◆ 商品化された五輪は不要
仕組まれたバッハ会長の来日 (週刊新社会)
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が11月15日という時期に、わざわざチャーター機を飛ばして日本へやって来る企図はなにか、といろいろと取り沙汰された。
私が注日じたのは、安部晋三首相(当時)の「大会開催の1年延期」提案に同意(3月)して以降、動きのなかったバッハ会長が9月22日に突如、公開した書簡、「オリンピズム(五輪精神)とコロナ」と関連する新たな意思表示があるのではないか、という点であった。
同書簡の内容を要約すると。
「スポーツはパンデミックと闘う上で不可欠な要素だと広く認識されている。制限下でも大会を安全に組織できることがわかってきた。このことは、五輪を含む今後の大会準備に自信を与えてくれるはずだ」、
「ワクチンなしでも安全に開催できることが示された。ワクチンは全ての問題を解決する打開策でないことは認識しなければいけない」など。
◆ 具体的言明のない会長
この書簡の内容と今回の来日の関運性があるのかどうか、バッハ会長の言動に注目した。
バッハ会長は、11月16日、菅義偉首相を表敬訪問し、会談した。
報道によると、会談で、菅首相は、「人類がウイルスに打ち勝った証として、東京大会の開催を実現する決意だ」(安倍晋三前首相の言葉をそのまま使って)と発言。
バッハ会長は、菅首相の決意を「共有する」とし、「世界の人々は深いトンネルの中で不安を抱いているが、コロナ対策ツールボックス(道具箱)の中の道具は増えている。ワクチンも入手可能になるだろう。安全な環境で大会を開催するために必要な道具箱は整っている。オリンピックの実現は連帯・団結のシンボルになり、コロナ下のトンネルの先の明かりになる」と語ったという。
ワクチンをはじめ「コロナ対策ツールボックス」の中の道具が増えたことを強調し、改めて大会開催への自信を示す内容だった。
しかし、大会開催にともなう開閉会式のあり方、選手村運営などでの日本側とIOC側との考え方の違い、さらにコロナ対策費を除く追加経費2000億円(組織委員会試算)の負担問題などの課題についてバッハ会長は、一切具体的言明を避けた。
この会談以外で目を引いたのは、安倍前首相への「オリンピック・オーダー金章」(日本で3人目)授与であった。
なぜ、こんな時期に、しかも放射能汚染水が漏出し続けているにもかかわら「アンダーコントロール」と、大嘘をついて東京オリンピックを招致した安倍氏へ金章を授与するのか、何か裏があると考えられた。
それはともかく、当の本人は、意気込んで「日本国民に対して、頑張れ、絶対に成功させうと、励ましを送るつもりで、このオーダーをくださった」と語ったという。
この儀式後、目立った動きもなく新国立競技場などを視察し、バッハ会長は、18日に日本を去った。
◆ 空転した盛り上げの狙い
結局、バッハ会長は、来夏の大会について何一つ具体的な言明をせずに去った。
ただ、組織委員会やJOC関係者のなかには、「バッハ会長は、森会長の書いた筋書きに沿って動くだけでよかったのだ」と、次のような見方をする幹部もいた。
旗振り役として頼ってきた安倍首相が辞任し森会長はかなりの衝撃を受けるとともに、バッハ会長との関係も懸念もされた。その森会長は9月27日、自民党・細田派のパーティーに出席し、壇上で「どんなことがあっても、来年のオリンピックはやります!」と豪語した。
しかし、世界的にも国内的にも新型コロナウイルスのパンデミックによる感染者、死者は拡大する一方で、終息の見通しなど全く立たない深刻な事態に陥った。
当然のようにオリンピック開催に対する否定的な見方が膨らみ、期待は萎む一方となってきた。
その事態に森会長は危機感を抱き、改めてオリンピックへの盛り上げのきっかけを作るためにバッハ会長を来日させ、菅百相との会談、安倍氏へのオリンピック・オーダー金章の授与などのパフォーマンスを仕組んだ、というのだ。
結果的に森会長の思い通りに大会への期待が盛り上がることはなかった。
改めて指摘したいのは、新自由主義に支配され徹底的に商品化されてしまったオリンピックは、もはや不要であり、オリンピックに固執することは、税金の無駄使いなど負のレガシーを積み重ねることにほかならないということだ。
その意味からも東京オリンピック・パラリンピックを一刻も早く中止させなければならない、との思いが強まるばかりだ。
『週刊新社会』(2020年12月8日)
仕組まれたバッハ会長の来日 (週刊新社会)
