<続-①「不当な支配」阻止編>
◆ 『朝日』10月11日<教育>「歴史・公民 育鵬社版が激減」記事について
皆さま 高嶋伸欣です
昨日のメールに続き、『朝日新聞』11日の教育欄の記事にかこつけて、今年夏の採択で育鵬社版の採択が激減した件についての私見・愚見のその2<続―①「不当な支配」阻止編>を下記のようにまとめました。
また長文になっていますので、時間のある時に見て頂き、何かお役に立てば幸いです。
*転送・拡散は自由です
1 標記の記事についての感想・愚見と情報等の<続-①「不当な支配」阻止編>をお届けいたします。お役に立てば幸いです。
2 当該記事では、育鵬社版の激減を同書の採択に異議を唱え反対してきた各地の市民運動による影響・成果とする八木秀次氏や鈴木敏夫氏の評価を紹介していますが、記事前半と比較して具体性がなく、浪本氏の見解を紹介した部分よりも抽象的な説明に終わっているように見えます。
このため八木氏の表現による「左派の反対運動」というレッテル貼りが、鈴木氏の主張にそのまま当てはめられているように読めてしまいます。
3 全国で展開された市民運動は、地域の教育態勢の違いや教委の状況の多様性に対応しながら、それぞれ効果的な手法を駆使して教委に働きかけることで、トータルとして今回の成果をあげたのだと、私は認識しています。
しかも少なくとも今年の場合、政治的な話題よりも教育的配慮の欠落や事実誤認、肖像権の侵害など、安倍首相推奨の教科書ならではの検定の手抜き事例を教委に指摘したケースが多発していて、「左派の反対運動」には該当していないと思われますので、この記事はこの点でミスリードを犯しているように思えます。
4 また、各地の運動は地域の特性に即していた一方で、WEB環境などを最大限に活用し、各地での体験や獲得した情報を素早く全国に拡散して共有化を進め、さらに各地の体験・情報等を組み合わせることによる相乗効果を発揮させたというこれまでにない、新たな運動形態を実現させていたことがあります。
5 2020年今年夏は、そうした全国の市民グループによる有機的な連携行動が極めて活発であったことがこれまでにない特色で、それゆえに育鵬社版激減の状況が生まれたのだと考えられます。
6 そうした取り組みの代表的な事例を幾つかこのメールでは紹介したいと思っています。
一つは上記3で指摘した「教育的な配慮の欠落や事実誤認、肖像権の侵害」に当たる記述を市民グループの連携で、育鵬社版見本本から次々の見つけだし、そのことを各地の教委に伝えたというものです。
この件は次の<続―②>で詳しく紹介します。
7 今回紹介するのは、下村博文・文科大臣と八木秀次・日本教育再生機構理事長兼教育再生実行会議委員の二人が画策した「教育への不当な支配・介入」を、全国の市民運動がくいとめたという事例です。
8 安倍首相直属の教育再生実行会議に教育行政の主導権を奪われた文科省の下村氏は、安倍氏側近としての業績作りを模索し、育鵬社版の実質的編著者集団である教育再生機構を支援する目的の下、「教育再生首長会議」発足の準備会合を八木氏たちと重ね、同「会議」を2014年6月に発足させます。
9 それより前の2012年2月、当時民主党政権下で下野していた安倍晋三氏が、同「機構」主宰の「教育再生民間タウンミーティングin大阪」に出席していました。
そこで、安倍氏は育鵬社版教科書を強く推奨した後、同教科書の採択を確実にするには、横浜市の場合のように、教育委員の任命権を握る首長が「相当の覚悟で教育委員を選んで」「議論して説得できる教育委員に変えていくことができれば、現在の制度でも(育鵬社採択は)不可能ではありません」と、臆面もなく発言しています。
*この時の映像が大阪毎日放送MBSの『ドキュメント17・教育と愛国心』(2017年7月)と『ドキュメント20・史実と神話』(2020年8月)収録され、発言が確認できます。
また教育再生機構の機関誌『教育再生』2012年4月号にも、詳細が掲載されています。ただし同誌上では安倍氏の発言が巧妙に改変されています。その様子を、MBCディレクターの斉加尚代著『教育と愛国』(岩波書店、2019年)で具体的に指摘しています。
10 「教育再生首長会議」の発足はこの安倍発言を受けたものと、容易に推測できます。
11 同「会議」の発足は、『教育再生』でも堂々と紹介されていましたが、加入している首長の顔ぶれなど詳細は、当初不明でした。
ところが間もなく、全貌を知る情報を市民運動の側が入手します。
