
☆ 竹信三恵子:『増補版・賃金破壊~労働運動を<犯罪>にする国』を刊行 (レイバーネット日本)
投稿者 : 竹信三恵子
みなさま
1月28日に『増補版賃金破壊~労働運動を<犯罪>にする国』(旬報社)刊行しました。この出版については、いつ出るのかというお問い合わせも多かったので、この場をお借りしてお知らせさせていただきます。
関西生コン事件は、生コン業界の運転手らの労働組合の組合員81人が逮捕され、うち66人以上が起訴され、うち34人が裁判で無罪を争い、現時点で11人の無罪が確定したにもかかわらず、大手メディアではほとんど報道されておらず、なお係争中、という、大規模で異様な労組弾圧事件です。
2021年に出版した『賃金破壊』はこの事件のルポですが、その後、無罪確定者が相次ぎ、毎日放送のドキュメンタリー「労組と弾圧」が地上波として初めて放映され、また、委員長などのへの人質司法的長期拘束が国際的にの注目されるなど、大転換が続きました。
2月26日には、現在の湯川委員長に対する京都地裁判決が予定されていることから、その前に、その後の変化を補足して事実をお伝えしておかなければならないと執筆を急ぎ、なんとか刊行にこぎつけました。
この裁判では労組活動に対し、なんと「懲役10年」(!)が求刑されており、それがどう判断されるかが注目されています。
「増補版」の概要は、下記のURLからご覧になれますが、ここで紹介されている刊行に寄せた拙文の中で、この事件が持つ予言的な性格についても触れていますのでご一読ください。
https://www.junposha.com/book/b657461.html
また、2月12日12:00~13:00に、関西生コン事件の現在をめぐって院内集会が開かれ、増補版の内容を中心に竹信が短い講演をします。会場は参議院議員会館B109号室で、11:45~1階ロビーで通行証を配布しますので、どうぞご参加ください。
『レイバーネット日本』(2025-02-02)
http://www.labornetjp.org/news/2025/1738462831343staff01
☆ 勝利判決が続く一方で新たな弾圧も――
朝日新聞、東京新聞に書評でも載り話題となった書籍の増補版!関生事件のその後について「補章」を加筆。
1997年以降、賃金が下がり続けている先進国は日本だけだ。そんな中、関西生コン労組は、労組の活動を通じて、賃上げも、残業規制も、シングルマザーの経済的自立という「女性活躍」も、実現した。そこへヘイト集団が妨害を加え、そして警察が弾圧に乗り出した。
なぜいま、憲法や労働組合法を無視した組合つぶしが行なわれているのか。迫真のルポでその真実を明らかにする。初版は2021年。本書はその後を加筆した増補版である。
★推薦人【オビに推薦コメントを掲載】
○上野千鶴子氏
労働組合が骨抜きにされてから、私たちは経営側にやられっぱなしだ。闘う労働ジャーナリストが、闘う組合つぶしを深掘りした驚きのルポルタージュ。
○内田 樹氏
恐ろしい話を読んだ。日本はもう治安維持法の一歩手前まで来ていることをこの本に教えてもらった。明日は我が身かも知れないと思う。
○浜 矩子氏
本書のおかげで労働運動という言葉が復権する。今、最も読まれるべき快著。
○松尾 匡氏
闘ひに すべをえらばぬ弾圧は この世の上下を 見せしむるため
世界標準の闘いへの何でもありの弾圧――誰が支配者かを見せつけるためだ!
◆「はじめに――増補にあたって」より
この本は、2021年に出版された『賃金破壊――労働運動を「犯罪」にする国』を加筆修正し、出版後の三年間に起きた事件の大転回を書き加えたものだ。
2018年7月、近畿2府2県の警察が出動し、生コン運転手らの労働組合「関生支部」の多量の逮捕が始まった。企業を横断した業界一斉ストライキなどの組合活動を、威力業務妨害などの「犯罪」と見立てた「関西生コン事件」の始まりだった。逮捕者はのべ81人にのぼり、うち66人が起訴、という規模の大きさにもかかわらず、このできごとは、マスメディアからはほぼ黙殺されてきた。2021年版は、そんな奇妙な事件の実相を記録しておこうと出版した。
私は当初、日本の賃上げを支える労働組合という組織のメンバーが、これほど大量に逮捕され、それが一向に報じられないことにただ驚き、取材に入った。だが、取材を続けるうちに、もうひとつの事実に突き当たった。それは、この国には懸命に働いても賃金が上がらず、人間らしい生活が送れないことを固定化する「仕掛け」のようなものが張り巡らされている、ということだった。
それがどのようなものなのかは本書を読んでみてほしいが、関生支部という労組は、そんな沈黙の仕掛けを跳ね除ける労働運動を現場からの創意工夫で実行し、目に見えない「賃下げの仕掛け」をあぶり出す役割を果たしてきた。大量逮捕は、力でそれに蓋をしようとした。
ただ、3年たって、事件は大きな転回を見せつつある。裁判では無罪確定が相次ぎ、遠巻きにしていた人々も「これは変なのでは」とあやしみ始め、映画やテレビでのドキュメンタリー番組も生まれた。そんな反転を生み出したのは、おかしいことはおかしい、と無罪を主張し続けてきた組合員たちの踏ん張りであり、労組での連帯の記憶に支えられた明るさと一種の「痛快さ」だった。
3年の変化のなかで、もうひとつ見えてきたものがある。それは、この事件が予言的な事件でもあったということだ。この事件の2年ほど後に本格化したコロナ禍は、この社会の貧困化と不安定化を強め、関生支部の組合員たちが直面したものは、私たちにとって身近で日常的なものに転化している。
一つ目が、事件の前段で起きた、ヘイトグループによるフェイク情報のばらまきだ。それが組合のイメージを落としてその反論を封じ込め、メディアの敬遠を作り出した。2024年の総選挙や兵庫県知事選では、こうしたSNSという道具による情報拡散の危うさが、前面に躍り出た。
二つ目が、逮捕後の組合員に対する警察・検察の取り調べの異様さだ。そこでは、事件の究明より、組合からの脱退を求める極端な長期勾留が行われた。当時、容易に信じてもらえなかったこの行為は、この間、他の事件で「人質司法」として相次いで指摘され、取り調べ録画などを通じた取り調べの可視化が進みつつある。
三つ目が、物価高の中での賃金の低迷と生活苦の深化の中でのストライキなどへの支持の高まりだ。たとえば2023年の西武百貨店ストは世論の共感を呼び寄せ、生活防衛へ向け、ストを辞さない労組がその後、相次いでいる。
関生事件で起きたことは、コロナ禍後の液状化する社会の中、「私たちみんなに起きること」になった。その意味で、2021年版をお読みになっていない方は、1~7章を通じて「賃金が上がらないこの国の仕掛け」について知っていただきたい。また、すでにお読みになった方には、「補章」を通じ、その後3年間の社会の変化と関生事件の予言を感じ取ってほしい。関生事件は関西の一労組のたまたまの事件ではない。不安定さを生き延びる私たちが直面するかもしれない事態を体験できるひとつの実験場が、そこにあるからだ。
『旬報社』
https://www.junposha.com/book/b657461.html
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます