◆ 教育と愛国 (東京新聞【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
安倍晋三元首相のモリカケ問題、菅義偉前首相の学術会議会員候補の任命拒否事件。
一方は学校建設に政治家が顔を利かせた私物化の疑惑で、一方は気に食わない学者の露骨なパージである。
このふたりの政治家に至るまで、戦後教育へのアメとムチの経過が映画『教育と愛国』〈斉加尚代監督)に記録されている。
映画の巻頭でパン屋を題材にしていた小学校の「道徳」教科書が、検定の結果、和菓子屋に変えられた話が紹介されている。まるでマンガだ。
戦時中に野球の「ストライク」が「敵性語」として「よし」に変更された故事を想(おも)い起こした。
学問の独立は民主主義の根幹だ。しかし、二〇〇六年に安倍政権が教育基本法に「愛国心」を挿入させ、教科書の検定が強められた。
「従軍慰安婦」は軍の関与を消して「慰安婦」にされ朝鮮人や中国人の「強制連行」は「動員」にされた。
戦争の負の部分は消される。
わたしは「少国民」をつくる、「国民学校」一年生の夏、敗戦を告げる天皇の玉音放送を疎開先で聞いた。
国定教科書には絵入りで、「ススメ ススメ ヘイタイススメ」と勇ましく書かれ、軍国教育が徹底されていた。
もしも十年早く生まれていたら、わたしも中国か南洋の島で戦死か戦病死していたであろう。
教育の力をうまく利用し、子どもを戦地に駆りたてたのが、日本の教科書だった。
『東京新聞』(2022年1月1日【本音のコラム】)
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