東京新聞【こちら特報部】
▼ 玄海原発深まる混迷
九州電力玄海原発2、3号機(佐賀県玄海町)の運転再開問題。あの手この手で封印されてきた住民の不信感が、「やらせメール」や国の場当たり的な対応で、一気に表舞台へ噴き出した。原発依存を「仕方がない」としてきた地元住民の間に対立が生まれ、「脱原発」を求める声が日増しに強くなっている。(佐藤圭、小国智宏)
▼ 再開賛否 対立露わ
「最初からテストすればよかった。国への信頼感がなくなっている」
「福島の事故が収束していないのに、なぜ再開を急ぐのか」
玄海原発2、3号機の運転再開問題をめぐり、佐賀県が八日夜、同県多久市で開いた「県民説明会」。当初は、再稼働を急ぐ経済産業省が、原発の安全性をアピールするのが目的だったが、菅直人首相らが打ち出したストレステスト(耐性評価)などに批判が集中。迷走する国の原子力政策への不信感が噴出した。
同時に、これまで封印されてきた原発反対、推進両派の対立も白日の下にさらされた。会場から発言した参加者の大半が再稼働に否定的。会場を圧した反対派の矛先は経産省だけでなく、一部の賛成派参加者にも向けられた。
▼ 県民説明会「ウソ言うな」ヤジ合戦
「化石燃料はいずれなくなる。だから原発は必要不可欠だ。玄海原発では福島のような地震は絶対に起こらない。こんな大丈夫なものはないと安心し切っている」
賛成派の男性が持論を語り始めると、「頑張れ」と声援が飛ぶ一方、「ウソを言うな」「九電の回し者だろ」などの怒号が飛び交った。
福島第一原発事故と、それに伴う玄海原発運転再開問題を機に、*脱原発のうねりが全県的に起きている。原発を推進してきた九電など地元経済界、佐賀県、玄海町などへの突き上げは強まる一方で、説明会での「ヤジ合戦」は起こるべくして起こった。
拍車をかけたのが、九電の「やらせメール」の発覚だ。九電は、東京電力などと比べると、大きなトラブルや事故、情報隠しなどがなく、「電力界の優等生」と見られてきた。だからこそ、再稼働の“露払い役”を期待されたわけだが、謀略体質が露呈してしまった。
「やらせメール」は、共産党の笠井亮衆院議員が国会で追及したことなどで表面化したが、そもそものきっかけは、九電関連会社の社員から共産党への内部告発だった。
武藤明美・佐賀県議(共産)によると、「やらせメール」の舞台となった県民説明番組前日の六月二十五日、知人を介して内部文書を入手した。九電関連会社が社員あてに「九電本社より要請があったのでご協力ください」と、再稼働への賛成意見をメールで番組に送るよう呼び掛ける内容だったという。
武藤県議は「これまでも世論誘導や、デー夕改ざんなどをやっていたのではないかと疑われても仕方がない」と指摘する。
加えて、岸本英雄玄海町長と古川康知事の九州電力との不透明な関係も公然と語られるようになってた。
▼ 「九電と癒着」不信感
~「岸本組」が17億円超受注
玄海町の隣の唐津市にある建設会社「岸本組」の社長が、岸本町長の実弟であるのは、地元でな誰でもが知る話。
この岸本組が、町長就任の二〇〇六年八月以降の四年八か月間で、電源交付金などの原発マネーを使った町発注工事と玄海原発関連の九電発注工事を少なくとも総額約十七億円分受注し、町長自身も株式の売却益や配当金など約一千万円を得ている。
町長は一九九五年に県議に当選するまで同社の専務取締役を務め、現在も発行株式の約12・5%を握っている。
同社の工事経歴書などによると、二〇〇六年八月~一〇年四月に原発関連で九電から受注した工事費の総額は少なくとも約四億八千万円。消防車車庫の設置工事やケーブルダクト修繕工事などを受注していた。九電の子会社「西日本プラント工業」からも八件、計約一億円の工事を受注している。
岸本組と九電の密接な関係は、玄海原発1号機が着工した直後の七三年ごろから始まった。これまでに事務所棟の建て替えや訓練センターなども受注している。
町から受注した工事費(共同企業体を含む)は、〇六年八月~一一年四月に少なくとも約二十二億九千万円。そのうち約十二億二千万円分が電源交付金や県核燃料サイクル補助金を財源に使った事業だった。
九電が二十億円を寄付して唐津市に建設された早稲田大学系列の早稲田佐賀中学・高校も、岸本組が共司企業体で受注した。
岸本町長は「株は持っているが、会社の経営には関わっていない。原発の運転再開問題に影響することはない」と話しているが、この問題を追及してきた藤浦晧町議(共産)は「九電との癒着が、町長の政策判断に影響を与えているのではないか」と強く批判する。
▼ 知事は父が元社員、社宅育ち
