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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

学習指導要領改訂をめぐり文科省の"愛国心"強制の教育を諌める中教審WG委員の発言

2016年06月27日 | こども危機
 ● 学習指導要領改定で高校生に「国家への参画」まで要求
   ~中教審で反論相次ぎ、文科省が原案を修正
(マスコミ市民)
永野厚男・教育ジャーナリスト


――文科省の「国家に参画」の原案を文言修正した中教審WG(6月13日、撮影・岡本清弘氏)――

 第1次安倍政権下、文部科学省は2006年の教育基本法改定に続き、07年、学校教育法の義務教育の"目標"にも「我が国・・・を愛する態度」の強制を盛ったり(第21条)、「文部科学大臣が定める」とする対象を"教科に関する事項"から"教育課程全般"に明実ともに拡大したり(第33条)した。これより前から東京都教育委員会などは、"愛国心"や"君が代"など、国家主義イデオロギー教育を強化してきているが、この学校教育法第33条を根拠とする、文部科学相"告示"の学習指導要領(以下、指導要領)を盾に、全国の多くの教育委員会は学校現場に介入する動きを加速させている。現時点での指導要領改定を巡る文科省の動向を追う。
 ● 文科省の「国家への参画」要求に、委員3人が反論
 小学校で2020年度、中学は21年度、高校は22年度から年次進行で実施する、指導要領改定を審議する中央教育審議会の部会等の会議で、文科省の国家への"動員"や"愛国心"強制の教育を諌める委員の発言が相次いでいる。
 今年5月26日、「育成すべき資質・能力」などを審議する中教審教育課程部会の社会・地理歴史・公民ワーキンググループ(以下、WG)の会合で、文科省は高校の新必修科目「公共」(【注1】参照)の構成内容に関する原案を出した。
 そのうち、「配布資料17の1=高校の新科目『公共』の改訂の方向性(案)」、「同17の2=高校の新科目『公共』の構成②(案)」なるペーパーは、「自立した主体として」という語句を冠してはいるものの、生徒に「国家・社会に参画し」と要求。
 だが、第1次安倍政権が「我が国・・・を愛する態度」の強制を盛るなど改定した教育基本法第2条3号は、「主体的に社会の形成に参画し」という文言はあるものの、「国家への参画」までは求めていない。改定教育基本法をも逸脱しているのだ。
 このため同日のWGでは、3人の委員が次のように反論した。

 ◇ 岡崎竜子(りゅうこ)金融広報中央委員会金融教育プラザリーダー:公務員なら「国家に参画」と言ってよいが、一人一人の児童・生徒に(国家への)「参画」まで求めるのは、いかがなものか
 ◇ 村松剛(つよし)弁護士:まず社会と関係があって、その延長線上に国家がある。対国家というメッセージが強い印象になるので、どうしてもというなら「社会・国家」の順にしてほしい
 ◇ 池野範男(のりお)広島大学教授:(教育の目的を規定した改定教育基本法第1条の)「平和で民主的な国家及び社会の形成者として」と、今回(出した文科省)の「国家・社会に参画し」は違う。「社会」はいいが、(児童・生徒を)「国家」に参画させるのは一種の動員だ
 これらの反論を受け、文科省は6月13日のWGで「国家・社会の形成に参画し」と、文言修正した。
 複数の傍聴者が6月13日のWG終了後、経緯や理由を問うと、同省教育課程課の担当者は次のように説明した。
 ① 昨年12月7日の第1回WGで「自分自身が家族・地域・国家・国際社会という協働関係の中でどういう役割を果たしていくのかを考えてもらうというのが大事である」などの委員の発言があり、5月26日の資料では、「参画」の対象に「国家」を入れた。
 ② だが、同26日の委員3人の指摘もあり今回、「の形成」という語句を加筆し教育基本法第1条の「・・・国家及び社会の形成者として・・・」という規定に沿う表現に修正した。
 旧教育課程審議会(中教審教育課程部会の前身)の1987年12月の答申を受け、89年3月、小中高校の指導要領で卒業・入学式等での"君が代"強制を強化した文部省(当時)は、「国旗及び国歌の指導については、日本人としての自覚を高め国家社会への帰属意識を涵養するとともに、国際社会において信頼される日本人を育てる観点から、その充実を図ることとした」と明言(「学習指導要領等の改訂の経過」と題する資料)。
 今回、一時とはいえ文科省が出した「国家への参画」の要求は、この「国家への帰属意識」強制の根底にある、"国家が主、児童生徒は従"という国家至上主義が背後にあるのではないか。
 ● 世界史でも日本史と同一表現で、"愛国心"を強制
 文科省の"愛国心"教育強制にも、数人の委員から異論が出ている。
 5月26日のWGで、文科省は「配布資料8=社会・地理歴史・公民における社会的な見方・考え方のイメージ(案)」なるペーパーを出し、「主体的に学習に取り組む態度や学習を通して涵養される自覚や愛情など」を「育成すべき資質・能力」だと主張。
 これに対し、頼住光子(よりずみ みつこ)東京大学教授は「『愛情』という語は分かりにくい。郷土愛などの方がよい」と述べた。
 傍聴者3人が閉会後、頼住教授に発言の真意を問うと、教授は「愛情という語は他者への共感とか配慮とかで使うと思うが、文科省が、まさか愛国心を意図し使っているとは思わなかった」と、発言に至る経緯を説明。
 教授の指摘通り、同省の「配布資料7=WG取りまとめ案」は、「育成すべき・・・」の内容に「自国を愛しその・・・繁栄を図る」「我が国の歴史に対する愛情」「日本国民としての自覚」という語句が繰り返され、ナショナリズム満載だった。
 5月18日の高校の地歴・公民科科目の在り方に関する特別チーム(主査:田中愛治(あいじ)早稲田大学教授)の「資料17=育成すべき資質・能力の整理(案)」の審議で、文科省は日本史と世界史に関わる探究科目(選択)の「資質・能力の3つの柱」のうちの「学びに向かう力・人間性」について、日本史・世界史とも、「日本国民としての自覚」「我が国の歴史に対する愛情」と、同一表現の"愛国心"の育成を提示。
 これに対し、委員の磯谷正行(いそがいまさゆき)愛知県立岡崎高校教頭は、「日本を愛するために世界史を教えているわけではない。世界史の一番目の目標は、『日本国民としての自覚』ではなく世界市民を育てること。違和感がある」と発言。田中主査も「日本史の場合でも、日本から見た世界を常に意識しないといけない」と述べた。
 だが5月18日・26日の両日とも、居並ぶ文部官僚はコメントしなかった。
 なおWGではこの他にも、以下の通り文科省を諌める発言が相次いでいる。

