◆ 育鵬社・自由社版教科書の採択を推進する勢力の主張を斬る!
◆ 安倍政権の「教育再生」と連動させた教科書採択への介入
2016年度用中学校の検定が終わり、いよいよ採択の取り組みがはじまっています。日本教育再生機構(「再生機構」)・「教科書改善の会」、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)や日本会議などは、育鵬社・自由社版教科書を全国各地で採択させるために、一段と動きを強めています。
安倍政権と自民党はこれを全面的にバックアップしています。特に、「再生機構」・「教科書改善の会」は、「安倍政権の進める『教育再生』政策が、はたして成功するのか、停滞するのか。それは育鵬社の歴史・・公民教科書の採択の成否にかかっています」と主張し、「再生機構」が発足させた教育再生首長会議の参加首長(80数名〉を教科書採択に介入させ、育鵬社版教科書を採択させようとしています。
安倍政権は、この教育再生首長会議を全面的に支援しています。
前回の2011年の採択では、当時野党だった安倍晋三首相は「再生機構」・「教科書改善の会」が開催した「日本がもっと好きになる教科書誕生!」と題したシンポジウムで特別挨拶を行ない、06年に安倍政権が「改正」した「新しい教育基本法の趣旨を最もふまえた教科書は育鵬社であると私は確信している」と支持しました。
また、シンポジウムに参加した下村博文文科相(当時,「教科書議連」幹事長)は、教育基本法も学習指導要領も変わったのに、教科書は「以前よりももっと悪くなった」が、育鵬社は自分たちが求める内容が「すべて入っている」と称賛しました。
◆ 「教育基本法の趣旨に最も適った教科書の採択」という主張の間違い
自民党は選挙政策で「真に教育基本法と学習指導要領に適った『伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するための教科書で、子どもたちが学ぶことができるよう』にする」と主張しています。
そして「再生機構」・「教科書改善の会」や「つくる会」、日本会議などは、教育基本法・学習指導要領にもっとも適った教科書は育鵬社・自由社だと主張し、各地の議会や教育委員会に対して、「教育基本法の趣旨に最も適った教科書を採択せよ」という請願などを出し、日本会議地方議連の議員などが議会で同様の発言を繰り返しています。
教科書採択において、教育基本法・学習指導要領への適合を第一にせよ、という主張は、育鵬社・自由社教科書を採択させるための理屈です。これについては、次のような問題点があり、次のような内容で反論していく必要があります。
第一に、「教育基本法・学習指導要領への適合」を主張する人びとは、具体的には「伝統と文化」「我が国と郷土を愛する」などに焦点を当てています。
しかし、教育基本法第2条の「教育の目標」には、「真理を求める態度」「個人の価値を尊重」「自主及び自律の精神」「国際社会の平和と発展に寄与」なども規定されています。教育基本法の目標の項目は多義的であり、その内容の理解の仕方は人によって異なります。その中から「愛国心」など特定の「価値」を取りだして教科書採択の基準にするのは、教育に特定の「価値」を押しつけるもので重大な誤りだといえます。
教育基本法の目標に基づく教育が憲法の下で許容されるのは、憲法の保障する精神的自由を侵害しない範囲及び態様においてのみであり、多義的な各教育目標で具体的な教科書の記述を評価することは許されないことは明らかです。日本弁護士連合会(日弁連)も同様な見解を明らかにしています。
第二に、国際社会は、愛国心などを基準に教科書を採択すべきでないとしています。2013年第68回国連総会において,歴史教科書に特に焦点を定めて出された報告(A/68/296)があります。この文化的権利に関する特別報告者の報告は、その「結論と勧告」部分において次のように述べています。
歴史教育は、愛国心を強めたり、民族的な同一性を強化したり、公的なイデオロギーに従う若者を育成することを目的とすべきでない。幅広い教科書が採択されて教師が教科書を選択できることを可能にすること、教科書の選択は、特定のイデオロギーに基づいたり、政治的な必要性に基づくべきではない。歴史教科書の(内容の)選択は歴史家の手に残されるべきであり、特に政治家などの他の者の意思決定は避けるべきである。
これが国際社会の常識です。日本においてもこうした観点から教科書を採択すべきです。
◆ 国際社会からの育鵬社・自由社版教科書への批判、懸念、勧告
2010年の国連・子どもの権利委員会の日本に対する条約44条に基づく政府報告書審査最終所見では、次のように日本政府に勧告しています。
「本委員会は、日本の歴史教科書が、歴史的事実に関して日本政府による解釈のみを反映しているため、アジア・太平洋地域における国々の子どもの相互理解を促進していないとの情報を懸念する」(74パラグラフ)。
