 上
といふ「返り点」に相当する。
然るに、
(12)
②[ 〔 ( ) 〕 ]
といふ「括弧」は、その他にも、少なくとも、
② レ レ レ
② レ 二 一レ
② レ レ 二 一
② レ 三 二 一
② レ 二 レ 一
② 四 三 二 一
② 乙 下 二 一 上 甲
といふ「返り点」に相当する。
従って、
(12)により、
(13)
「(レ点を含む)返り点」は、「括弧」よりも、「複雑」である。
(14)
例へば、
② 非[不〔 読( 書)〕]→[   〔(書を )読ま〕不るに]非ず。
② 非[不〔常読(漢文)〕]→[〔常には(漢文を)読ま〕不るに]非ず。
に於いて、「両者の補足構造」は、「等しい」ものの、
② レ レ レ
② レ 三 二 一
といふ風に、「返り点」は、「同じ」にならない。
従って、
(14)により、
(15)
返り点」は、直接には、「漢文補足構造」を、表してはゐない
従って、
(13)(15)により、
(16)
「(レ点を含む)返り点」は、「括弧」よりも、「複雑」であって、尚且つ、「括弧」とは異なり、「返り点」は、直接には、「漢文補足構造」を表してはゐない


(313)「矛盾・韓非子」の「述語論理」(Ⅲ)。

2019-08-04 09:20:59 | 漢文・述語論理

(01)
― 矛盾・韓非子 ―
楚人有鬻盾与矛者。誉之曰、盾之堅、莫能陥也。又誉其矛曰、矛之利、於物無不陥也。或曰、以子之矛、陥子之盾、何如。其人弗能応也=
楚人有[鬻〔盾与(矛)〕者]。誉(之)曰、盾之堅、莫(能陥)也。又誉(其矛)曰、矛之利、於(物)無〔不(陥)〕也。或曰、以(子之矛)、陥(子之盾)、何如。其人弗〔能(応)〕也⇒
楚人に[〔盾と(矛)とを〕鬻ぐ者]有り。(之を)誉めて曰く、吾が盾の堅きこと、(能く陥す)莫きなり。又た(其の矛を誉めて)曰く、吾が矛の利なること、(物に)於いて〔(陥さ)不る〕無きなり。或ひと曰く、(子の矛を)以て、(子の盾を)陥さば、何如ん。其の人〔(応ふる)能は〕ざるなり=
楚の国の人で盾と矛とを売る者がゐた。自分の盾を誉めて言った。 私の盾を突き通すことができるものはない。 又其の矛を誉めて言った。 私の矛の鋭いことには、どんな物でも突き通すことができないものはない。或るひとが言った。 あなたの矛で、あなたの盾を突いたらどうなるのか。 其の(盾と矛を売る)人は、答へることが、出来なかった。
然るに、
(02)
1       (1)∃x(盾x)&∃y(矛y)      A
1       (2)∃x(盾x)             1&E
 3      (3)   盾a              A
1       (4)       ∃y(矛y)      1&E
  5     (5)          矛b       A
   6    (6)∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)} A
   6    (7)   矛b→∃x(盾x&~陥bx)  6UE
  56    (8)      ∃x(盾x&~陥bx)  57MPP
    9   (9)         盾a&~陥ba   A
    9   (ア)            ~陥ba   9&E
     イ  (イ)∀x{盾x→∃y(矛y& 陥yx)} A
     イ  (ウ)   盾a→∃y(矛y& 陥ya)  イUE
 3   イ  (エ)      ∃y(矛y& 陥ya)  3ウMPP
      オ (オ)         矛b& 陥ba   A
      オ (カ)             陥ba   オ&E
    9 オ (キ)        ~陥ba&陥ba   アカ&I
  56  オ (ク)        ~陥ba&陥ba   89キEE
 356 イ  (ケ)        ~陥ba&陥ba   エオクEE
1 56 イ  (コ)        ~陥ba&陥ba   23ケEE
1  6 イ  (サ)        ~陥ba&陥ba   45コEE
   6 イ  (シ)~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)}  1サRAA
   6 イ  (ス) ~∃x(盾x)∨~∃y(矛y)   シ、ド・モルガンの法則
   6 イ  (セ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)   ス含意の定義
      ソ (ソ)          ∃y(矛y)   A
      ソ (タ)        ~~∃y(矛y)   ソDN
   6 イソ (チ) ~∃x(盾x)           セタMTT
   6 イ  (ツ)  ∃y(矛y)→~∃x(盾x)   ソチCP
   6 イ  (テ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)&
             ∃y(矛y)→~∃x(盾x)   セツ&I
(03)
(ⅰ)
1       (1)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)  A
 2      (2)  ∃x(盾x)& ∃y(矛y)  A
 2      (3)  ∃x(盾x)          2&E
 2      (4)          ∃y(矛y)  2&E
12      (5)         ~∃y(矛y)  13MPP
12      (6)  ∃y(矛y)&~∃y(矛y)  45&I
1       (7)~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)} 26RAA
(ⅱ)