古川知事と九電の関係も深い。古川知事は唐津市の出身で父親は九電の社員だった。前出の武藤県議は「福岡市内の九電社宅の人から『古川知事は子ど一のころ、ここにいた』という話をよく聞く」と明かす。
九電の歴代の佐賀支店長や玄海原発所長らが、古川知事の政治団体に個人献金していたことも明らかになっている。
また九電が古川県政下で、県内のさまざまな事業に多額の寄付をしていることも注目される。前出の早稲田佐賀中学・高校を筆頭に、県の炭素線がん治療施設に三十九億七千万円、唐津市の再開発ビル計画に五億円という具合だ。
武藤県議は「古川知事が運転再開に熱心なのは、このような九電との関係があるからではないか」と憤る。
玄海町に住む男性も「政府が玄海原発を運転再開の第一号に選んだのは、町長や知事が九電と関係が深いことを見込んだのではないか」と話す。
▼ 同じ日の夜に「住民がつくる説明会」も
県民説明会が開かれた八日夜、玄海原発の運転再開に反対する市民団体は、佐賀市内で「住民がつくる玄海原発説明会」を開催。約四百人が参加した。
藤田祐幸・元慶応大助教授らが、参加者の質問に答える形で進行。藤田氏は、玄海原発1号機の原子炉の劣化の指標となる脆性遷移温度に触れ、「大変危険な状態。すぐに止めないと危ない」と指摘した。
元ゼネラル・エレクトリック社員で福島第一原発の建設にも携わった菊地洋一・鹿児島大非常勤講師は「国も電力会社もこれまでウソばかりついてきた。ストレステストなどの机上の計算で安全を信用すべきではない」と話した。
福島市から四歳の娘を浬れて福岡県福津市に避難している女性(39)が「福島で原発反対を訴えていたが、事故が起きてしまった。二度とこんな事故を起こさぜないよう原発を止めなければならない」と涙ながらに訴えると、割れるような拍手が起きた。
【デスクメモ】
原発はすでに破綻したビジネスだ。政治的な意味を排して、経済ベースで考えれば、もうからないのは誰もが知っているっそれでも「負け戦」を口にはできない風土が電力会社の周辺にはあるという。「やらせメール」を強要された下請け社員たちは、どんな気持ちだったか。指示した者の罪は深い。(充)
『東京新聞』(2011/7/10【こちら特報部】)
▼ 玄海原発深まる混迷
九州電力玄海原発2、3号機(佐賀県玄海町)の運転再開問題。あの手この手で封印されてきた住民の不信感が、「やらせメール」や国の場当たり的な対応で、一気に表舞台へ噴き出した。原発依存を「仕方がない」としてきた地元住民の間に対立が生まれ、「脱原発」を求める声が日増しに強くなっている。(佐藤圭、小国智宏)
▼ 再開賛否 対立露わ
「最初からテストすればよかった。国への信頼感がなくなっている」
「福島の事故が収束していないのに、なぜ再開を急ぐのか」
玄海原発2、3号機の運転再開問題をめぐり、佐賀県が八日夜、同県多久市で開いた「県民説明会」。当初は、再稼働を急ぐ経済産業省が、原発の安全性をアピールするのが目的だったが、菅直人首相らが打ち出したストレステスト(耐性評価)などに批判が集中。迷走する国の原子力政策への不信感が噴出した。
同時に、これまで封印されてきた原発反対、推進両派の対立も白日の下にさらされた。会場から発言した参加者の大半が再稼働に否定的。会場を圧した反対派の矛先は経産省だけでなく、一部の賛成派参加者にも向けられた。
▼ 県民説明会「ウソ言うな」ヤジ合戦
「化石燃料はいずれなくなる。だから原発は必要不可欠だ。玄海原発では福島のような地震は絶対に起こらない。こんな大丈夫なものはないと安心し切っている」
賛成派の男性が持論を語り始めると、「頑張れ」と声援が飛ぶ一方、「ウソを言うな」「九電の回し者だろ」などの怒号が飛び交った。
福島第一原発事故と、それに伴う玄海原発運転再開問題を機に、*脱原発のうねりが全県的に起きている。原発を推進してきた九電など地元経済界、佐賀県、玄海町などへの突き上げは強まる一方で、説明会での「ヤジ合戦」は起こるべくして起こった。
拍車をかけたのが、九電の「やらせメール」の発覚だ。九電は、東京電力などと比べると、大きなトラブルや事故、情報隠しなどがなく、「電力界の優等生」と見られてきた。だからこそ、再稼働の“露払い役”を期待されたわけだが、謀略体質が露呈してしまった。
「やらせメール」は、共産党の笠井亮衆院議員が国会で追及したことなどで表面化したが、そもそものきっかけは、九電関連会社の社員から共産党への内部告発だった。
