◆ タバコ、酒、砂糖にもっと課税すれば死亡率は下がる
~現役医師が提言 (まぐまぐ!ニュース!)
by ドクター徳田安春『ドクター徳田安春の最新健康医学』
◆ STAX(Sugar Tobacco Alcohol Tax)は命を救う
現在、地球上の全ての人間の死亡原因の約70%は生活習慣病です。
毎年、700万人以上の人々が、タバコが原因となる病気で死亡しています。同じように、300万人以上の人々が、アルコールが原因となる病気で亡くなっています。1970年代と比べて、2010年代では、世界中の子供たちの肥満者の割合が10倍以上に増えています。この間、砂糖の消費量が世界的に増えたことが大きく関係しています。最近1年間では、世界で少なくとも400万人以上の人々が、肥満が原因となる病気で死んでいるのです。
そこで注目されているのがSTAX。人類を生活習慣病による死亡から救う最強のツールです。でも、これは薬でもなければ、医療機器でもありません。
STAXはSugar Tobacco Alcohol Taxの略語であり、健康に有害なものに、より多くの税金をかける政策介入です。
すなわち、砂糖、タバコ、そしてアルコールに課税することが人々の命を救うのです。
実際に多くの国々で、政策介入による確実な効果が確認されています。
砂糖税を導入したメキシコでは、最初の1年間で砂糖入りの清涼飲料水の消費量が5%下がりました。その次の1年間でさらに10%下がりました。
1990年代に、たばこ税を大幅に増やした南アフリカでは、喫煙率が約40%も下がりました。
逆に、2003年にアルコール税を減らしたフィンランドでは、アルコールに関連する死亡率が男性で約15%上がってしまい、女性で約30%も増加しました。フィンランドでは、政策の失敗で多くの人が亡くなったのです。
◆ STAX導入を妨げる産業構造
STAXほど有効な健康政策はありません。しかし、現実には世界の国々でこの政策をしっかりと導入しているのは少ないのが現状です。十分に高いレベルのたばこ税についてみてみると、人々のうち約10%程度でしか、この政策が実施されていません。
日本のタバコの値段は欧米諸国と比べてかなり安いままです。日本のタバコは1箱約400円なのに対し、ドイツでは約600円、フランスでは約800円、イギリスでは約1,200円となっています。
健康政策の導入を妨げているのは産業界です。これまで、世界中のたばこ産業は、タバコの販売による経済効果を強調し、闇タバコの流通の恐れを誇大に宣伝していました。タバコ農家への保護の必要性も盾にしておりました。政治家に対するロビー活動は強力です。
一方で、タバコ産業は、タバコの有害性についての研究データを隠していました。アル・パチーノ主演の映画「インサイダー」では、たばこ産業の暗躍ぶりが描かれていました。
アルコールや加工食品の産業も同様な行動をとっています。ウルグアイのモンテビデオで宣言されたWHO生活習慣病対策ロードマップの文言から、アルコールと砂糖税についての言葉が削除されたことは、その行動が成功してしまったことを物語っていました。
しかし、世界中の政治家たちはこのことをだんだんと気づくようになったのです。
◆ それでもSTAX導入は進む
WHOに加えて、元ニューヨーク市長のマイク・ブルームバーグ氏が立ち上げたブルームバーグ・タスクフォースも、STAXを強く推奨したこともあって、世界中の国々の中から、この強力な健康政策を導入する国がどんどん出てきています。
ボツワナ、チリ、エクアドル、インド、メキシコ、ナイジェリア、ペルー、サウジアラビア、南アフリカ、UAE、そしてイギリスなどの国々です。
生活習慣病による死亡は経済的貧困層や低所得国に多く見られます。STAXはそのような人々や国々でより効果を発揮します。持続可能な開発目標(sustainable development goals: SDG)を達成するための有効な手段として、STAXは国連のハイレベル会合でも推奨されるようになりました。
STAXは経済的な有益性ももたらします。
2001年にタバコとアルコールに課税を強化したタイでは、毎年日本円で150億円もの予算が使えるようになり、健康増進に寄与しています。
同様な政策を導入したフィリピンでは、4,000億円ほどの追加収入が得られ、その財源で貧困層の国民対象の保険事業に割り当てています。
また、この税制は逆進性があるのではないかとの批判もありました。しかし、これまでの研究結果から、これらの税制政策はむしろ累進性のものであるというエビデンスがあります。すなわち、低所得者に恩恵を与える税制なのです。
近く日本で行われる予定のG20サミットで、この政策の導入が話し合われ、世界に広がることを期待します。
文献
Fuchs A, Carmen GD, Mukon AK. Long-run impacts of increasing tobacco taxes: evidence from South Africa. Washington, DC: World Bank Group, 2018.
