《子どもと教科書全国ネット21ニュースから》
=新学習指導要領の問題=
◆ 家庭科について
◆ 人格の完成ではなく、資質・能力を育成する?!
「世界で一番企業が活躍しやすい国」、グローバル大企業の生き残りのために役立つ「資質・能力」を子どもたちに育成する(名目GDP600兆円に向けた成長戦略「日本再興戦略2016」の中では、“経済成長を切り拓く人材の育成・確保”と記されています)。
そのために教育内容や学校のあり方を改変する。なんと露骨な企てなのでしょう。
「英語、IT活用、プログラミングをすべての子に」「心を支配する道徳教育」が筆頭ですが、各教科の内容にも政財界の思惑が反映されているはずです。
家庭科はどのように位置づけられているのでしようか。
◆ 家庭科はどうなる
大人は長時間過密労働、子どもも忙しい毎日。その中で、健康で文化的な、人間らしい生活を維持していくには、意識的な努力が必要です。生活を見つめ、維持し、発展させる主権者としての生活者を育てることを目的とする家庭科教育は、そのための大切な教科だと思っています。
現行学習指導要領家庭科の4領域(A家庭生活と家族、B日常の食事と調理の基礎、C快適な衣服と住まい、D身近な消費生活と環境)が、次期学習指導要領では3領域(A家族・家庭生活、B衣食住の生活、C消費生活・環境)となっています。
現行BとCが、「B衣食住の生活」と一つにまとめられ、相対的に扱いが少なくなると懸念されます。
家庭科は体験学習を重要な内容としています。特に、家庭ではなかなか体験できない衣食住の実践は、子どもたちにとって魅力的です。やがて日常生活で役立つ学びになります。家庭に帰って実践することで、家族に褒められたり、触れ合いのきっかけになったり、自信を持っことにもつながります。
◆ 教科の道徳化?「家族・家庭生活」の内容
比重が大きくなっているのは、「A家族・家庭生活」です。
小学校学習指導要領家庭科では、2008(平成20)年改訂から、目標に「家庭生活を大切にする心情をはぐくみ、家族の一員として生活をよりよくしようとする実践的な態度を育てる」と、心情的な内容が入りました。体系的な教科の目標に「心情を育てる」とあることが、そもそもおかしなことです。
また、個人の成長や尊厳を実現する家庭科の学びではなく、家庭生活という集団に重きがおかれ、個人が埋没させられてしまっています。
次期学習指導要領ではさらに、「家族や地域の人々との関わりを考え、」が加わり、「家族や地域の人々」という、集団への帰属意識を持たせようとしていると考えられます。
小学校〔第5学年及び第6学年〕
[感謝]日々の生活が家族や過去からの多くの人々の支え合いや助け合いで成り立っていることに感謝し、それに応えること。
[家族愛・家庭生活の充実]父母、祖父母を敬愛し、家族の幸せを求めて、進んで役に立つことをすること。
中学校
[思いやり、感謝]思いやりの心をもって人と接するとともに、家族などの支えや多くの人々の善意により日々の生活や現在の自分があることに感謝し、進んでそれに応え、人間愛の精神を深めること。
[家族愛、家庭生活の充実]父母、祖父母を敬愛し、家族の一員としての自覚をもって充実した家庭生活を築くこと。
また、現在、自民党等が施策している「家庭教育支援法案」や自民党改憲草案第24条「家族は互いに助け合う」にもつながるもので、注意が必要です。
消費生活と環境
「持続可能な社会の構築に向けて身近な消費生活と環境を考え」とあり、日常生活だけでなく、自然環境、地球環境を守る広い視野を持って学習したいものです。
消費者の権利と責任とありますが、権利を持つ消費者を育てる視点は感じられません。消費者基本法にある「安全が確保されること」「必要な情報、教育の機会が提供されること」などに基づき、食品の原材料表示や添加物の見方、また、日用品に使われている有害化学物質等についても学んでいきたいものです。
「健康に生活する」「持続可能な社会の構築」「環境に配慮した消費生活」という視点から、消費者が生産者に働きかけていくことも大切です。
◆ 伝統と「我が国」の文化の強調
小学校では、「伝統的な日常食である米飯及びみそ汁の調理」「和食の基本となるだしの役割」「日本の伝統的な生活についても扱い、生活文化に気づくことができるようにすること」などがあげられています。
いつを基準として伝統というのか、何を生活文化というのかは時代や地方によっても違います。
「米飯」「みそ汁」「だし」どれをとっても魅力的な学習材です。しかし、それが『日本の伝統のすばらしさ』を強調するために持ち出されると、向かっていく方向性が違ってきてしまいます。
外国の文化や食生活も合理的に取り入れている現実の生活を見つめ、多様な生活文化から学ぶことを大切にしたいものです。子どもたちと、生活に密着した、押し付けない家庭科の授業を作っていきたいと思います。(うんのりつこ)
=新学習指導要領の問題=
◆ 家庭科について
海野りつ子(家庭科教育研究者連盟)
◆ 人格の完成ではなく、資質・能力を育成する?!