12 発端は育鵬社版を採択している東大阪市の議会質疑で、市長が同「会議」への加入を認めたことでした。
13 そこで育鵬社版の採択に反対していた同市の市民グループが、市長の公費支出を伴う行為の一つであるとして、同「会議」関連資料等についての情報開示請求をしました。 その結果A4版で100p以上の資料が開示されます。
それらは「宝の山」だったのです。
14 東大阪市の市民グループは、それらを大まかに分類した上で、各地の市民グループにWEBで知らせ、情報を共有化したのです。
15 それらの情報を各地で分析する内、第1に注目されたのは加入首長の氏名と市町村名を明記した「加入首長一覧」でした。設立総会を開催した2014年6月2日現在で加入首長は69名でした。
それが、その後も各地で情報開示を請求に取り組み、情報の共有化で、2015年6月121名、2017年149名、2018年6月131名、2019年6月122名であると確認されています。
16 全国の地方自治体教育委員会は47都道府県と1718の市町村それぞれに設置されています。それらのすべてに扶桑社版の問題点を指摘する資料や不採択を求める要望書等を届けるのは、労力や経費などの点だけでも容易ではありません。
ましてや今回のようにコロナ問題で行動が規制されている今年の場合にはなおさらです。
17 ところが、上記の名簿のおかげで、すでに育鵬社版を採択している教委以外で新たに採択する可能性のある自治体・教委の絞り込みが可能になったのです。これに、
前回の採択で僅差の議決だったところや、教育長が強引に議事を進める傾向がある教委などをプラスアルファで加えても150教委ぐらいで済みます。
18 働きかけの対象が総計約1800教委から150程の教委に減らせたことで、各地の市民グループの精神的、肉体的、経済的もろもろの負担は大幅に軽減されました。大助かりです。
特に、関西や首都圏などで2020年夏の採択に向けて早くから取り組んでいた方々にとって、この「首長会議」名簿が果たしてくれた役割は、まさしく”殊勲甲”ではないでしょうか。
こうした資料の活用方法は、東大阪のグループによる「とりあえず開示資料を送ります」との情報拡散によって可能になったのでした。
19 次に「首長会議」資料で、創設初年度の年会費1万円が、2年目に2万円に倍増した際の値上げ理由に市民グループは注目します。
20 総会資料による値上げ理由は、概略次の通りでした。
同「会議」は「日本教育再生機構の事務所スタッフ」の協力を得て運営しているが、1年間を経過してみて「年間5~6回の行事(学習会等のこと。実際の回数は不定・高嶋注)と2回の会誌発行等」を実施していくには「年間120万円の委託金では賄いきれない」し、「人件費に加えて、事務所費、光熱費、印刷費、郵送費等の経費を含めると」「年間360万円の事務局委託金が必要と考え」、年会費は「2~3万円程度が妥当と思われるが急激な変更は会員各位の理解が難しいと思われ、今回は年会費2万円としてお願いしたい」。
21 この値上げ案は第2回(2015年)総会で承認され、以後2017年度まで毎年「教育再生機構」に360万円が「事務局委託費(人件費2人を含む)」として、同「会議」から支出され続けます。
一方で同「会議」の収入は会費分が300万円弱、それに行事(講演会等)毎の参加負担金が荒稼ぎで約250万円で総計550万円です。
結局収入の半分以上が、「教育再生機構」の事務スタッフの人件費などに回されているとになります。
この程度の規模の事務的業務が1人ではなく、2人も必要というのは不自然です。
22 その不自然さを裏付けたのは、同「会議」での八木氏の言動でした。同「会議」の創設を下村氏と共に推進したことは、数回の準備会にも毎回参加していることで明らかな上に、発足後の会合で育鵬社版の宣伝資料を配布したり、『会誌』上で育鵬社版の採択促進を呼び掛けたりしているのです。
やはり、同「会議」は教育再生実行政策を促進するだけでなく、首長の立場を利用して教育委員会に影響力を及ぼすことを求めて設立されたのだと読めます。
この点で、「教育再生機構」が事実上の事務局業務を委託される癒着関係が構築されたのもうなずけます。
23 それにしても、人件費2人分というのはやはり不自然です。
24 これも「再生機構」の財政難からの絵解きが可能です。
