◆ 講師の「日本は単一民族発言」、都教委が釈明・訂正
都立高生〝次世代リーダー育成道場〟~事前研修は政治色も (マスコミ市民)
「先ほどの講師による『日本は単一民族だ』との発言は、東京都教育委員会の見解ではありません」。都教委が4月28日、東京都文京区の都教職員研修センター(以下、センター)で開催した「高校生留学フェア」の終了時、女性指導主事が壇上でやや顔をこわばらせ、訂正発言した。
都教委は2012年度から、選抜した都立高校生等200名に6か月~1年間、月2回程度の事前研修(日曜日等に実施)を受講させた上で、米国・カナダ・豪州・ニュージーランドの高校に11か月間留学させ、卒業に必要な単位も認定する「次世代リーダー育成道場」という事業を展開している(【注1】参照)。「高校生留学フェア」は、この事業を高校生と保護者・都民にPRする、キックオフ集会に当たる。
◆ エリート高校生を選抜し留学させる
『平成30年度次世代リーダー育成道場研修生募集要項』は、「1 求める人材」に「世界や日本の将来を担い、様々な分野において活躍する高い志をもち、次世代のリーダーとなることを目指して、国内研修及び海外留学で学ぶことを希望する生徒」と明記。
また「5 推薦基準」には、「次の全てを満たすと校長が判断する者」として、(1)在籍校での出席状況・生活態度が良好、(2)学業成績が優秀、(3)留学出発前までに英検2級相当以上のレベルに高める意欲を有する、(4)協調性を有するとともに、学校行事・部活動・ボランティア活動等に積極的に取り組んでいる、(5)育成道場の趣旨を理解し、全研修に目的意識をもって、意欲的に参加できる――などと出ている。
そして、(2)の「学業成績」は「7 出願」の「出願書類」の項に、「前年度の(5段階の)評定平均3・8以上かつ前年度の英語評定平均4・0以上」と、具体的に示している。
これらの基準を満たす校長の推薦書や、「入校志望理由」「育成道場で学びたいこと、身に付けたいこと」等を記した自己PRカードを提出した志願者に対し、都教委は面接(日本語・英語)、小論文(日本語)、英語筆記テスト等の「選考」を行い、〝総合的〟に判断し、研修生200名を決定する。
留学は通常なら、現地校の授業料、ホームステイ宅の食費・光熱費など300万~400万円かかるが、同事業では「保護者の負担金は80万円。残りは公費負担」と、恵まれている(但しビザや現地校での教科書・制服代等は別途、自己負担)。
◆ 講師の問題発言の訂正、行き渡らず
冒頭の「高校生留学フェア」の講師は、16年の「ミス日本みどりの女神」に選ばれた飯塚帆南氏(24歳、国際基督教大学卒)。
飯塚氏は自身の米国留学で「日本人としてのプライド・アイデンティティーを強く意識していた。日本人であることは誇りに思える」と講演。続けて「日本は単一民族であるゆえに、価値観も同一なのは日本の良さと思う」という問題発言が出た。
その後、飯塚氏は「人脈は宝物」と語る際、正面のスクリーンに、伊勢志摩サミットで安倍晋三首相の昭恵夫人の横に立つ自身の写真も、映し出すなどした(【注2】参照)。
質疑・意見交換の時間は一切なかったため、講演終了直後「飯塚さーん、日本は単一民族ではないですよ」と、フロアーから声が上がり、舞台袖に向かって歩き始めた飯塚氏は立ち止まり、「あっ」と一瞬驚いた声を上げたが、そのまま舞台裏に消えた。
その後、4か国大使館職員らのプレゼンテーションや育成道場説明会、留学修了者のパネルディスカッション等があり、冒頭の指導主事の釈明までに、3時間が経過。この間、帰宅した人も一定数いた。
◆ 政治色の濃い事前研修
ところで、センターのホームページの掲載する育成道場の事前研修は、次のような政治色の濃いものが少なくない。
① 「日本人として誇りをもって海外での生活を送ってきてもらいたいという目的」(12年8月26日)や「日本人としての自覚と誇りの涵養という施策から」(17年7月30日)実施している近現代史では、都教委作成の日本史副読本(内容の偏向性から〝服毒〟本と言う人も少なくない)『江戸から東京へ』を毎回、使用。