 ◇ 2月29日、文科省のナショナリズム満載の「たたき台」に対し、前出の岡崎委員が「自国を愛することが強調され過ぎていないか」と指摘。
 一ノ瀬正樹・東京大学教授も「日本は単一民族国家ではないのに、指導要領に在日外国人やニューカマーの記述がない。『寛容』というキーワードとともに言及頂きたい」と発言。
 ◇ 6月13日、文科省の出した「配布資料13=社会・地理歴史・公民における教育のイメージ(案)」の「高校地理歴史科で養う資質能力」の記述に対し、井田仁康(よしやす)筑波大学教授が、「『日本国民としての自覚』とあるが、『国際社会に生きる人間としての自覚』又は『国際社会の一員としての自覚』も入れるべき」と指摘。
 ● 傍聴者ら「教育内容への政治介入」に監視呼びかけ
 小中学校の現行指導要領は改定案公表当日の08年2月15日、安倍晋三氏に近い衛藤晟一(えとうせいいち)自民党参院議員(68歳)が文科省を訪れ、当時の・尭始臓覆澆舛笋后剖軌蕾歡・歡后文愁好檗璽陳・…后砲班・爾旅臈津・此覆瓦Δ世討弔・剖軌蕾歡・覯莠篠后文酋軌蕾歡・歡后砲膨消免宗」
 そして、日本会議系の改憲政治団体がネットでサンプルを提示し、数だけ稼ぐ組織的なパブリックコメント工作を展開した。
 こういう政治介入の下、文科省は08年3月28日の現行指導要領告示では、
  ①"愛国心"教化を全教育課程に関係してくる「総則」に盛り、
  ②小学校音楽の"君が代"で1年生(6歳児)から「歌えるよう指導する」と加筆するなど、
 テニヲハに留まらない、異例の根幹に関わる"修正"を強行してしまった(【注2】参照)。
 傍聴終了後、研究者や元公立学校教諭らからは、「08年時のような、政権政党やその支持勢力による政治介入、文科省による国家主義色の一層の強化がないよう、中教審の動向を監視し、実態を世論に訴えていこう」などの声が相次いだ。
 【注1】 新科目「公共」は、自民党が10年の参院選政策集『 J-ファイル2010(マニフェスト)』で、「国旗・国歌を尊重し、わが国の将来を担う主権者を育成する教育を推進します。《略》自虐史観偏向教育等は行わせません。道徳教育《略》等の推進を図るため」という、政治色の濃い目的で設置を主張したのが始まり。この下りの標題は「世界トップレベルの学力と規範意識を兼ね備えた教育」となっており、自民党は「公共」を小中学校の道徳"教科化"と連動させ議論してきたのだ。そして、自民党文部科学部会のプロジェクトチーム(座長・松野博一(ひろかず)衆院議員)は13年6月18日、「公共」を高校の教育課程に設けるよう下村博文(はくぶん)文科相(当時)に提言した。これを受け14年11月20日、下村氏が中教審に諮問した文書は、「国家及び社会の責任ある形成者となるための教養と行動規範や、主体的に社会に参画し自立して社会生活を営むために必要な力を、実践的に身に付けるための新たな科目等の在り方」の検討を求めている。
 【注2】 詳細は『週刊金曜日』08年6月6日号の拙稿参照。

『マスコミ市民』(2016年7月号)

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