同「機構」は、「つくる会」から八木氏が勢力争いで追い出され(飛び出し?)、日本会議などの支援を得て、フジTVからの3億円による育鵬社設立で態勢を整え、東京・台東区上野広小路に近いマンション4階に広い事務所を開設していました。
けれども育鵬社版は、八木氏が「朝日新聞に褒められるくらいのものにする用意がある」旨の発言をして「自虐的」内容を大胆に取り入れたにもかかわらず採択部数が低迷。2014年夏の採択でも中途半端な部数にしかならず、赤字を増大させたために、機関誌『教育再生』の発行が不定期化、さらには会員には無通告のまま休刊。会費(購読料)の残金処理についても頬かむりのままになり、事務所を渋谷区渋谷のマンションに移します。同「機構」の財政が窮状にあるのは明らかです。
25 そうした窮状の打開策として、「首長会議」からの事務委託費に人件費を2人分とする方策が講じられたという経過の推測は十分に可能です。
26 これらの資料等に基づく分析は、東大阪市の市民グループの取り組みが発端であったこともあり、関西から西日本の市民グループ中心に進められ、公開の集会などでも公表したことで、取材に訪れていたマスコミ関係者などが関心を示すこともありました。
けれども、報道には至りませんでした。
27 一方で、『沖縄タイムス』では、九州・沖縄地域で「首長会議」に加入している21の自治体の首長等に対して、情報開示を請求し、同「会議」への会費等の支払いがすべて公費によっていることを確認。
2018年7月15日の紙面に、特定の教科書支援の活動への公費支出は疑問、とする記事を掲載します。
数か月の手間暇をかけた調査報道だったと、紙面から読めます。
28 この記事を受け、沖縄県石垣市の市民グループが行動を起こしました。
石垣市は中山義隆市長によって任命された教育長が、2011年に与那国町、竹富町との1市2町で構成する教科書共同採択地区協議会のルールを強引に改変し、育鵬社公民教科書の採択したことで、八重山教科書問題を引き起されたところです。同問題は、育鵬社公民の採択に反対した竹富町教委が2014年に共同採択地区から脱け、単独で東京書籍版を採択した後、教科書無償制の適用を受けて鎮静化しました。
29 ただし、石垣市と与那国町はその後も育鵬社版公民を採択しているため、石垣市の市民グループは育鵬社版の採択に反対する取り組みを続けていて、中山市長の「首長会議」への会費納入や会議等への参加経費として公費支出は不当であるとの監査請求を申したてたのです。監査請求が棄却されると、同グループはその決定を不服として住民訴訟を起こし、争いは法廷に移りました。審理は、公費でなく私費によっているとの中山市長の主張の裏付け文書の提出の遅れなどで、紛糾しています。
30 並行して、その他の「首長会議」加入の首長のいる自治体でも、市民からの請願や議会での質疑などで、同「会議」に対する上記のような疑問点、疑惑等が指摘されたことなどから、2019年度には「教育再生機構」への事務委託は打ち切られ、同「会議」の連絡先もあちこちを転々とし、自治体の首長が構成する組織のイメージとは落差のある状況を生じさせています。
31 ともあれ、こうした経過の結果として、八木秀次氏は「首長会議」からの「人件費(2人分)、光熱費、通信費、事務所維持費等」を名目とする掴み金・年間360万円の支払を絶たれたことになります。
採算レベル10%(12万部)には遠く及ばない中途半端な採択率(歴史6.4%、公民5.8%)による毎年の累積赤字を抱える「教育再生機構」は、財政面から活力を喪失しつつあります。
31 安倍氏発案の教育委員の人選を通じた教育行政への介入、とりわけ教科書採択への影響力発揮を目指した下村・八木コンビによる画策は、当然ながら改悪された教育基本法でも禁じている「不当な支配(第16条)」に該当するもので、法に反します。
2020年夏の採択で、そうした違法な行政行為に歯止めが掛かった結果が育鵬社版激減であり、そうした歯止めの設定の中心になったのが違法性を追及し続けた市民運動であったことは、以上の経過などから明らかです。
32 違法性を追及する市民の取り組みを「左派の反対運動」と歪める八木氏の言説が優越しているかのような印象を読者に与える、本件記事の構成は残念です。
以上、先のメールと同様にこれらは高嶋の私見で文責は高嶋にあります。
何かお役に立てば幸いです。
*上記6で言及した取り組みについては、別途のメール<続ー②>で紹介します。
◆ 『朝日』10月11日<教育>「歴史・公民 育鵬社版が激減」記事について
皆さま 高嶋伸欣です