「本委員会は、アジァ・太平洋地域における歴史的事実についてのバランスの取れた見方が検定教科書に反映されることを、締約国政府(日本政府)に勧告する」(75パラグラフ)。
国連・子どもの権利委員会の勧告は、育鵬社・自由社の名前はあげていませんが、この内容は明らかに両者の歴史教科書を念頭に置いたものになっています。
◆ 教員の意見を尊重しない教科書採択は、子どもの学習権を侵害する
日弁連は、2014年12月19日に教科書検定と採択についての意見書を公表しました。その中で教科書採択について次のように指摘しています。
「そもそも教科書は、学校教育における主たる教材であり、どのような教科書が採択されるかは教師が行う授業実践に大きな影響を与える。」「ところが、近年、教科書採択において現場の教師を十分に教科書調査に関わらせなかったり、現場の教師による教科書評価の順位付けを廃止したりする等、学校現場の意見を聴取する機会を狭める教育委員会や採択協議会が出てきている。」
「そもそも教育は、教師と子どもとの間の人格的接触に基づいて行われるという本質的要請があり(旭川学力テスト事件最高裁判決)、日々子どもと接している教師や教師集団である学校こそ、子どもの状況やニーズを的確に把握できる。したがって、前述したように、子どもが有する自己の人格や能力を発達させるために学習する権利を保障するためには、子どもに直接接する教師や学校現場に、教育についての専門性に基づく一定の教育の自由が保障される必要がある。」「子どものニーズを的確に把握し、子どもの学習権をより充足させるためには、教科書採択の場面においても学校現場の意見を尊重すべきである。」
「検定済教科書のうち、どの教科書を採択するかについては、学校現場をよく知る教師や教師集団である学校の意見を十分尊重することは何ら問題がないはずであり、子どもの学習権をより充足するためには、かかる学校現場の意見を十分に尊重する必要性は大きい。したがって、教科書の採択においては、子どもの学習権保障の観点から、学校現場の意見を十分に尊重して、教科書採択の判断がなされなければならない。」
以上のように教員の意見を採択から排除するのは子どもの学習権への重大な侵害です(この問題については「事務局通信」に詳しく載せています)。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 101号』(2015.4)
俵義文(たわらよしふみ) 子どもと教科書全国ネット21事務局長
◆ 安倍政権の「教育再生」と連動させた教科書採択への介入
2016年度用中学校の検定が終わり、いよいよ採択の取り組みがはじまっています。日本教育再生機構(「再生機構」)・「教科書改善の会」、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)や日本会議などは、育鵬社・自由社版教科書を全国各地で採択させるために、一段と動きを強めています。
安倍政権と自民党はこれを全面的にバックアップしています。特に、「再生機構」・「教科書改善の会」は、「安倍政権の進める『教育再生』政策が、はたして成功するのか、停滞するのか。それは育鵬社の歴史・・公民教科書の採択の成否にかかっています」と主張し、「再生機構」が発足させた教育再生首長会議の参加首長(80数名〉を教科書採択に介入させ、育鵬社版教科書を採択させようとしています。
安倍政権は、この教育再生首長会議を全面的に支援しています。
前回の2011年の採択では、当時野党だった安倍晋三首相は「再生機構」・「教科書改善の会」が開催した「日本がもっと好きになる教科書誕生!」と題したシンポジウムで特別挨拶を行ない、06年に安倍政権が「改正」した「新しい教育基本法の趣旨を最もふまえた教科書は育鵬社であると私は確信している」と支持しました。
また、シンポジウムに参加した下村博文文科相(当時,「教科書議連」幹事長)は、教育基本法も学習指導要領も変わったのに、教科書は「以前よりももっと悪くなった」が、育鵬社は自分たちが求める内容が「すべて入っている」と称賛しました。
◆ 「教育基本法の趣旨に最も適った教科書の採択」という主張の間違い
自民党は選挙政策で「真に教育基本法と学習指導要領に適った『伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するための教科書で、子どもたちが学ぶことができるよう』にする」と主張しています。
そして「再生機構」・「教科書改善の会」や「つくる会」、日本会議などは、教育基本法・学習指導要領にもっとも適った教科書は育鵬社・自由社だと主張し、各地の議会や教育委員会に対して、「教育基本法の趣旨に最も適った教科書を採択せよ」という請願などを出し、日本会議地方議連の議員などが議会で同様の発言を繰り返しています。
教科書採択において、教育基本法・学習指導要領への適合を第一にせよ、という主張は、育鵬社・自由社教科書を採択させるための理屈です。これについては、次のような問題点があり、次のような内容で反論していく必要があります。
