◆ 市教委、提言校長に文書訓告
松井大阪市長批判に賛同する保護者ら255人が意見書 (金曜アンテナ)
大阪市立木川南小学校の久保敬(くぼたかし)校長が今年5月17日、同市の松井一郎(まついいちろう)市長に送った「大阪市教育行政への提言」は大きな反響を呼んだ(本誌5月28日号参照)。
しかし8月20日、同市教育委員会は、久保校長が同提言で「他校の状況等を斟酌(しんしやく)することなく、独自の意見に基づき、本市の学校現場全体でお粗末な状況が露呈し、混乱を極め、子どもの安心・安全が保障されない状況を作り出していると断じ、(中略)教育委員会の対応に懸念を生じさせた」などとし、「文書訓告」処分にした。
久保校長は筆者の取材に「学校現場全体は混乱していなかったと言うならその事実を示してほしい。これでは誰が何を言っても『独自の意見』になり、言論の自由を奪う。懸念を生じさせたのは市長や市教委のとった措置ではないのか。そこでどんな協議をしたのか説明すべきです」と話した。
今年4月、コロナ禍の緊急事態宣言下で松井市長が、ネット環境が十分整備されていないにもかかわらずオンライン授業を行なうと市教委の頭越しに発表したことで小中学校の現場は大混乱した。
久保校長は5月の提言で、子どもの安全・安心も学ぶ権利も保障されず「胸をかきむしられる思い」だと表明。
より根本的な問題として不登校、いじめ、自殺などの増大を挙げ、背景に過度な競争があると指摘。
「競争」より「協働」の社会でなければ持続可能にならず、政治的権刀を持つ人に大きな責任が課せられていると指摘した。
これに対し松井市長は「もっと競争するよりすべての人を許容する社会で子どもが生きていければ理想。だが、(久保校長は)社会人として外に出たことあるんかな」「決められた仕事をしていなければ処分されます」などと述べた。
この状況に同市立港中学校の名田正廣(なだまさひろ)校長も自身の「大阪市教育への提言」と、久保提言に賛同する保護者や教員、市民や有識者ら255人から集めた意見書を、7月7日に市教委の山本晋次(やまもとしんじ)教育長に提出した。
名田校長は「提言」で
①久保校長を処分しないこと
②教育の(政治からの)独立性の担保
③教員の意見表明がしやすくなるシステムの構築
④この提言と意見書を公開文書にして
⑤松井市長にも届けること、
を要望。
同校長は「久保校長の提言は教育の本質から大阪の今の教育の問題点を突いている。孤立させたらアカン」と自身の「提言」で「首長は地方教育行政法による教育委員会議を経て議事録を残すなどの手順なく、教育カリキュラムに介入するのは明らかに法令違反」と市長の「越権行為」を指摘した。
◆ “教育劣化”の構造
さらに名田校長は「提言」で、同市の橋下徹(はしもととおる)元市長が2012年に「公務員という肩書で個人的な見解を言うべきではない」とする文書を出して以来「圧迫された現場の空気は大阪市の教育をどんどん劣化させている」と指摘。
20年度の同市中学校の教員採用選考試験の倍率が近畿圏最下位であり、同市甲学生の不登校率が10年度は4・1%(約2000人)だったのに、20年度には6・1%(約3000人)と約50%も増加した事実を挙げ、同市の教育が子どもたちの「生きる力」をつけているのか検証すべきだとしている。
名田校長の「提言」に対し久保校長は「大阪市の教育の問題を構造的に捉えている」と評価。
「子どもたちが何に行き詰まって不登校が増えているのか、子ども一人ひとりに向き合っていくことが教員のやりがいなのにテストの点をあげることに教育の目的がすりかわっています。その問題点を自由に意見表明できるシステムもありません」と話した。
名田校長の疑問に松井市長はどう答えるのか。筆者は市長に質問状を送ったが「市教委が答えるべきもの」と拒まれた。
また、市教委にも提言と意見書を松井市長に届けたかを確認したが「名田校長らの文書は教育長あてで市教委で対応すべきもの。市長には届けていません」との回答だった。
名田校長は「必ず市長に届くように動きます」と語った。
『週刊金曜日 1342号』(2021.8.27)
松井大阪市長批判に賛同する保護者ら255人が意見書 (金曜アンテナ)
