☆ 憲法記念日に憲法を蔑ろにしている話題を報道していることに気付いていない?
皆さま 高嶋伸欣です
1 『朝日新聞』が5月3日憲法記念日に掲載したシリーズ「みる・きく・はなす」の「遮断の時代④」(添付資料参照)については、昨日のメールで触れたのとは別の意味で疑問があります。
2.それは、記事の後半で紹介している熊本市が条例改正案についてのパブリックコメントで”誤解”に基づく反対、批判意見の多さに圧倒されて、議会提案の断念に追い込またという話題についてです。
3.ことの成り行きが記事の通りであるとすれば、挫折の原因は熊本市側の不用意さにもあると、私には読めました。
それは、記事中にもある武蔵野市の事例などを担当者は想起していたというのですからなおさらなのです。
4.熊本市の担当者が、台湾企業の進出によって増えると見込まれる外国籍居住者が、旧来の居住者(市民)と平穏、平和裏に混住,共生する社会の一員として迎えられる状況の創造をめざした、というのは極めて妥当です。
5.けれども、その発想を「住民基本条例」の”市民の定義”に「外国の国籍を有する者を含む」と加筆するという行動に短絡させたことによって、騒ぎを生じさせてしまったたのでした。本来であれば必要のないことでした。
しかもそれで意図的或いは感情的な”誤解”をもって外国人排斥を志向する人たちにつけ入る余地を与えてしまったのだ、私には思えます。
6.以下、その絵解きです。
上記4の発想を抱いたとしても、その理念を熊本市民に広く啓発する手立ては、5にいう条例の改正などという新たな制度いじりなど全く不要だったのです。熊本市にはすでにごく自然にできる手立てがあることに、担当者や市長たちは気づくべきでした。
その手立てとは、もともと憲法によって保障されている事柄ですから、ネットウヨクなど太刀打ちできるレベルのものではありません。それに熊本市役所に抗議や嫌がらせをする筋合いの事柄ではないのです。
7。それというのも、その手立ての根拠が日本国憲法16条の規定であるからなのです。
*<憲法第16条>
「何人(なにびと)も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない」
投票権にまでは言及していませんが、全ての公務員への要望、即ちすべての官公署(警察、裁判所、自衛隊なども)に対して、「何人も」ですから、日本国籍の人に限らず外国籍を有する者を含むすべての在住者が請願をする権利を認めているのが、憲法16条です。
8.投票権はまだ認められていないにしても、熊本市議会への請願権は外国籍の人にもあります。ただし、議会請願には紹介議員の署名が必要だと、条例ではなく地方自治法で決められています。
これによって請願を断念させられているケースが無数にあります(私はこのことを規定している国会法と地方自治法は憲法違反だと考えています。憲法学者の中からもそのように指摘されています)。
9.けれどもその一方で、熊本市の行政部門(市長部局だけでなく、外局や教育委員会などの独立委員会なども含む)へは、直接、請願書(住所と名前が明記されていれば、書式は自由です)を提出できると、請願法(憲法と同時の1947年5月3日に施行)で定められています。
10.ところが、どうでしょう。熊本市について、「熊本市」と「請願」の2語でWEB検索をすると、自動的に「議会請願の案内」ページが開かれるだけです。
「熊本市ホームページ」を開いても、請願の案内はありません。その画面の<検索項目>欄に「請願」と入れてクリックすると、上記の「議会請願の案内」ページが開かれて、「請願には議員の紹介が必要であることが法律で定められています」旨の請願制約規定に直面させられるようになっています。
何としても「請願は議会請願しかないのですよ」と思い込ませる仕組みだと読めます。
11.このことから、熊本市役所内では、憲法16条が保障している請願権は議会請願に限られたものと誤った認識をしている可能性が、読み取れます。請願権の基本中の基本事項の認識を誤っているのですから、「何人も」についてもどこまで適正に認識できているのか、疑われます。
条例で定義するまでもなく、憲法によって「外国籍を有する者」には「日本国籍を有する者」と同等の基本的人権を有する住民(市民)として認められているという認識を欠いているように見えるのです。
12.仮に「何人も」を適正に認識して、日頃の行政をその認識に基づいて実践してきたのであればどうでしょう。今さら市民の定義に「外国籍を有する者を含む」などと加筆する必要はなかったのではないでしょうか。
13.日本国憲法では「何人も」とする条項が、16条だけでなく、17条、18条、20条、22条、31条、32条、33条、34条、35条、38条、39条、40条など多数存在しているのです。
