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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ 岐阜県警「市民監視事件」控訴審で画期的判決

2024年11月10日 | 人権

 ★ 公安警察「個人情報収集」も違法、抹消も命じる (週刊金曜日)

井澤宏明(いざわひろあき・ジャーナリスト)

 地域に持ち上がった巨大開発計画に疑問を抱いた市民や周囲の人たちを敵視し、計画推進のために開発業者に肩入れして監視する。そんな「公安警察」の野放図ともいえる振る舞いに「待った」をかけ、声を上げる市民を励ます画期的な司法判断が9月、名古屋高裁で下され、翌月確定した。

 2014年7月、『朝日新聞』がスクープした「大垣警察市民監視事件」
 岐阜県警の大垣署が同県大垣市などに風力発電施設の建設を計画している中部電力の子会社シーテック(本社・名古屋市、以下シ社)と情報交換を繰り返していたことを、同社の「議事録」を入手し、明らかにしたものだ。
 同議事録で大垣署から名指しされ、人物評や市民運動歴、学歴、体調などを漏らされた同市住民の4人はプライバシーや表現の自由を侵害されたなどとして、国と県を相手に損害賠償と個人情報抹消を求めて岐阜地裁に提訴。
 同地裁は22年2月の判決で、個人情報の「提供」を違法として県に賠償を命じたが、個人情報抹消請求は退けた(本誌22年3月4日号既報)。

 今年9月13日の控訴審判決で、名古屋高裁の長谷川恭弘(はせかわやすひろ)裁判長は、個人情報の「収集」も「プライバシーを侵害するもので違法」と認め、原告が求めた損害賠償の満額計440万円の支払いを県に命じた。
 さらに、シ社の議事録に記載されている個人情報については、県警が保有していると認められるとして抹消を命じた
 原告弁護団によると、公安警察による個人情報収集を裁判所が違法と認め、抹消を命じたのは初めてだという。

 長谷川裁判長は、大垣署が一部の原告の活動を妨害し、シ社を援助する目的で個人情報を収集、提供したことは警察法2条2項が定める「不偏不党且(か)つ公平中正」に照らし「その目的において違法で、少なくとも明らかに社会的相当性を欠いたもので、警察官の情報収集活動等に裁量権があるとしても、裁量権を逸脱するものであり、少なくともこれを濫用するものだといわざるを得ない」と断じた。
 加えて「市民運動やその萌芽(ほうが)の段階にあるものを際限なく危険視して情報収集し、監視を続けるということが憲法21条1項による集会・結社・表現の自由等の保障に反することは明らか」と違憲性に踏み込んだ。

 ★ 一審は市民運動に偏見

 判決後の記者会見で弁護団長の山田秀樹(やまだひでき)弁護士は「大垣署が情報収集、保有、提供した目的が、市民運動を監視するためだということがそもそも違法だと、私たちの言いたいことをズバリと認めてくれた判決だ」と高く評価した。
 原告の控訴理由の一つが、一審判決の「市民運動」に対する偏見だった。
 岐阜地裁の鳥居俊一裁判長は同判決で「情報収集を違法とまではいえない」とする理由を「原告らの活動が市民運動に発展した場合、公共の安全と秩序の維持を害する事態に発展する危険性はないとはいえない」と偏見を露(あら)わにしていた。

 これに対し二審判決は、風力発電施設が計画されていた同市上石(かみいし)津町上鍛治屋(つちょうかみかじや)地区に住む原告2人が専門家を招いて勉強会を開いたり、自治会として建設中止を求める嘆願書を市長や知事あてに提出したりしたことを「国民が、自らの権利を侵害されないようにするために、当然に認められなければならないもので、憲法によっても保障されている」として続けた。
 「仮に(このような活動が市民運動に発展したとしても、犯罪行為等の恐れが生じるものではなく、マスコミ等や地方議会等で取り上げられるなどすれば、より透明性のある公共の場での実質的な議論が可能となるし、地域の住民や国民全体の問題への関心が高まることも期待できるから、社会的にも望ましいことであるといえる」
 勉強会を開いた原告の1人、住職の松島勢至(まつしませいし)さん(72歳)は判決を受け「僕の40年やってきたことが認められた」と涙ぐんだ。
 原告で元養鶏業の三輪唯夫(みわただお)さん(75歳)と1980年代、地元のゴルフ場計画の反対運動をした。
 最初の議事録(13年8月7日)で2人は「風力発電に拘らず、自然に手を入れる行為自体に反対する人物であることを御存じか」(大垣署)、「地元の有力者から、あいつらは何でも反対する共産党と呼ばれていると聞いている」(シ社)などと名指しされていた。
 さらに2回目(14年3月4日)には「上鍛治屋地区を孤立化させる。周りの地区から、『なぜ賛成できないか』の声が上がるよう仕向けたい」(シ社)と記された。