「世界で一番企業が活躍しやすい国」、グローバル大企業の生き残りのために役立つ「資質・能力」を子どもたちに育成する(名目GDP600兆円に向けた成長戦略「日本再興戦略2016」の中では、“経済成長を切り拓く人材の育成・確保”と記されています)。
そのために教育内容や学校のあり方を改変する。なんと露骨な企てなのでしょう。
「英語、IT活用、プログラミングをすべての子に」「心を支配する道徳教育」が筆頭ですが、各教科の内容にも政財界の思惑が反映されているはずです。
家庭科はどのように位置づけられているのでしようか。
◆ 家庭科はどうなる
大人は長時間過密労働、子どもも忙しい毎日。その中で、健康で文化的な、人間らしい生活を維持していくには、意識的な努力が必要です。生活を見つめ、維持し、発展させる主権者としての生活者を育てることを目的とする家庭科教育は、そのための大切な教科だと思っています。
現行学習指導要領家庭科の4領域(A家庭生活と家族、B日常の食事と調理の基礎、C快適な衣服と住まい、D身近な消費生活と環境)が、次期学習指導要領では3領域(A家族・家庭生活、B衣食住の生活、C消費生活・環境)となっています。
現行BとCが、「B衣食住の生活」と一つにまとめられ、相対的に扱いが少なくなると懸念されます。
家庭科は体験学習を重要な内容としています。特に、家庭ではなかなか体験できない衣食住の実践は、子どもたちにとって魅力的です。やがて日常生活で役立つ学びになります。家庭に帰って実践することで、家族に褒められたり、触れ合いのきっかけになったり、自信を持っことにもつながります。
◆ 教科の道徳化?「家族・家庭生活」の内容
比重が大きくなっているのは、「A家族・家庭生活」です。
小学校学習指導要領家庭科では、2008(平成20)年改訂から、目標に「家庭生活を大切にする心情をはぐくみ、家族の一員として生活をよりよくしようとする実践的な態度を育てる」と、心情的な内容が入りました。体系的な教科の目標に「心情を育てる」とあることが、そもそもおかしなことです。
また、個人の成長や尊厳を実現する家庭科の学びではなく、家庭生活という集団に重きがおかれ、個人が埋没させられてしまっています。
次期学習指導要領ではさらに、「家族や地域の人々との関わりを考え、」が加わり、「家族や地域の人々」という、集団への帰属意識を持たせようとしていると考えられます。
A(3)家族や地域の人々との関わり「特別の教科道徳」の徳目がそのまま持ち込まれる恐れもあります。(次期学習指導要領特別の教科道徳の徳目より)
ア(イ)家庭生活は地域の人々との関わりで成り立っていることがわかり、地域の人々との協力が大切であることを理解すること。
イ家族や地域の人々とのよりよい関わりについて考え、工夫すること。
小学校〔第5学年及び第6学年〕
[感謝]日々の生活が家族や過去からの多くの人々の支え合いや助け合いで成り立っていることに感謝し、それに応えること。
[家族愛・家庭生活の充実]父母、祖父母を敬愛し、家族の幸せを求めて、進んで役に立つことをすること。
中学校
[思いやり、感謝]思いやりの心をもって人と接するとともに、家族などの支えや多くの人々の善意により日々の生活や現在の自分があることに感謝し、進んでそれに応え、人間愛の精神を深めること。
[家族愛、家庭生活の充実]父母、祖父母を敬愛し、家族の一員としての自覚をもって充実した家庭生活を築くこと。
また、現在、自民党等が施策している「家庭教育支援法案」や自民党改憲草案第24条「家族は互いに助け合う」にもつながるもので、注意が必要です。
消費生活と環境