だが同副読本は12年度改訂版以降、約2万2千語ものマッカーサー証言(51年5月、米議会)から僅か9語の箇所に注目し、「第2次世界大戦で日本は自衛戦争をした」という旨の記述をし続ける等、その偏向性が多く指摘されている。
講師を務める宮本久也・都立八王子東高校再任用校長と仙田直人・品川女子学院高等部校長は、共に同副読本執筆者。
宮本氏は元都教委指導企画課長であり、元都教委主任指導主事の仙田氏は07年3月まで都立三鷹中等教育学校校長だった。
12年9月30日の日本史フィールドワークでは、「皇居前広場から旧第一生命ビルや明治生命館を臨み、第二次世界大戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の占領下にあった東京」を学んだ旨、HPに出ているが、第2次世界大戦等について、前記副読本のような偏った歴史観を教化(Indoctrination)しなかったか、心配である。
②12年10月6日~8日の留学事前合宿オリエンテーション2日目、総勢135名が13グループに分かれ行った「日本を紹介するプレゼン」で、あるグループが〝君が代〟を英語で歌った。
「政府の政策教化・PRになってはいけない」という意味での、真の政治的中立性の確保は、主権者教育で特に必要。だが、今回の事案のような、教育委員会によるエリート生徒の選抜事業においても、差別につながる発言や政治的中立性の逸脱は、厳しくチェックされる必要がある、と考える。
【注1】 都教委が16年12月18日、センターで開催した、「次世代リーダー育成道場フォーラム・成果発表会」では、講師の手嶋龍一・元NHKワシントン支局長(68歳)が、「『自ら血を流した方がいい』と必ずしも申し上げているのではないが、大きな病院船に前線の負傷兵を収容するなど、『汗を流す』貢献をすると、随分違う。皆さんの時代には実現してほしい」と、自衛隊の軍事〝貢献〟の必要性を都立高校生に説く講演をしている。詳細は本誌2017年2月号の拙稿を参照されたい。
【注2】安倍昭恵氏との同席写真を映し出す前、飯塚氏は「自分は三井不動産レジデンシャル・東京オリンピック・パラリンピック選手村事業部に所属し、五輪選手村を建てる仕事に携わっている」と述べ、五輪を含む行政当局とのつながりの深さを印象付けていた。
『マスコミ市民』(2018年7月)
都立高生〝次世代リーダー育成道場〟~事前研修は政治色も (マスコミ市民)
永野厚男(教育ライター)
「先ほどの講師による『日本は単一民族だ』との発言は、東京都教育委員会の見解ではありません」。都教委が4月28日、東京都文京区の都教職員研修センター(以下、センター)で開催した「高校生留学フェア」の終了時、女性指導主事が壇上でやや顔をこわばらせ、訂正発言した。
都教委は2012年度から、選抜した都立高校生等200名に6か月~1年間、月2回程度の事前研修(日曜日等に実施)を受講させた上で、米国・カナダ・豪州・ニュージーランドの高校に11か月間留学させ、卒業に必要な単位も認定する「次世代リーダー育成道場」という事業を展開している(【注1】参照)。「高校生留学フェア」は、この事業を高校生と保護者・都民にPRする、キックオフ集会に当たる。
◆ エリート高校生を選抜し留学させる
『平成30年度次世代リーダー育成道場研修生募集要項』は、「1 求める人材」に「世界や日本の将来を担い、様々な分野において活躍する高い志をもち、次世代のリーダーとなることを目指して、国内研修及び海外留学で学ぶことを希望する生徒」と明記。
また「5 推薦基準」には、「次の全てを満たすと校長が判断する者」として、(1)在籍校での出席状況・生活態度が良好、(2)学業成績が優秀、(3)留学出発前までに英検2級相当以上のレベルに高める意欲を有する、(4)協調性を有するとともに、学校行事・部活動・ボランティア活動等に積極的に取り組んでいる、(5)育成道場の趣旨を理解し、全研修に目的意識をもって、意欲的に参加できる――などと出ている。
そして、(2)の「学業成績」は「7 出願」の「出願書類」の項に、「前年度の(5段階の)評定平均3・8以上かつ前年度の英語評定平均4・0以上」と、具体的に示している。
