★ 客観報道の罪
捏造による死刑判決は殺人罪にも匹敵する
鎌田 慧(ルポライター)
再審無罪判決のあと「東京新聞は」との主語で、毎日新聞は編集局長名で、袴田巌さんへ「おわびします」と文章を発表した。筆者が知る限り再審報道で初めてだ。
一家4人殺害や放火。この大事件の報道は連日マスコミで続けられた。
担当した地裁裁判官が、無実の心証をもちながらも容疑者を犯人視するマスコミの影響力を挙げ、死刑の判決文を書いた、と告白する悲劇もあった。
誤報と司法とが1人の人間の一生を破壊した。
読売新聞は謝罪しなかったが、1面中央に社会部長名で「検察は控訴断念を」と主張した。58年も費やされた冤罪の証明のあと、いま最大の不安は検察側が冷酷無謀な控訴に持ち込まないかだ。
ところが謝罪のなかった朝日新聞は、10年前に再審開始を決定した村山浩昭元裁判長の、今回判決の「捜査機関の捏造」説を支持するコメントに対置し、「今回の事件は自白を除いても、有罪方向の証拠がたくさんある…上級審の判断を仰ぐべきではないか」「控訴をする可能性は十分考えられる」(元最高検次長検事・伊藤鉄男氏)と後輩を激励させている。
捜査機関の発表記事に対する、冤罪被害者の無実を叫ぶ声が取り上げられることはない。
捏造による死刑判決は殺人罪にも匹敵する。
その加害者の「控訴の可能性」を示唆する両論併記は、あまりにも権力寄りだ。
『東京新聞』(2024年10月1日【本音のコラム】)
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