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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「子どもによりよい」教科書を渡すための永年の運動の成果が現れた今回の教科書採択

2020年10月27日 | こども危機
  《教科書ネット21ニュースから》
 ◆ 勝ち取った、育鵬社教科書の“激減”と今後の課題
子どもと教科書全国ネット21 代表委員・事務局長 鈴木敏夫〔すずき・としお〕

 ◆ 育鵬社など「つくる会」系教科書は激減

 育鵬社歴史・公民、自由社公民、日本教科書道徳は、以下のような採択数となる見込みである。

 育鵬社は、歴史は1/6、公民は1/12となった。
 自由社は、歴史は検定不合格で採択対象外、公民は現在360冊で、今回も公立はゼロで、“消滅の危機”である。
 機関誌も出せないほど行き詰まっている日本教育再生機構(理事長八木秀次、以後「再生機構」)は、前回も、目標の10万部の採択に及ばなかった。
 今まで以上の援助がなければ、関与してきた育鵬社、日本教科書の発行を続けるのは、厳しいはずである。
 ◆ 意義ある成果、「つくる会」系教科書の激減

 ①4半世紀にわたる、教科書における歴史修正主義は危機へ
 歴史修正主義は歴史教育では、教科書問題を舞台に繰り広げられてきた。
 1996年の中学教科書検定結果で、7社の歴史教科書すべてに、はじめて従軍慰安婦(日本軍「慰安婦」)が記述されたことに対して、藤岡信勝氏らは、「『従軍慰安婦』は存在せず」などとし,「文部大臣は教科書訂正勧告を」出すように求めた。呼応して「日本を守る会」などの右派勢力は、地方議会に請願・陳晴運動を起こし、教科書会社に直接抗議も行っている。
 1997年1月には「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)が結成され、「現行の(歴史教科書)は旧敵国のプロパガンダをそのまま事実として記述するまでになって」いると非難し、自前の教科書作成に着手した。
 そして2001年に出されたのが扶桑社版だが、採択は惨憺たる結果で、その後も同様で、「つくる会」は分裂して藤岡氏らの自由社版と八木氏らの育鵬社版なっていった。
 今回の結果、歴史修正主義は、教育でその基盤を失う危機に陥った。

 ②安倍政権が推し進めてぎた「教育再生」における重要な柱だった教科書の改変の挫折
 政治家による「歴史修正主義」の流れから育成され、台頭して来たのが安倍晋三前首相であり、後に連携し、憲法改正運動を進めてきたのが日本会議であることは、よく知られた事実である。
 安倍前首相は、1997年2月、「つくる会」を支援する「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(「教科書議連」。後に「若手」をとる)の幹事長に抜擢され、右翼勢力と“「慰安婦」は売春婦”というキャンペーンなどの運動を精力的に推進する。
 安倍前首柑は、「戦後レジーム」からの脱却で「美しい日本を取り戻す」と、憲法改正で「戦争する国づくり」をめざしてきた。これに、国民の支持を得るため、国民の社会認識、歴史認識を都合良く変えようとし、マスメディアを恫喝も交え、取り込み利用することと、“長期的視野”で、子どもの教育に手がつけられてきた。特に、教科書内容の改変と道徳の教科化に力を入れてきた。
 2014年から教科書検定基準の改定などを挺子に、学習指導要領やその解説書による教育内容への踏み込みを行ってきた。
 その際に“模範”となる記述をしている育鵬社・自由祉などの「つくる会」系教科書の採択を推進してきた。それが、安倍首相の退陣と時を同じくして、頓挫した。
 ◆ なぜ育鵬社教科書が激減したか

