戦争を回避するためにどうするのか。3月16日に千葉県野田市で、野田・九条の会が「新外交イニシアティブ」代表の猿田佐世さんを招いて講演会を開いた。猿田さんは「非武装中立」を直接語るわけではないが、外交に声を届け、最大の「抑止力」は相手に「安心供与」を与える外交だと説いた。
☆ 最大の抑止力は安心供与
選択を迫られる事態を招くな
「議会、お願いだからもうちょっと中国に対して優しくなってくれ」
「そんな強硬な声を出されると、軍が困るからやめてくれ」
「あんなに議会が現実とかけ離れた形で言い続けることの方が、こちらの危険が高まる」。
これは対中国強硬派の共和党議員が、戦争政策に抵抗する民主党プログレッシブ(急進左派、サンダース派)の議員対策で、民主党議員を誘ってハワイの米軍インド太平洋司令部を訪れたとき、司令官が開ロ一番に言ったことだという。
ワシントンでプログレッシブの補佐官から猿田佐世さんが聞いた話だ。
まさに日本もそうだ。元副首相の自民党実力者、麻生太郎衆院議員が台湾で、「(中国と)戦う覚悟を持て」と発言した。
☆ 想定されない有事の犠牲者
岸田文雄首相も安保三文書という大軍拡プランをつくって戦争体制への道を邁進(まいしん)している。国会で多数を占める政権の政治家が戦争の危機をあおり、批判精神を失ったマスコミが垂れ流す構図だ。
彼らは「台湾有事」で、米軍が世界中に散在する軍を東アジアに結集して本格参戦するまでの間、半年から1年の継戦能力(戦い続ける戦闘力)をつくるとしている。岸田政権はその間の国民の犠牲を語ろうとしない。
宮古島や石垣島などの住民は九州に避難するというが、沖縄本島の住民は建物避難だ。
イスラエルのガザ攻撃の空爆でどれだけ建物被害が出て、多くの死傷者が出ているのを目にして、政府のごまかしは誰もが気付く。沖縄では肌身で感じる。
☆ 核心的利益を侵さない外交
軍拡の先には戦争が待っているのは過去の戦争の歴史の事実だ。
それでは中国と戦争しないためにはどうするのか。「抑止力より安心供与」と猿田さんは提起した。中国の核心的利益を侵さないのが「安心供与」と説く。
中国の核心的利益とは何か。「中国は一つ」だ。これは米国を含み、国際的にもまた日中共同声明(「台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部」)でも確認されている。
だから日本政府は台湾独立を支持しないと表明すること。さらに「日本の基地から米軍が戦闘地域へ直接出撃する場合には、日米の事前協議の主題にする」(岸・バーター交換公文1960年)という日米合意に基づいて、米政府に対して「必ずしも事前協議で賛成するとは限らない」と伝えること。
猿田さんが紹介したシンガポールのリー・シェンロン首相の発言、「アジア諸国は、米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることを望んでいない」と、日本も表明することによって戦争を回避するのが私たちの選択肢ではないか。そして「選択を迫られるような事態を招かない」ことが大切だ。
☆ 外交には多様な声の反映を
猿田さんが米国に留学時、自公政権に代わって民主党連立政権ができ、鳩山首相となり、ワシントンの日本の外交官は、米国に対して、鳩山首相はすぐに変わるから何を言ってきても無視しろと説得した。
これを見て猿田さんは日本にも米国にも多様な声があるのに、外交には反映されていないと痛切に感じたという。
それが動機になり、日本の多様な声を米政府や議会などに届ける活動を始めたという。
その活動の継続と個人の限界を乗り越えるために、「新外交イニシアティブ(ND)」を2013年につくり、代表に就いた。
NDの評議員には柳澤協二・元内閣副官房長官補、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏、マイク・モチヅキ・ジョージワシントン大学准教授など6名が在籍している。
その活動の主眼は「外交に声を届ける」こと。
そのため、「辺野古オルタナティブ」や、「原子力エネルギー」、「日米外交システム」などのプロジェクトや、海外有識者の招へいなどに取り組み、政策を提言し続けている。
沖縄県のワシントン事務所との協力や、玉城デニー知事の全国トークキャラバンを受託し、シンポジウムを開催した。
昨年70回の講演活動をしたが、どこも高齢者がほとんど、このままではあと20年たつと九条の会はなくなる。若い人に次の講演会に1人でも2人でもどう来てもらうかということ考えて欲しいと講演を続けている。
(長南博邦)
『週刊新社会』(2024年4月17日)
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