昨日のメールに続き、『朝日新聞』11日の教育欄の記事にかこつけて、今年夏の採択で育鵬社版の採択が激減した件についての私見・愚見のその2<続―①「不当な支配」阻止編>を下記のようにまとめました。
また長文になっていますので、時間のある時に見て頂き、何かお役に立てば幸いです。
*転送・拡散は自由です
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1 標記の記事についての感想・愚見と情報等の<続-①「不当な支配」阻止編>をお届けいたします。お役に立てば幸いです。
2 当該記事では、育鵬社版の激減を同書の採択に異議を唱え反対してきた各地の市民運動による影響・成果とする八木秀次氏や鈴木敏夫氏の評価を紹介していますが、記事前半と比較して具体性がなく、浪本氏の見解を紹介した部分よりも抽象的な説明に終わっているように見えます。
このため八木氏の表現による「左派の反対運動」というレッテル貼りが、鈴木氏の主張にそのまま当てはめられているように読めてしまいます。
3 全国で展開された市民運動は、地域の教育態勢の違いや教委の状況の多様性に対応しながら、それぞれ効果的な手法を駆使して教委に働きかけることで、トータルとして今回の成果をあげたのだと、私は認識しています。
しかも少なくとも今年の場合、政治的な話題よりも教育的配慮の欠落や事実誤認、肖像権の侵害など、安倍首相推奨の教科書ならではの検定の手抜き事例を教委に指摘したケースが多発していて、「左派の反対運動」には該当していないと思われますので、この記事はこの点でミスリードを犯しているように思えます。
4 また、各地の運動は地域の特性に即していた一方で、WEB環境などを最大限に活用し、各地での体験や獲得した情報を素早く全国に拡散して共有化を進め、さらに各地の体験・情報等を組み合わせることによる相乗効果を発揮させたというこれまでにない、新たな運動形態を実現させていたことがあります。
5 2020年今年夏は、そうした全国の市民グループによる有機的な連携行動が極めて活発であったことがこれまでにない特色で、それゆえに育鵬社版激減の状況が生まれたのだと考えられます。
6 そうした取り組みの代表的な事例を幾つかこのメールでは紹介したいと思っています。
一つは上記3で指摘した「教育的な配慮の欠落や事実誤認、肖像権の侵害」に当たる記述を市民グループの連携で、育鵬社版見本本から次々の見つけだし、そのことを各地の教委に伝えたというものです。
この件は次の<続―②>で詳しく紹介します。
7 今回紹介するのは、下村博文・文科大臣と八木秀次・日本教育再生機構理事長兼教育再生実行会議委員の二人が画策した「教育への不当な支配・介入」を、全国の市民運動がくいとめたという事例です。
8 安倍首相直属の教育再生実行会議に教育行政の主導権を奪われた文科省の下村氏は、安倍氏側近としての業績作りを模索し、育鵬社版の実質的編著者集団である教育再生機構を支援する目的の下、「教育再生首長会議」発足の準備会合を八木氏たちと重ね、同「会議」を2014年6月に発足させます。
9 それより前の2012年2月、当時民主党政権下で下野していた安倍晋三氏が、同「機構」主宰の「教育再生民間タウンミーティングin大阪」に出席していました。
そこで、安倍氏は育鵬社版教科書を強く推奨した後、同教科書の採択を確実にするには、横浜市の場合のように、教育委員の任命権を握る首長が「相当の覚悟で教育委員を選んで」「議論して説得できる教育委員に変えていくことができれば、現在の制度でも(育鵬社採択は)不可能ではありません」と、臆面もなく発言しています。
*この時の映像が大阪毎日放送MBSの『ドキュメント17・教育と愛国心』(2017年7月)と『ドキュメント20・史実と神話』(2020年8月)収録され、発言が確認できます。
また教育再生機構の機関誌『教育再生』2012年4月号にも、詳細が掲載されています。ただし同誌上では安倍氏の発言が巧妙に改変されています。その様子を、MBCディレクターの斉加尚代著『教育と愛国』(岩波書店、2019年)で具体的に指摘しています。
10 「教育再生首長会議」の発足はこの安倍発言を受けたものと、容易に推測できます。
11 同「会議」の発足は、『教育再生』でも堂々と紹介されていましたが、加入している首長の顔ぶれなど詳細は、当初不明でした。
ところが間もなく、全貌を知る情報を市民運動の側が入手します。