※ドクター徳田安春 この著者の記事一覧
世界最新の健康医学情報について、総合診療医師ドクター徳田安春がわかりやすく解説します。生活習慣病を予防するために健康生活スタイルを実行したい方や病気を克服したいという方へおすすめします。
『まぐまぐ!ニュース!』(2018.07.24)
https://www.mag2.com/p/news/365779?utm_medium=email&utm_source=mag_news_9999&utm_campaign=mag_news_0724
~現役医師が提言 (まぐまぐ!ニュース!)
by ドクター徳田安春『ドクター徳田安春の最新健康医学』
◆ STAX(Sugar Tobacco Alcohol Tax)は命を救う
現在、地球上の全ての人間の死亡原因の約70%は生活習慣病です。
毎年、700万人以上の人々が、タバコが原因となる病気で死亡しています。同じように、300万人以上の人々が、アルコールが原因となる病気で亡くなっています。1970年代と比べて、2010年代では、世界中の子供たちの肥満者の割合が10倍以上に増えています。この間、砂糖の消費量が世界的に増えたことが大きく関係しています。最近1年間では、世界で少なくとも400万人以上の人々が、肥満が原因となる病気で死んでいるのです。
そこで注目されているのがSTAX。人類を生活習慣病による死亡から救う最強のツールです。でも、これは薬でもなければ、医療機器でもありません。
STAXはSugar Tobacco Alcohol Taxの略語であり、健康に有害なものに、より多くの税金をかける政策介入です。
すなわち、砂糖、タバコ、そしてアルコールに課税することが人々の命を救うのです。
実際に多くの国々で、政策介入による確実な効果が確認されています。
砂糖税を導入したメキシコでは、最初の1年間で砂糖入りの清涼飲料水の消費量が5%下がりました。その次の1年間でさらに10%下がりました。
1990年代に、たばこ税を大幅に増やした南アフリカでは、喫煙率が約40%も下がりました。
逆に、2003年にアルコール税を減らしたフィンランドでは、アルコールに関連する死亡率が男性で約15%上がってしまい、女性で約30%も増加しました。フィンランドでは、政策の失敗で多くの人が亡くなったのです。
◆ STAX導入を妨げる産業構造
STAXほど有効な健康政策はありません。しかし、現実には世界の国々でこの政策をしっかりと導入しているのは少ないのが現状です。十分に高いレベルのたばこ税についてみてみると、人々のうち約10%程度でしか、この政策が実施されていません。
日本のタバコの値段は欧米諸国と比べてかなり安いままです。日本のタバコは1箱約400円なのに対し、ドイツでは約600円、フランスでは約800円、イギリスでは約1,200円となっています。
健康政策の導入を妨げているのは産業界です。これまで、世界中のたばこ産業は、タバコの販売による経済効果を強調し、闇タバコの流通の恐れを誇大に宣伝していました。タバコ農家への保護の必要性も盾にしておりました。政治家に対するロビー活動は強力です。
一方で、タバコ産業は、タバコの有害性についての研究データを隠していました。アル・パチーノ主演の映画「インサイダー」では、たばこ産業の暗躍ぶりが描かれていました。
アルコールや加工食品の産業も同様な行動をとっています。ウルグアイのモンテビデオで宣言されたWHO生活習慣病対策ロードマップの文言から、アルコールと砂糖税についての言葉が削除されたことは、その行動が成功してしまったことを物語っていました。
しかし、世界中の政治家たちはこのことをだんだんと気づくようになったのです。
◆ それでもSTAX導入は進む
WHOに加えて、元ニューヨーク市長のマイク・ブルームバーグ氏が立ち上げたブルームバーグ・タスクフォースも、STAXを強く推奨したこともあって、世界中の国々の中から、この強力な健康政策を導入する国がどんどん出てきています。
ボツワナ、チリ、エクアドル、インド、メキシコ、ナイジェリア、ペルー、サウジアラビア、南アフリカ、UAE、そしてイギリスなどの国々です。
生活習慣病による死亡は経済的貧困層や低所得国に多く見られます。STAXはそのような人々や国々でより効果を発揮します。持続可能な開発目標(sustainable development goals: SDG)を達成するための有効な手段として、STAXは国連のハイレベル会合でも推奨されるようになりました。
STAXは経済的な有益性ももたらします。
2001年にタバコとアルコールに課税を強化したタイでは、毎年日本円で150億円もの予算が使えるようになり、健康増進に寄与しています。
同様な政策を導入したフィリピンでは、4,000億円ほどの追加収入が得られ、その財源で貧困層の国民対象の保険事業に割り当てています。
また、この税制は逆進性があるのではないかとの批判もありました。しかし、これまでの研究結果から、これらの税制政策はむしろ累進性のものであるというエビデンスがあります。すなわち、低所得者に恩恵を与える税制なのです。
近く日本で行われる予定のG20サミットで、この政策の導入が話し合われ、世界に広がることを期待します。
文献
Fuchs A, Carmen GD, Mukon AK. Long-run impacts of increasing tobacco taxes: evidence from South Africa. Washington, DC: World Bank Group, 2018.
※ドクター徳田安春 この著者の記事一覧
世界最新の健康医学情報について、総合診療医師ドクター徳田安春がわかりやすく解説します。生活習慣病を予防するために健康生活スタイルを実行したい方や病気を克服したいという方へおすすめします。
『まぐまぐ!ニュース!』(2018.07.24)
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