「持続可能な社会の構築に向けて身近な消費生活と環境を考え」とあり、日常生活だけでなく、自然環境、地球環境を守る広い視野を持って学習したいものです。
消費者の権利と責任とありますが、権利を持つ消費者を育てる視点は感じられません。消費者基本法にある「安全が確保されること」「必要な情報、教育の機会が提供されること」などに基づき、食品の原材料表示や添加物の見方、また、日用品に使われている有害化学物質等についても学んでいきたいものです。
「健康に生活する」「持続可能な社会の構築」「環境に配慮した消費生活」という視点から、消費者が生産者に働きかけていくことも大切です。
◆ 伝統と「我が国」の文化の強調
小学校では、「伝統的な日常食である米飯及びみそ汁の調理」「和食の基本となるだしの役割」「日本の伝統的な生活についても扱い、生活文化に気づくことができるようにすること」などがあげられています。
いつを基準として伝統というのか、何を生活文化というのかは時代や地方によっても違います。
「米飯」「みそ汁」「だし」どれをとっても魅力的な学習材です。しかし、それが『日本の伝統のすばらしさ』を強調するために持ち出されると、向かっていく方向性が違ってきてしまいます。
外国の文化や食生活も合理的に取り入れている現実の生活を見つめ、多様な生活文化から学ぶことを大切にしたいものです。子どもたちと、生活に密着した、押し付けない家庭科の授業を作っていきたいと思います。(うんのりつこ)
※道徳教科書の中の「お母さんの請求書」『子どもと教科書全国ネット21ニュース 114号』(2017.6)
小学校3・4年の道徳教科書で、「家族愛、家庭生活の充実」という項目に必ず載っている「お母さんの請求書」(原文は「ブラッドレーの請求書」)という定番の読み物がある。
男の子が食卓に「お母さんへのせいきゅう書」として「おつかい代100円、おそうじ代200円、おるすばん代200円、合計500円」と書いた紙きれを置いておいたら、お母さんは500円のお金と一緒に紙切れを返してきた。
それには「お母さんのせいきゅう書親切にしてあげた代0円、病気したときのかん病代0円、服やくつやおもちゃ代0円、食事代と部屋代0円、合計0円」と書いてあった。
それを読んだ男の子はお金を返しながら、「なんでも手伝わせてください」と涙ながらに言ったという話。
いかにも文科省好みの話だが、この教材のねらいは、「育ててくれた親の深い愛情に感謝し、家族の一員として尽くそうとする心情を育てる」とある。
だから、この読み物を読んだ後、子どもたちは「請求書なんて出して恥ずかしい。お母さんはみんなのためにこんなに尽くしてくれて感謝したい。自分も家族の一員としてできることは何か、考えたい」という模範解答を書き、教師は「無償の愛」と偲に報いる」を説くことになる。
現実には、「過労死ライン6割を超えている」教員の家庭では、自分の子どもとゆっくり話す時間もないまま、学校では絵に描いたような家族愛を説き、子どもたちの多くは親と一緒に食卓を囲むこともできない生活を送っている。
その一方で、個を自己抑制し集団に奉仕する人間を美化するこうした話が散りばめられている今度の教科書は、「家庭生活の充実」が出来ないでいるさまざまな現実問題に目を向けるのではなく、国が決めた「父母、祖父母を敬愛し、家族そろってみんなで協力し合って、楽しい家庭をつくる」(学習指導要領)という家族像に子どもを誘導するしくみになっている。
本当の「お母さんの請求書」は、こう書きたいのではないか。
「毎月の教材費2000円、給食費4000円、塾・習いごと費9000円…安倍サン、この赤字・体どうしてくれるの!」。
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