12 発端は育鵬社版を採択している東大阪市の議会質疑で、市長が同「会議」への加入を認めたことでした。
13 そこで育鵬社版の採択に反対していた同市の市民グループが、市長の公費支出を伴う行為の一つであるとして、同「会議」関連資料等についての情報開示請求をしました。 その結果A4版で100p以上の資料が開示されます。
それらは「宝の山」だったのです。
14 東大阪市の市民グループは、それらを大まかに分類した上で、各地の市民グループにWEBで知らせ、情報を共有化したのです。
15 それらの情報を各地で分析する内、第1に注目されたのは加入首長の氏名と市町村名を明記した「加入首長一覧」でした。設立総会を開催した2014年6月2日現在で加入首長は69名でした。
それが、その後も各地で情報開示を請求に取り組み、情報の共有化で、2015年6月121名、2017年149名、2018年6月131名、2019年6月122名であると確認されています。
16 全国の地方自治体教育委員会は47都道府県と1718の市町村それぞれに設置されています。それらのすべてに扶桑社版の問題点を指摘する資料や不採択を求める要望書等を届けるのは、労力や経費などの点だけでも容易ではありません。
ましてや今回のようにコロナ問題で行動が規制されている今年の場合にはなおさらです。
17 ところが、上記の名簿のおかげで、すでに育鵬社版を採択している教委以外で新たに採択する可能性のある自治体・教委の絞り込みが可能になったのです。これに、
前回の採択で僅差の議決だったところや、教育長が強引に議事を進める傾向がある教委などをプラスアルファで加えても150教委ぐらいで済みます。
18 働きかけの対象が総計約1800教委から150程の教委に減らせたことで、各地の市民グループの精神的、肉体的、経済的もろもろの負担は大幅に軽減されました。大助かりです。
特に、関西や首都圏などで2020年夏の採択に向けて早くから取り組んでいた方々にとって、この「首長会議」名簿が果たしてくれた役割は、まさしく”殊勲甲”ではないでしょうか。
こうした資料の活用方法は、東大阪のグループによる「とりあえず開示資料を送ります」との情報拡散によって可能になったのでした。
19 次に「首長会議」資料で、創設初年度の年会費1万円が、2年目に2万円に倍増した際の値上げ理由に市民グループは注目します。
20 総会資料による値上げ理由は、概略次の通りでした。
同「会議」は「日本教育再生機構の事務所スタッフ」の協力を得て運営しているが、1年間を経過してみて「年間5~6回の行事(学習会等のこと。実際の回数は不定・高嶋注)と2回の会誌発行等」を実施していくには「年間120万円の委託金では賄いきれない」し、「人件費に加えて、事務所費、光熱費、印刷費、郵送費等の経費を含めると」「年間360万円の事務局委託金が必要と考え」、年会費は「2~3万円程度が妥当と思われるが急激な変更は会員各位の理解が難しいと思われ、今回は年会費2万円としてお願いしたい」。
21 この値上げ案は第2回(2015年)総会で承認され、以後2017年度まで毎年「教育再生機構」に360万円が「事務局委託費(人件費2人を含む)」として、同「会議」から支出され続けます。
一方で同「会議」の収入は会費分が300万円弱、それに行事(講演会等)毎の参加負担金が荒稼ぎで約250万円で総計550万円です。
結局収入の半分以上が、「教育再生機構」の事務スタッフの人件費などに回されているとになります。
この程度の規模の事務的業務が1人ではなく、2人も必要というのは不自然です。
22 その不自然さを裏付けたのは、同「会議」での八木氏の言動でした。同「会議」の創設を下村氏と共に推進したことは、数回の準備会にも毎回参加していることで明らかな上に、発足後の会合で育鵬社版の宣伝資料を配布したり、『会誌』上で育鵬社版の採択促進を呼び掛けたりしているのです。
やはり、同「会議」は教育再生実行政策を促進するだけでなく、首長の立場を利用して教育委員会に影響力を及ぼすことを求めて設立されたのだと読めます。
この点で、「教育再生機構」が事実上の事務局業務を委託される癒着関係が構築されたのもうなずけます。
23 それにしても、人件費2人分というのはやはり不自然です。
24 これも「再生機構」の財政難からの絵解きが可能です。
