
「旗出し」 《撮影:平田 泉》
不当判決に対する抗議声明
2008年5月29日
板橋高校威力業務妨害事件弁護団
1 本日、東京高等裁判所第10刑事部(須田まさる裁判長)は、2004年3月の都立板橋高校卒業式に来賓として招待され,板橋高校に赴いた同校の元教員である藤田勝久氏に対し,卒業式開式前の行為が「威力業務妨害罪」にあたるとして罰金20万円(求刑懲役8月)を課した東京地方裁判所の判断を是認し,藤田氏の控訴を棄却する判決を言い渡した。
われわれは、この信じがたい不当判決に対し、本日直ちに上告する手続をとった。そして、不当判決をくだした東京高裁第10刑事部に対し、怒りを込めて抗議するとともに、最高裁判所において藤田さんの汚名を晴らす無罪判決を獲得するため、全力でたたかう決意をここに表明する。
2 そもそも本件は,2004年3月の板橋高校卒業式において「君が代斉唱」の際にほとんどの卒業生が着席し,来賓として列席していた土屋都議会議員が卒業生らに起立斉唱を大声で命じたもののほとんど誰も応えなかったことに端を発する。
土屋都議は式から5日後の都議会質問で「生徒を扇動した犯人探し」を求めるとともに,開式前の時間帯に保護者らに対して教員への「君が代」強制問題の深刻さを訴えた藤田さんをやり玉にあげ,横山教育長がこれに呼応し「法的措置」をとると答弁したことから,公安警察による「捜査」が始まった。
しかしながら,藤田さんは、卒業式開式18分前に平穏に週刊誌コピーを配布し,その直後,やはり平穏に数十秒間だけ保護者に「君が代」強制問題の説明を行い,説明終了後の管理者らの退去要求に対して来賓として招待されていたことなどを申し述べ抗議をしたものの,卒業式開式前には式場から退去していたのである。
すなわち,本件は,都教委や一部政治家ら「君が代」を強制的に起立斉唱させることを求める勢力が,卒業式の「君が代」斉唱時の卒業生不起立の責任を,卒業式開式前に校長らの求めに応じて式場から退去していた藤田さんに負わせるという,荒唐無稽な事件であって,特定の政治勢力に呼応して,公安警察,検察がでっちあげた「事件」なのである。
3 本日の判決は,裁判所までもが都教委や一部政治家らの特定政治目的に加担し,「威力業務妨害」罪についてこれまで司法判断が積み重ねてきた「威力」該当性の判断基準を踏みにじったものである。
また,教頭によるビラ配布制止・保護者への呼びかけの制止の不存在を示す多数の証拠を黙殺し、これら制止行為を認定するなど、都教委や管理者らの完全なでっち上げを追認した恣意的かつ政治的な不当判決に他ならない。
国家権力による不当な権利侵害に対する人権の砦であるはずの裁判所が、近代刑事司法の核心である「証拠裁判主義」「公平な裁判所」の精神に反する恣意的事実認定及び法適用を行い,一部政治家・行政当局・訴追権力の特定の政治的意図に追随することを絶対に許してはならない。
4 本件では,藤田さんは「都教委の君が代強制に批判的な内容」の記事のコピーを配布し,保護者へ説明した。これに対し,校長ら管理職が,その記事の内容及び発言内容を問題にして体育館から退去するよう命じたことは,公権力が表現内容を問題視し,卒業式に参加させないという不利益を課すことである。これは,表現行為を行ったことを理由とする不利益取り扱いであり憲法21条が禁じるところである。
にもかかわらず,本日の判決では,退去要求自体を正当な行為であると判断するなど表現内容に基づく不利益取り扱い,すなわち表現内容が公権力の意に反することを理由とする刑事罰に裁判所が加担するなど,その憲法感覚が完全に欠如しており,人権擁護の砦としての職責を放棄したものと言わざるを得ない。
週刊誌記事のコピー配布およびその説明や平穏な抗議は,いずれも社会の中で行われるささやかな表現行為である。にもかかわらず,このようなささやかな表現行為であっても,公権力の意に反することを理由に刑事罰の対象とすることになれば,「言論・表現の自由」の保障は画餅に帰し,表現者に対する圧殺効果は計り知れない。
5 われわれ弁護団は、あらためて本日の不当判決に抗議するとともに、今日のいっそうの「日の丸・君が代」強制政策や、愛国心法制化など,個人の精神的自由をないがしろにする危険な動きに対して,良心の抵抗を続ける多くの人々とともに、上告審での無罪判決をかちとる決意を表明する。
以上
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