永尾俊彦・ルポライター
大阪市立木川南小学校の久保敬(くぼたかし)校長が今年5月17日、同市の松井一郎(まついいちろう)市長に送った「大阪市教育行政への提言」は大きな反響を呼んだ(本誌5月28日号参照)。
しかし8月20日、同市教育委員会は、久保校長が同提言で「他校の状況等を斟酌(しんしやく)することなく、独自の意見に基づき、本市の学校現場全体でお粗末な状況が露呈し、混乱を極め、子どもの安心・安全が保障されない状況を作り出していると断じ、(中略)教育委員会の対応に懸念を生じさせた」などとし、「文書訓告」処分にした。
久保校長は筆者の取材に「学校現場全体は混乱していなかったと言うならその事実を示してほしい。これでは誰が何を言っても『独自の意見』になり、言論の自由を奪う。懸念を生じさせたのは市長や市教委のとった措置ではないのか。そこでどんな協議をしたのか説明すべきです」と話した。
今年4月、コロナ禍の緊急事態宣言下で松井市長が、ネット環境が十分整備されていないにもかかわらずオンライン授業を行なうと市教委の頭越しに発表したことで小中学校の現場は大混乱した。
久保校長は5月の提言で、子どもの安全・安心も学ぶ権利も保障されず「胸をかきむしられる思い」だと表明。
より根本的な問題として不登校、いじめ、自殺などの増大を挙げ、背景に過度な競争があると指摘。
「競争」より「協働」の社会でなければ持続可能にならず、政治的権刀を持つ人に大きな責任が課せられていると指摘した。
これに対し松井市長は「もっと競争するよりすべての人を許容する社会で子どもが生きていければ理想。だが、(久保校長は)社会人として外に出たことあるんかな」「決められた仕事をしていなければ処分されます」などと述べた。
この状況に同市立港中学校の名田正廣(なだまさひろ)校長も自身の「大阪市教育への提言」と、久保提言に賛同する保護者や教員、市民や有識者ら255人から集めた意見書を、7月7日に市教委の山本晋次(やまもとしんじ)教育長に提出した。
名田校長は「提言」で
①久保校長を処分しないこと
②教育の(政治からの)独立性の担保
③教員の意見表明がしやすくなるシステムの構築
④この提言と意見書を公開文書にして
⑤松井市長にも届けること、
を要望。
同校長は「久保校長の提言は教育の本質から大阪の今の教育の問題点を突いている。孤立させたらアカン」と自身の「提言」で「首長は地方教育行政法による教育委員会議を経て議事録を残すなどの手順なく、教育カリキュラムに介入するのは明らかに法令違反」と市長の「越権行為」を指摘した。
◆ “教育劣化”の構造
さらに名田校長は「提言」で、同市の橋下徹(はしもととおる)元市長が2012年に「公務員という肩書で個人的な見解を言うべきではない」とする文書を出して以来「圧迫された現場の空気は大阪市の教育をどんどん劣化させている」と指摘。
20年度の同市中学校の教員採用選考試験の倍率が近畿圏最下位であり、同市甲学生の不登校率が10年度は4・1%(約2000人)だったのに、20年度には6・1%(約3000人)と約50%も増加した事実を挙げ、同市の教育が子どもたちの「生きる力」をつけているのか検証すべきだとしている。
名田校長の「提言」に対し久保校長は「大阪市の教育の問題を構造的に捉えている」と評価。
「子どもたちが何に行き詰まって不登校が増えているのか、子ども一人ひとりに向き合っていくことが教員のやりがいなのにテストの点をあげることに教育の目的がすりかわっています。その問題点を自由に意見表明できるシステムもありません」と話した。
名田校長の疑問に松井市長はどう答えるのか。筆者は市長に質問状を送ったが「市教委が答えるべきもの」と拒まれた。
また、市教委にも提言と意見書を松井市長に届けたかを確認したが「名田校長らの文書は教育長あてで市教委で対応すべきもの。市長には届けていません」との回答だった。
名田校長は「必ず市長に届くように動きます」と語った。
『週刊金曜日 1342号』(2021.8.27)
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