武藤明美・佐賀県議(共産)によると、「やらせメール」の舞台となった県民説明番組前日の六月二十五日、知人を介して内部文書を入手した。九電関連会社が社員あてに「九電本社より要請があったのでご協力ください」と、再稼働への賛成意見をメールで番組に送るよう呼び掛ける内容だったという。
武藤県議は「これまでも世論誘導や、デー夕改ざんなどをやっていたのではないかと疑われても仕方がない」と指摘する。
加えて、岸本英雄玄海町長と古川康知事の九州電力との不透明な関係も公然と語られるようになってた。
▼ 「九電と癒着」不信感
~「岸本組」が17億円超受注
玄海町の隣の唐津市にある建設会社「岸本組」の社長が、岸本町長の実弟であるのは、地元でな誰でもが知る話。
この岸本組が、町長就任の二〇〇六年八月以降の四年八か月間で、電源交付金などの原発マネーを使った町発注工事と玄海原発関連の九電発注工事を少なくとも総額約十七億円分受注し、町長自身も株式の売却益や配当金など約一千万円を得ている。
町長は一九九五年に県議に当選するまで同社の専務取締役を務め、現在も発行株式の約12・5%を握っている。
同社の工事経歴書などによると、二〇〇六年八月~一〇年四月に原発関連で九電から受注した工事費の総額は少なくとも約四億八千万円。消防車車庫の設置工事やケーブルダクト修繕工事などを受注していた。九電の子会社「西日本プラント工業」からも八件、計約一億円の工事を受注している。
岸本組と九電の密接な関係は、玄海原発1号機が着工した直後の七三年ごろから始まった。これまでに事務所棟の建て替えや訓練センターなども受注している。
町から受注した工事費(共同企業体を含む)は、〇六年八月~一一年四月に少なくとも約二十二億九千万円。そのうち約十二億二千万円分が電源交付金や県核燃料サイクル補助金を財源に使った事業だった。
九電が二十億円を寄付して唐津市に建設された早稲田大学系列の早稲田佐賀中学・高校も、岸本組が共司企業体で受注した。
岸本町長は「株は持っているが、会社の経営には関わっていない。原発の運転再開問題に影響することはない」と話しているが、この問題を追及してきた藤浦晧町議(共産)は「九電との癒着が、町長の政策判断に影響を与えているのではないか」と強く批判する。
▼ 知事は父が元社員、社宅育ち
古川知事と九電の関係も深い。古川知事は唐津市の出身で父親は九電の社員だった。前出の武藤県議は「福岡市内の九電社宅の人から『古川知事は子ど一のころ、ここにいた』という話をよく聞く」と明かす。
九電の歴代の佐賀支店長や玄海原発所長らが、古川知事の政治団体に個人献金していたことも明らかになっている。
また九電が古川県政下で、県内のさまざまな事業に多額の寄付をしていることも注目される。前出の早稲田佐賀中学・高校を筆頭に、県の炭素線がん治療施設に三十九億七千万円、唐津市の再開発ビル計画に五億円という具合だ。
武藤県議は「古川知事が運転再開に熱心なのは、このような九電との関係があるからではないか」と憤る。
玄海町に住む男性も「政府が玄海原発を運転再開の第一号に選んだのは、町長や知事が九電と関係が深いことを見込んだのではないか」と話す。
▼ 同じ日の夜に「住民がつくる説明会」も
県民説明会が開かれた八日夜、玄海原発の運転再開に反対する市民団体は、佐賀市内で「住民がつくる玄海原発説明会」を開催。約四百人が参加した。
藤田祐幸・元慶応大助教授らが、参加者の質問に答える形で進行。藤田氏は、玄海原発1号機の原子炉の劣化の指標となる脆性遷移温度に触れ、「大変危険な状態。すぐに止めないと危ない」と指摘した。
元ゼネラル・エレクトリック社員で福島第一原発の建設にも携わった菊地洋一・鹿児島大非常勤講師は「国も電力会社もこれまでウソばかりついてきた。ストレステストなどの机上の計算で安全を信用すべきではない」と話した。
福島市から四歳の娘を浬れて福岡県福津市に避難している女性(39)が「福島で原発反対を訴えていたが、事故が起きてしまった。二度とこんな事故を起こさぜないよう原発を止めなければならない」と涙ながらに訴えると、割れるような拍手が起きた。
【デスクメモ】
原発はすでに破綻したビジネスだ。政治的な意味を排して、経済ベースで考えれば、もうからないのは誰もが知っているっそれでも「負け戦」を口にはできない風土が電力会社の周辺にはあるという。「やらせメール」を強要された下請け社員たちは、どんな気持ちだったか。指示した者の罪は深い。(充)
『東京新聞』(2011/7/10【こちら特報部】)
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