14.日頃から、熊本市の行政当局が住民の権利保障に向けた啓発活動をする際に、こうした条項が「国民は」でなく「何人も」であることを広く認識されるように、どこまで配慮されていたのか疑問なのです。
仮にその効果が定着していれば、武蔵野市の騒ぎに気づいていたのですから、わざわざ条例改正などという物議を醸す懸念のあることに手をつける必要はなかったのではないか、というのが私の認識です。
15.以上のような分析から、私は『朝日』の記事にある熊本市の条例改正案の提出断念の一因は、行政の側自体に憲法の理念に基づく態勢構築に不備があったことにもある、と読み取っています。
16.そしてこの判断が大きな的外れでないとすれば、この事例を「みる・きく・はなす」の記事の趣旨には合致していないと思えるのです。自由な言論を阻害する理不尽な動きによって生じた不適切な結末の話題として紙面に掲載した『朝日』の憲法16条認識の状況についても、疑問を抱かざる得ません。
17.しかも、偶然かもしれませんが同記事の掲載日は「憲法記念日」でした。なんとも皮肉に思われます。
18.ちなみに同日の『朝日』の教育欄では「法教育」の実践例の一つを詳しく紹介しています。
教育欄ではこれまでも、「法教育」について積極的な報道がされていますが、「請願権」の教科書記述が憲法施行以後70年余、適正だったことは皆無である実態等について言及した記事には出会ったことがありません。
19.こうしてみると、熊本市の「請願権」認識の歪みの原因は長年に及ぶ教育の場での「請願権」教育の欠如でもあったようにも思えます。
でもそうした教科書記述をもたらした大元の原因は、美濃部達吉氏、宮沢俊義氏らとそれ以後の憲法学界における、「請願権」骨抜きの法規解釈や「請願権」の行使は議会請願に限ると思い込ませてきた、意図的あるいは不用意な誤導の結果でもあるというのが、現時点での私の認識です。
20.ともあれ、熊本市役所には、「請願書は行政部門にも提出ができ、国籍に関係なく誰でも行使できる権利です」との旨のHPの作成を勧めます。そうすることで、条例改正案で目指した状況の実現に確実に進めると思えるからです。
但しその際には、提出された「請願書」の受理と処理の規定の策定が必要になります。
21.そうしたHPと規定の策定で見本(手本)となるのが「沖縄県」「請願」の二語で検索できる沖縄県庁の「請願案内」です(添付資料参照)。
私の知る限りでは、全国1700余の自治体のHPでこれだけ整った「請願案内」を他には見つけることはできません。
*ちなみに沖縄県の「案内」では、外国籍の人だけでなく、・N99T方など居住の有無などを問わず誰でも」とあります。
さすがは「観光立県」をめざす沖縄県ならでは説明です。
22.熊本市だけでなく、全国の大半の自治体がほぼ同様の「請願権」未活用どころか阻害自治体の状況にあります。
教育委員会の場合も、請願に住所と名前以外の必要条件を加えた違法な規則を 策定している事例が少なくありません。
*熊本市教育委員会の「会議規則」では「陳情等の処理」として、法的には何も保障されていない「陳情」表記を用いている一方で「請願」の2文字は何処にも登場していません。
さらに、「陳情書」には「住所と氏名(名前)」だけでなく「押印すること」としていますが、請願法で必要としている「住所と名前」以外に「押印」などの条件(要件)を加えることは、人権としての請願権行使を妨げるものに当たり、この規定は違法・違憲ということになります。
こうした違憲・違法な規定が全国各地の教育委員会の規定に多数存在しているのが現状です。
24.教育について自由に要望表明を妨げている状況に気づく都度、是正を求めるる声を挙げる取り組みを、あきらめることなく継続してきたその一環として、今回もまた私見を展開した次第です。
*ちなみに沖縄県庁HPの「請願案内」は県議会に陳情を提出してから2年後に実現したもので、全国47都道府県庁では最初の事例だと思います。この体験から、「壁は厚くともあきらめずに働きかけることで世の中は変わる」と学びました。
その学びに基づいた取り組みの一つが今回の熊本市役所についての話題提起でもあります。
*さらに付言すると、2007年の沖縄戦「集団自決(強制集団死)」記述の歪曲検定の是正を目標として今も活動を継続している「9・29県民大会決議を実現させる会」では、県高校PTA連合会会長として「実現させる会」の代表だった人物が、代表の退任後も個人会員として定例会議に参加しています。そしてその前代表がこの4月に県教委の教育委員(定員5人)に選任され(任期4年)ています。今後も定例会への出席が見込まれています。
*沖縄は、ますます”先進県”の様相を帯びてきているというのが私の実感です。
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