第一に、「教育基本法・学習指導要領への適合」を主張する人びとは、具体的には「伝統と文化」「我が国と郷土を愛する」などに焦点を当てています。
しかし、教育基本法第2条の「教育の目標」には、「真理を求める態度」「個人の価値を尊重」「自主及び自律の精神」「国際社会の平和と発展に寄与」なども規定されています。教育基本法の目標の項目は多義的であり、その内容の理解の仕方は人によって異なります。その中から「愛国心」など特定の「価値」を取りだして教科書採択の基準にするのは、教育に特定の「価値」を押しつけるもので重大な誤りだといえます。
教育基本法の目標に基づく教育が憲法の下で許容されるのは、憲法の保障する精神的自由を侵害しない範囲及び態様においてのみであり、多義的な各教育目標で具体的な教科書の記述を評価することは許されないことは明らかです。日本弁護士連合会(日弁連)も同様な見解を明らかにしています。
第二に、国際社会は、愛国心などを基準に教科書を採択すべきでないとしています。2013年第68回国連総会において,歴史教科書に特に焦点を定めて出された報告(A/68/296)があります。この文化的権利に関する特別報告者の報告は、その「結論と勧告」部分において次のように述べています。
歴史教育は、愛国心を強めたり、民族的な同一性を強化したり、公的なイデオロギーに従う若者を育成することを目的とすべきでない。幅広い教科書が採択されて教師が教科書を選択できることを可能にすること、教科書の選択は、特定のイデオロギーに基づいたり、政治的な必要性に基づくべきではない。歴史教科書の(内容の)選択は歴史家の手に残されるべきであり、特に政治家などの他の者の意思決定は避けるべきである。
これが国際社会の常識です。日本においてもこうした観点から教科書を採択すべきです。
◆ 国際社会からの育鵬社・自由社版教科書への批判、懸念、勧告
2010年の国連・子どもの権利委員会の日本に対する条約44条に基づく政府報告書審査最終所見では、次のように日本政府に勧告しています。
「本委員会は、日本の歴史教科書が、歴史的事実に関して日本政府による解釈のみを反映しているため、アジア・太平洋地域における国々の子どもの相互理解を促進していないとの情報を懸念する」(74パラグラフ)。
「本委員会は、アジァ・太平洋地域における歴史的事実についてのバランスの取れた見方が検定教科書に反映されることを、締約国政府(日本政府)に勧告する」(75パラグラフ)。
国連・子どもの権利委員会の勧告は、育鵬社・自由社の名前はあげていませんが、この内容は明らかに両者の歴史教科書を念頭に置いたものになっています。
◆ 教員の意見を尊重しない教科書採択は、子どもの学習権を侵害する
日弁連は、2014年12月19日に教科書検定と採択についての意見書を公表しました。その中で教科書採択について次のように指摘しています。
「そもそも教科書は、学校教育における主たる教材であり、どのような教科書が採択されるかは教師が行う授業実践に大きな影響を与える。」「ところが、近年、教科書採択において現場の教師を十分に教科書調査に関わらせなかったり、現場の教師による教科書評価の順位付けを廃止したりする等、学校現場の意見を聴取する機会を狭める教育委員会や採択協議会が出てきている。」
「そもそも教育は、教師と子どもとの間の人格的接触に基づいて行われるという本質的要請があり(旭川学力テスト事件最高裁判決)、日々子どもと接している教師や教師集団である学校こそ、子どもの状況やニーズを的確に把握できる。したがって、前述したように、子どもが有する自己の人格や能力を発達させるために学習する権利を保障するためには、子どもに直接接する教師や学校現場に、教育についての専門性に基づく一定の教育の自由が保障される必要がある。」「子どものニーズを的確に把握し、子どもの学習権をより充足させるためには、教科書採択の場面においても学校現場の意見を尊重すべきである。」
「検定済教科書のうち、どの教科書を採択するかについては、学校現場をよく知る教師や教師集団である学校の意見を十分尊重することは何ら問題がないはずであり、子どもの学習権をより充足するためには、かかる学校現場の意見を十分に尊重する必要性は大きい。したがって、教科書の採択においては、子どもの学習権保障の観点から、学校現場の意見を十分に尊重して、教科書採択の判断がなされなければならない。」
以上のように教員の意見を採択から排除するのは子どもの学習権への重大な侵害です(この問題については「事務局通信」に詳しく載せています)。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 101号』(2015.4)
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