スポーツジャーナリスト 谷口源太郎
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が11月15日という時期に、わざわざチャーター機を飛ばして日本へやって来る企図はなにか、といろいろと取り沙汰された。
私が注日じたのは、安部晋三首相(当時)の「大会開催の1年延期」提案に同意(3月)して以降、動きのなかったバッハ会長が9月22日に突如、公開した書簡、「オリンピズム(五輪精神)とコロナ」と関連する新たな意思表示があるのではないか、という点であった。
同書簡の内容を要約すると。
「スポーツはパンデミックと闘う上で不可欠な要素だと広く認識されている。制限下でも大会を安全に組織できることがわかってきた。このことは、五輪を含む今後の大会準備に自信を与えてくれるはずだ」、
「ワクチンなしでも安全に開催できることが示された。ワクチンは全ての問題を解決する打開策でないことは認識しなければいけない」など。
◆ 具体的言明のない会長
この書簡の内容と今回の来日の関運性があるのかどうか、バッハ会長の言動に注目した。
バッハ会長は、11月16日、菅義偉首相を表敬訪問し、会談した。
報道によると、会談で、菅首相は、「人類がウイルスに打ち勝った証として、東京大会の開催を実現する決意だ」(安倍晋三前首相の言葉をそのまま使って)と発言。
バッハ会長は、菅首相の決意を「共有する」とし、「世界の人々は深いトンネルの中で不安を抱いているが、コロナ対策ツールボックス(道具箱)の中の道具は増えている。ワクチンも入手可能になるだろう。安全な環境で大会を開催するために必要な道具箱は整っている。オリンピックの実現は連帯・団結のシンボルになり、コロナ下のトンネルの先の明かりになる」と語ったという。
ワクチンをはじめ「コロナ対策ツールボックス」の中の道具が増えたことを強調し、改めて大会開催への自信を示す内容だった。
しかし、大会開催にともなう開閉会式のあり方、選手村運営などでの日本側とIOC側との考え方の違い、さらにコロナ対策費を除く追加経費2000億円(組織委員会試算)の負担問題などの課題についてバッハ会長は、一切具体的言明を避けた。
この会談以外で目を引いたのは、安倍前首相への「オリンピック・オーダー金章」(日本で3人目)授与であった。
なぜ、こんな時期に、しかも放射能汚染水が漏出し続けているにもかかわら「アンダーコントロール」と、大嘘をついて東京オリンピックを招致した安倍氏へ金章を授与するのか、何か裏があると考えられた。
それはともかく、当の本人は、意気込んで「日本国民に対して、頑張れ、絶対に成功させうと、励ましを送るつもりで、このオーダーをくださった」と語ったという。
この儀式後、目立った動きもなく新国立競技場などを視察し、バッハ会長は、18日に日本を去った。
◆ 空転した盛り上げの狙い
結局、バッハ会長は、来夏の大会について何一つ具体的な言明をせずに去った。
ただ、組織委員会やJOC関係者のなかには、「バッハ会長は、森会長の書いた筋書きに沿って動くだけでよかったのだ」と、次のような見方をする幹部もいた。
旗振り役として頼ってきた安倍首相が辞任し森会長はかなりの衝撃を受けるとともに、バッハ会長との関係も懸念もされた。その森会長は9月27日、自民党・細田派のパーティーに出席し、壇上で「どんなことがあっても、来年のオリンピックはやります!」と豪語した。
しかし、世界的にも国内的にも新型コロナウイルスのパンデミックによる感染者、死者は拡大する一方で、終息の見通しなど全く立たない深刻な事態に陥った。
当然のようにオリンピック開催に対する否定的な見方が膨らみ、期待は萎む一方となってきた。
その事態に森会長は危機感を抱き、改めてオリンピックへの盛り上げのきっかけを作るためにバッハ会長を来日させ、菅百相との会談、安倍氏へのオリンピック・オーダー金章の授与などのパフォーマンスを仕組んだ、というのだ。
結果的に森会長の思い通りに大会への期待が盛り上がることはなかった。
改めて指摘したいのは、新自由主義に支配され徹底的に商品化されてしまったオリンピックは、もはや不要であり、オリンピックに固執することは、税金の無駄使いなど負のレガシーを積み重ねることにほかならないということだ。
その意味からも東京オリンピック・パラリンピックを一刻も早く中止させなければならない、との思いが強まるばかりだ。
『週刊新社会』(2020年12月8日)
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