同「機構」は、「つくる会」から八木氏が勢力争いで追い出され(飛び出し?)、日本会議などの支援を得て、フジTVからの3億円による育鵬社設立で態勢を整え、東京・台東区上野広小路に近いマンション4階に広い事務所を開設していました。
けれども育鵬社版は、八木氏が「朝日新聞に褒められるくらいのものにする用意がある」旨の発言をして「自虐的」内容を大胆に取り入れたにもかかわらず採択部数が低迷。2014年夏の採択でも中途半端な部数にしかならず、赤字を増大させたために、機関誌『教育再生』の発行が不定期化、さらには会員には無通告のまま休刊。会費(購読料)の残金処理についても頬かむりのままになり、事務所を渋谷区渋谷のマンションに移します。同「機構」の財政が窮状にあるのは明らかです。
25 そうした窮状の打開策として、「首長会議」からの事務委託費に人件費を2人分とする方策が講じられたという経過の推測は十分に可能です。
26 これらの資料等に基づく分析は、東大阪市の市民グループの取り組みが発端であったこともあり、関西から西日本の市民グループ中心に進められ、公開の集会などでも公表したことで、取材に訪れていたマスコミ関係者などが関心を示すこともありました。
けれども、報道には至りませんでした。
27 一方で、『沖縄タイムス』では、九州・沖縄地域で「首長会議」に加入している21の自治体の首長等に対して、情報開示を請求し、同「会議」への会費等の支払いがすべて公費によっていることを確認。
2018年7月15日の紙面に、特定の教科書支援の活動への公費支出は疑問、とする記事を掲載します。
数か月の手間暇をかけた調査報道だったと、紙面から読めます。
28 この記事を受け、沖縄県石垣市の市民グループが行動を起こしました。
石垣市は中山義隆市長によって任命された教育長が、2011年に与那国町、竹富町との1市2町で構成する教科書共同採択地区協議会のルールを強引に改変し、育鵬社公民教科書の採択したことで、八重山教科書問題を引き起されたところです。同問題は、育鵬社公民の採択に反対した竹富町教委が2014年に共同採択地区から脱け、単独で東京書籍版を採択した後、教科書無償制の適用を受けて鎮静化しました。
29 ただし、石垣市と与那国町はその後も育鵬社版公民を採択しているため、石垣市の市民グループは育鵬社版の採択に反対する取り組みを続けていて、中山市長の「首長会議」への会費納入や会議等への参加経費として公費支出は不当であるとの監査請求を申したてたのです。監査請求が棄却されると、同グループはその決定を不服として住民訴訟を起こし、争いは法廷に移りました。審理は、公費でなく私費によっているとの中山市長の主張の裏付け文書の提出の遅れなどで、紛糾しています。
30 並行して、その他の「首長会議」加入の首長のいる自治体でも、市民からの請願や議会での質疑などで、同「会議」に対する上記のような疑問点、疑惑等が指摘されたことなどから、2019年度には「教育再生機構」への事務委託は打ち切られ、同「会議」の連絡先もあちこちを転々とし、自治体の首長が構成する組織のイメージとは落差のある状況を生じさせています。
31 ともあれ、こうした経過の結果として、八木秀次氏は「首長会議」からの「人件費(2人分)、光熱費、通信費、事務所維持費等」を名目とする掴み金・年間360万円の支払を絶たれたことになります。
採算レベル10%(12万部)には遠く及ばない中途半端な採択率(歴史6.4%、公民5.8%)による毎年の累積赤字を抱える「教育再生機構」は、財政面から活力を喪失しつつあります。
31 安倍氏発案の教育委員の人選を通じた教育行政への介入、とりわけ教科書採択への影響力発揮を目指した下村・八木コンビによる画策は、当然ながら改悪された教育基本法でも禁じている「不当な支配(第16条)」に該当するもので、法に反します。
2020年夏の採択で、そうした違法な行政行為に歯止めが掛かった結果が育鵬社版激減であり、そうした歯止めの設定の中心になったのが違法性を追及し続けた市民運動であったことは、以上の経過などから明らかです。
32 違法性を追及する市民の取り組みを「左派の反対運動」と歪める八木氏の言説が優越しているかのような印象を読者に与える、本件記事の構成は残念です。
以上、先のメールと同様にこれらは高嶋の私見で文責は高嶋にあります。
何かお役に立てば幸いです。
*上記6で言及した取り組みについては、別途のメール<続ー②>で紹介します。
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