《都高退教ニュースより》
◆ 東京「君が代」裁判五次訴訟原告より
元・大田桜台 秋田 清
この3月31日で五次訴訟を提訴してから丸二年になる。この機会にこれまでを振り返り、裁判の意義と目的を再確認したい。
私(秋田)は二次訴訟の原告である。この訴訟の確定判決によって、減給処分が取り消されたが、同じ不起立行為によって戒告処分を受けた(いわゆる「再処分」)。
三次、四次訴訟でも同じように減給を取り消された原告が「再処分」を受けた。五次原告15名中12名までが、この「再処分」の取り消しを求めている。
さらに、「単なる不起立の繰り返しを理由に処分を加重するのは違法」という判断が出た後に不起立によって戒告処分を受けた者が3名いる。
それに加えて、都教委は最高裁の決定に反して、4回目以降の不起立者に対しては減給1月の累積加重処分を出しており、原告の中には5回もの減給処分を受けている者もいる。
また、再任用中の原告2名に対し、「年金支給開始年以降は再任用を更新しない」という通告がなされ、既に1名は任用を打ち切られてしまった。
このように、五次原告はそれぞれ違った事情を抱えた、いわば寄合所帯なのだが、私はそのことに大きな意味があると思っている。
再処分について都教委は、「あくまで誤った処分を訂正し、裁判所が認めた戒告という正しい処分に訂正したのだ」と言いたいようだが、実態は従来の減給処分より実質的に重い経済的損失を伴う懲罰に変えられた。新たな処分者への「再発防止研修」も苛烈さを増している。
さらには再任用拒否によって、本来最も軽い懲戒であるはずの戒告が、将来の「免職」につながる重いものに変質してしまった。
4回目以降の累積加重処分に至っては、確定判決のラインを明確に踏み越えている。このような都教委の振る舞いを最高裁判決が予想していなかったことは明らかだ。
そしてこの状況を打開するためには、単に「再処分」の不合理を問うだけではなく、すべての元凶である「10・23通達」の、違憲違法性を改めて問い直す必要があると考えるからである。
「追い風」もある。御承知のように、「ILO/ユネスコ教員の地位に関する勧告の合同専門家委員会(セアート)」から、2019年と22年の二度にわたって「式典で明らかな混乱をもたらさない場合にまで愛国的な行為を強制することは個人の価値観や意見を侵害している」という勧告が出された。
22年11月には国連自由権規約委員会も同趣旨の勧告を出している。
都教委は、「勧告は都教委に宛てられたものではない」と無視を決め込んでいるが、今後の司法判断に影響を及ぼす可能性はある。
また、21年12月に、大阪高裁が、国歌斉唱時の起立斉唱を行うかどうかの意向確認を拒んだことで府立高校の元教諭が再任用を拒否された事件について、「裁量権の逸脱で違法」とする「画期的」判決を出している。
東京と並んで日の君強制が進む大阪でこの判決が出た意味は大きい。
心配なのは都立学校の現場である。
2005年に初演されて話題となった舞台「歌わせたい男たち」が昨年再演されたが、観劇した原告は「学校の現実がこのドラマをもう懐かしく思うほど違う局面にある」という。
事実、安倍元首相の家族葬でほとんどの学校で半旗が掲揚されても、誰も問題にしない、それどころか気付きすらしないという状況だという。
風化のスピードは速い。一石を投ずる意味でもこの裁判には勝たなければならない。
ここで前回報告以降の口頭弁論について簡単に報告する。
第6回(22年9月12日)では、被告側の反論書面が提出され、原告側は次回までに再反論と立証計画を提出することを確認。
その後原告一名が意見陳述し、入都前に勤務した私立校で日の丸君が代を生徒に強制してしまった苦悩を原点に10・23以降の現場で不起立を貫いてきたことなどが語られた。
終了後は日比谷図書文化館に場所を移して報告集会が行われ、再処分の適法性や再任用拒否の問題について活発な意見交換がなされた。
第7回(11月24日)では、陪席裁判官一名が交代、原告側書面提出の後、原告一名の意見陳述がなされた。
再処分の不合理性や、処分については報道機関に発表し、都教委のHP上に晒しておきながら、敗訴しても誰も責任も取らず、謝罪も説明もしないおかしさを訴えた。
第8回(23年2月9日)では、原告側から国際条約違反に関する情勢の変化を反映させた準備書面が提出され、弁護士一名がその概要を陳述した。
「曲がりなりにも『人権先進国』を標榜する」日本が、国際機関からの勧告を無視することはあり得ないと、熱く語った。
なお、本稿執筆時点で第9回(3月23日(木)13時30分開廷、集合は13時)の陳述の予定等については決まっていない。
行政法学者による意見書の作成が遅れていることもあり、第10回弁論は6月1日(木)13時30分に決まり、それまでに立証計画を示すこととなった。
現在原告は、本人尋問にむけて各自の陳述書を作成、検討する作業の最中である。今後とも第五次訴訟のご支援をお願いする。
『都高退教ニュース no.102』(2023年4月1日)
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