 (1)政治的な思惑による採択の失敗
 扶桑社の採択失敗以後、自由社、育鵬社が採択を増やしてきたのは、「つくる会」と安倍前首相などが画策して、学校現場の教科書選択権を奪い教育委員会の独断で教科書採択を行うようとの「文部省通知」(2000年、01年)である。
 安倍前首相は、首長が教育委員を変えて、「つくる会」系教書採択するよう述べ、それを実行した中田横浜市長を絶賛した(2012年、日本教育再生機構主催集会)。
 東京では石原知事が既に実践し、全国にさきがけ、2001年に扶桑社教科書を公立学校で採択していた。
 こうした上からの政治的思惑による教科書採択が、今回できなくなった。
 いみじくも、産経新聞は「専門家は『リーダーシップを持った教育委員や首長の不在で、学校現場の意向に左右されやすい状況になっているのでは』と懸念する」(8月5日)と書いている。
 (2)「子どもによりよい」教科書を渡すための永年の運動の成果
 私たちは、育鵬社教科書の内容を広く明らかにするとともに、教育委員会採択の下でも、採択の教育委員会会議の公開制、透明性の徹底などを中心に採択の民主化を求めてきた。
 こうした取り組みは、この間の小中学校教科書採択を通じて行われ、その蓄積が今回の中学教科書採択で集中的に現れた。単なる一過性のものではない。
 例えば、東京の武蔵村山市では、生徒が使っている育鵬社教科書の問題点などのビラ等を市内全戸25,000戸への配布を9年にわたって6回行い(枚数は15万枚を越える)、今回採択を止めた。
 2年前の中学道徳教科書の採択にあたって、八木秀次氏が設立した日本教科書会社は、「教育再生首長会議」を使って、首長の介入で採択を増やそうとしてきたが、2014年の地教行法改正反対運動の結果、総合教育会議で「教科書採択、個別の教職員人事等…協議題とするべきではない」と反対運動でなったことを無視したもので、厳しく批判され、成功しなかった。
 (3)学校現場からの批判の反映
 藤沢市では、実際に育鵬社歴史・公民教科書を使っている、19校中17校の中学校教員から、アンケートの回答を得られている。
 育鵬社教科書は、「使いにくい」が約80%で、「使いやすい」は、たったの約2%だった。
 こうした事実をもとに、運動を進めた結果、藤沢市では、現場教員の意見市民の展示会などの意見を尊重した教科書採択が行われ、育鵬書教科書を一掃した。
 現場の教員も入っている調査委員会、選定審議会でも育鵬社の評価は、明らかに低下している。これは、育鵬社採択に関わりなく、現場からの批判の反映である。
 QRCODEが育鵬社には、ないことの欠陥も指摘されている。

 (4)私たちも参加してきた、戦争法反対、改憲反対運動やジェンダー平等などの広がり
 今回、名古屋市などを除いて、「つくる会」系教科書を支持する日本会議などの動きは鈍かった
 私たちも教科書問題だけでなく、安倍政権の道徳教科化などの「教育再生」政策に対する批判、戦争法や憲法改正に反対する運動に参加し、その高まりで、2016年以降、衆参両院で3分の2の多数を得ても、改憲発議は実現させてこなかった。
 こうしたことが、教科書展示会や教育委員会請願・傍聴に参加する彼らの意欲を削いできた
 またジェンダー、ヘイトスピーチ問題などの人権をめぐる運動の高揚は、教育委員にも影響を与え、育鵬社教科書の復古的内容に対する批判も生まれている。
 (5)教科書の育鵬化は成功していない
 育鵬社が惨敗した横浜市の教科書採択の翌日、署名記事「他の教科書との『格差が縮まった』から採択が変わった」(「朝日」2020年8月5日)は、「一連の法律や制度の変更で『自虐的』とされた記述が減り、以前と比べて教科書同士の差が縮まった」ことが育鵬社採択の激減の背景にあるとしている。
 実際に、育鵬社と同じような記述が増えているのは、事実である。
 しかし、コンセプトとして、日本の侵略戦争や植民地支配を美化し、日本国憲法の基本原則を軽視し、その改正を強く打ち出すような教科書はない
 仮に育鵬社を推してきたが、他の教科書も同じように見えて、採択替えをした教育委員もいたとしたら、それは育鵬社教科書への批判の反映である。また、これまでの政権による教科書統制の強化を免罪するものである。
『子どもと教科書全国ネット21NEWS 134号』(2020年10月15日)


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