1       (1)~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)} 26RAA
 2      (2)  ∃x(盾x)          A
  3     (3)          ∃y(矛y)  A
 23     (4)  ∃x(盾x)& ∃y(矛y)  23&I 
123     (5)~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)} 
           &(∃x(盾x)& ∃y(矛y)} 14&I
12      (6)         ~∃y(矛y)  35RAA
1       (7)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)  26CP
従って、
(03)により、
(04)
①     ∃x(盾x)→~∃y(矛y)
② ~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)}
に於いて、
①=② である。
従って、
(04)により、
(05)
③     ∃x(矛x)→~∃y(盾y)
④ ~{∃x(矛x)& ∃y(盾y)}
に於いて、
③=④ である。
従って、
(02)~(05)により、
(06)
1       (1)∃x(盾x)&∃y(矛y)      A
1       (2)∃x(盾x)             1&E
 3      (3)   盾a              A
1       (4)       ∃y(矛y)      1&E
  5     (5)          矛b       A
   6    (6)∀y{矛y→∃x(盾x&~陥yx)} A
   6    (7)   矛b→∃x(盾x&~陥bx)  6UE
  56    (8)      ∃x(盾x&~陥bx)  57MPP
    9   (9)         盾a&~陥ba   A
    9   (ア)            ~陥ba   9&E
     イ  (イ)∀x{盾x→∃y(矛y& 陥yx)} A
     イ  (ウ)   盾a→∃y(矛y& 陥ya)  イUE
 3   イ  (エ)      ∃y(矛y& 陥ya)  3ウMPP
      オ (オ)         矛b& 陥ba   A
      オ (カ)             陥ba   オ&E
    9 オ (キ)        ~陥ba&陥ba   アカ&I
  56  オ (ク)        ~陥ba&陥ba   89キEE
 356 イ  (ケ)        ~陥ba&陥ba   エオクEE
1 56 イ  (コ)        ~陥ba&陥ba   23ケEE
1  6 イ  (サ)        ~陥ba&陥ba   45コEE
   6 イ  (シ)~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)}  1サRAA
   6 イ  (ス) ~∃x(盾x)∨~∃y(矛y)   シ、ド・モルガンの法則
   6 イ  (セ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)   ス含意の定義
      ソ (ソ)          ∃y(矛y)   A
      ソ (タ)        ~~∃y(矛y)   ソDN
   6 イソ (チ) ~∃x(盾x)           セタMTT
   6 イ  (ツ)  ∃y(矛y)→~∃x(盾x)   ソチCP
   6 イ  (テ)  ∃x(盾x)→~∃y(矛y)&
             ∃y(矛y)→~∃x(盾x)   セツ&I
   6 イ  (ト)~{∃x(盾x)& ∃y(矛y)}&
           ~{∃x(矛x)& ∃y(盾y)}  テ含意の定義
従って、
(06)により、
(07)
(1)ある盾xが存在し、ある矛yが存在する。 と「仮定」して、
(6)すべてのyについて、yが矛ならば、あるxは盾であって、yはxを陥さない。と「仮定」して、
(イ)すべてのxについて、xが盾ならば、あるyは矛であって、yはxを陥す。  と「仮定」すると、
(テ)ある盾xが存在するならば、ある矛yは存在せず、
   ある矛yが存在するならば、ある盾xは存在しない。が故に、
(ト)盾xと矛yが、「同時に、存在する」といふことはない。
然るに、
(08)
夫不可陷之盾与無不陷之矛、不可同世而立。今堯舜之不可両譽、矛盾之説也=
夫不〔可(陷)〕之楯與[無〔不(陷)〕之矛]、不[可〔同(世)而立〕]。今堯舜之不〔可(両譽)〕、矛楯之説也⇒
夫れ〔(陷す)可がら〕不るの楯と[〔(陷さ)不る〕無きの矛]とは、[〔(世を)同じくして立つ〕可から]不。今堯舜の〔(両つながら譽む)可から〕不るは、矛楯の説なり=
いかなる矛であっても、突き通すことが出来ない「盾」と、いかなる盾であってあっても、突き通さないことが無い「矛」とは、同時に存在することはできない。堯と舜とを同時に誉めたたへることが出来ないのは、この「盾と矛の例へ」と同じである。
cf.
儒教思想を批判した韓非は、儒者が堯・舜を、万人を感化した聖人であるとして賞賛するのを反対して、堯が万人を感化したなら、もはや舜はその後をうけて人民を感化する必要はないし、舜が堯にかわって万人を感化する必要があったとするならば、堯は聖人として不十分であったという証拠になる。という。したがって堯・舜ふたりとも聖人であるというのは矛盾であるとして、この話を引用したのである。
(旺文社、漢文の基礎、1973年、34頁)
従って、
(06)(07)(08)により、
(09)
この場合の「韓非子の説」は、「漢文」としても、「日本語」としても、「述語論理」としても、「正しい」。