《週刊金曜日:今週の巻頭トピック》
★ 弁論手続き無視の裁判長に対する国賠訴訟で原告控訴棄却
裁判官らが調書改竄を隠蔽か
東京高裁の白石哲(しらいしてつ)裁判長(2020年に定年退官)が、3人の裁判官のうちの1人が交代した口頭弁論の際に法的な手続きをせず違法があったとして、高嶋伸欣(たかしまのぶよし)・琉球大学名誉教授(82歳)、東京都内中学校の元教員、増田都子(ますだみやこ)さん(74歳)らが21年に提訴した国家賠償請求訴訟で、東京高裁は11月27日、原告の控訴を棄却した。
高嶋さんらは、東京都教育委員会が20年の東京五輪用に作成した読本で、五輪では国旗・国歌が使われるなどの記述が選手団の旗・歌とする五輪憲章に反し、精神的苦痛を受けたとして都に損害賠償を求め、17年に東京地裁に提訴したが敗訴、控訴した。その控訴審が白石裁判長だった。
第1回の口頭弁論で3人の裁判官のうち1人は加本牧子(かもとまきこ)という女性だったが、第2回では河合芳光(かわいよしみつ)という男性に代わった。
民事訴訟法では裁判官交代の場合、弁論更新手続きとして原告に弁論の機会を与えねばならないが、白石裁判長は手続きをせずに結審させた。
増田さんは「うっかりミスだろう」と推測する。
そこで原告の弁護士が弁論更新手続きをしていないことを申し立てたが、白石裁判長は無視した。
その後、増田さんは第1回目の口頭弁論調書を取り寄せて驚いた。その裁判官名は「加本牧子」ではなく「河合芳光」と記されていたのだ。
しかし、第1回口頭弁論の開廷表の加本裁判官の氏名を、原告の2人がメモしていた。また、増田さんが開示請求した当日の開廷表にも裁判官は「加本牧子」と記されていた。 原告側は白石裁判長の忌避を申し立てたが別の裁判体が却下。特別抗告も却下された。
20年10月、白石裁判長は五輪読本裁判で棄却判決(その後確定)を出したが、その中で「裁判官の交代はなく、(原告の)全くの誤解」と付言した。
原告側は白石裁判長のミスを認めさせるため、新たに国賠訴訟を起こした。だが、23年に東京地裁の村主隆行(すぐりたかゆき)裁判長は、原告が求めた加本裁判官らの証人尋問を行なわないまま、調書を更正(修正)すると「訴訟手続きの安定性及び明確性が害される」などとして棄却。
そして前述の11月27日判決で、東京高裁の相澤眞木(あいざわまき)裁判長も、原告が証拠とする開廷表について、民訴法では口頭弁論の方式は「調書によってのみ証明できる」とされているとし「調書に記載がある以上、出席したのは河合裁判官と認めるべき」などとして棄却した。
要するに白石裁判長が弁論更新手続きをしなかったミスをごまかす」ため、加本裁判官から河合裁判官に調書を改竄(かいざん)した疑いのみならず、それを地裁と高裁の裁判官ぐるみで隠蔽(いんぺい)した疑いがあるのだ。
★ 「冤罪の原点を見る思い」
原告の和久田修(わくだおさむ)弁護士は
「高裁判決は、調書以外の証拠に基づいて調書を訂正できるのは『経験則上あり得ないものである場合』とし、事実上、調書の更正義務そのものを否定しています。すなわち、調書に書いてしまえばそれが真実になってしまうことを認めているのと同じです」
と批判した。原告の元都立高校教員の花輪紅一郎さん(74歳)は
「憲法には『すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される』と明記されているのに、白石裁判長は良心をかなぐり捨てています」
とあきれた。
裁判官の実態に詳しい明治大学の西川伸一(にしかわしんいち)教授(国家論)は
「動かしがたい客観的事実をもみ消すためにこれでもかと法律を総動員して、身内をかばう裁判官たちの姿勢に、『法匪(ほうひ)』という言葉を思い出しました。背景にはエリートとしての鼻持ちならない同族意識があるように考えます」
と話す。
増田さんは「高嶋名誉教授が起こした別の裁判では、裁判官交代時の弁論更新を怠っていたことに裁判所が気付き、弁論更新が行なわれました。今回の裁判では私たちが間違っているとされました。袴田巌(はかまたいわお)さんの事件に比べれば小さな小さな事件ですが、冤罪(えんざい)の原点を見る思いがします」と語った。
原告らは最高裁に上告する。
永尾俊彦・ルポライター
『週刊金曜日 1501号』(2024年12月13日)
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