 二審判決はこうした情報交換について「地域住民を分断させ、住民間のトラブルを発生させようとしているものといえるのであり、公共の安全や秩序が害されることにもなり得るので、まさにマッチポンプといい得る」と非難した。

 ★ 情報収集のルール作りを

 今回の事件には風力発電施設と無関係の2人も巻き込まれた。その1人が「徳山(とくやま)ダム建設中止を求める会」など市民運動に長年携わってきた近藤(こんどう)ゆり子さん(75歳)だ。
 議事録では「このような人物と繋がると、やっかい」(大垣署)とされた。「何かやると(警察に)見張られていると心配をしなければならないようなことが、この民主主義社会であってはならないはず。自分の生き方を裁判所に認めていただいたと思っている」と、判決に満面の笑みを見せた。
 原告の船田伸子(ふなだのぶこ)さん(67歳)は20年以上、弁護士法人「ぎふコラボ」(大垣市)で勤務し事務局長も務めた。
 議事録で名指しされたうえ「岐阜コラボ法律事務所との連携により、大々的な市民運動へと展開すると御社の事業も進まないことになりかねない」(大垣署)とされた。
 「監視されていることによって、自分だけでなく家族や友人や多くの知人たちにまで情報収集の手が伸びていることに恐怖を感じた」と、この10年を振り返った。
 控訴審では原告側証人の實原隆志(じつはらたかし)・南山大学大学院教授(憲法)が「市民運動が萎縮(いしゅく)させられる可能性がある」としてドイツの例を挙げ、警察の情報収集や保有のルール作りの必要性を指摘した。

 これに対して判決は「警察による情報収集活動について、どのようなものが収集、保有及び利用の対象となるのかなどを明確にした法律上の規律はないし、捜査機関から完全に独立した公平、公正な判断ができる第三者機関も存在しない」と認め、「明確に規定する具体的な法律上の根拠があることが望ましい」と言及した。

 ★ 双方上告せず判決が確定

 三輪さんは「地域の問題に声を上げていることを正確に反映し、原告に寄り添った判決だ」と評価する一方、最新の「警察白書」(2024年版)に市民運動が「大衆運動」としていまだに取り締まりの対象のように記されていることを疑問視する。
 「取り締まらなくてもいい市民運動を取り締まっているのが問題。(情報収集を監視する)第三者機関が必要だ」

 原告は9月27日、「望みうる最高の判決」だとして最高裁に上告しないと表明。岐阜県も10月2日、上告断念を発表し、二審判決は確定した。
 県警の三田豪士本部長は10月4日の県議会一般質問で敗訴の要因を「警察の情報収集という事柄の性質上、当方からその目的、態様等を明らかにできなかったところにあると考えている」と述べ、反省は一切口にしなかった
 県警は同月1日に個人情報の抹消を行なったと原告に通知した。
 控訴審判決を受けてシーテック総務・労務部の広報担当者は「警察との情報交換については、今回の判決で収集や提供は違法と判断されたと思うので、そういったところにわれわれが関与していたのは結果的にちょっと良くなかったかなと思う」とし、警察との情報交換は現在、「事業を行なううえで必要がない」として行なっていないという。
 問題となった風力発電施設は「今も検討中」という。
 確定した判決文は「『もの言う』自由を守る会」のホームページに公開されている。


『週刊金曜日 1496号』(2024年11月8日)

 


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