これらの基準を満たす校長の推薦書や、「入校志望理由」「育成道場で学びたいこと、身に付けたいこと」等を記した自己PRカードを提出した志願者に対し、都教委は面接(日本語・英語)、小論文(日本語)、英語筆記テスト等の「選考」を行い、〝総合的〟に判断し、研修生200名を決定する。
留学は通常なら、現地校の授業料、ホームステイ宅の食費・光熱費など300万~400万円かかるが、同事業では「保護者の負担金は80万円。残りは公費負担」と、恵まれている(但しビザや現地校での教科書・制服代等は別途、自己負担)。
◆ 講師の問題発言の訂正、行き渡らず
冒頭の「高校生留学フェア」の講師は、16年の「ミス日本みどりの女神」に選ばれた飯塚帆南氏(24歳、国際基督教大学卒)。
飯塚氏は自身の米国留学で「日本人としてのプライド・アイデンティティーを強く意識していた。日本人であることは誇りに思える」と講演。続けて「日本は単一民族であるゆえに、価値観も同一なのは日本の良さと思う」という問題発言が出た。
その後、飯塚氏は「人脈は宝物」と語る際、正面のスクリーンに、伊勢志摩サミットで安倍晋三首相の昭恵夫人の横に立つ自身の写真も、映し出すなどした(【注2】参照)。
質疑・意見交換の時間は一切なかったため、講演終了直後「飯塚さーん、日本は単一民族ではないですよ」と、フロアーから声が上がり、舞台袖に向かって歩き始めた飯塚氏は立ち止まり、「あっ」と一瞬驚いた声を上げたが、そのまま舞台裏に消えた。
その後、4か国大使館職員らのプレゼンテーションや育成道場説明会、留学修了者のパネルディスカッション等があり、冒頭の指導主事の釈明までに、3時間が経過。この間、帰宅した人も一定数いた。
◆ 政治色の濃い事前研修
ところで、センターのホームページの掲載する育成道場の事前研修は、次のような政治色の濃いものが少なくない。
① 「日本人として誇りをもって海外での生活を送ってきてもらいたいという目的」(12年8月26日)や「日本人としての自覚と誇りの涵養という施策から」(17年7月30日)実施している近現代史では、都教委作成の日本史副読本(内容の偏向性から〝服毒〟本と言う人も少なくない)『江戸から東京へ』を毎回、使用。
だが同副読本は12年度改訂版以降、約2万2千語ものマッカーサー証言(51年5月、米議会)から僅か9語の箇所に注目し、「第2次世界大戦で日本は自衛戦争をした」という旨の記述をし続ける等、その偏向性が多く指摘されている。
講師を務める宮本久也・都立八王子東高校再任用校長と仙田直人・品川女子学院高等部校長は、共に同副読本執筆者。
宮本氏は元都教委指導企画課長であり、元都教委主任指導主事の仙田氏は07年3月まで都立三鷹中等教育学校校長だった。
12年9月30日の日本史フィールドワークでは、「皇居前広場から旧第一生命ビルや明治生命館を臨み、第二次世界大戦後、連合国軍総司令部(GHQ)の占領下にあった東京」を学んだ旨、HPに出ているが、第2次世界大戦等について、前記副読本のような偏った歴史観を教化(Indoctrination)しなかったか、心配である。
②12年10月6日~8日の留学事前合宿オリエンテーション2日目、総勢135名が13グループに分かれ行った「日本を紹介するプレゼン」で、あるグループが〝君が代〟を英語で歌った。
「政府の政策教化・PRになってはいけない」という意味での、真の政治的中立性の確保は、主権者教育で特に必要。だが、今回の事案のような、教育委員会によるエリート生徒の選抜事業においても、差別につながる発言や政治的中立性の逸脱は、厳しくチェックされる必要がある、と考える。
【注1】 都教委が16年12月18日、センターで開催した、「次世代リーダー育成道場フォーラム・成果発表会」では、講師の手嶋龍一・元NHKワシントン支局長(68歳)が、「『自ら血を流した方がいい』と必ずしも申し上げているのではないが、大きな病院船に前線の負傷兵を収容するなど、『汗を流す』貢献をすると、随分違う。皆さんの時代には実現してほしい」と、自衛隊の軍事〝貢献〟の必要性を都立高校生に説く講演をしている。詳細は本誌2017年2月号の拙稿を参照されたい。
【注2】安倍昭恵氏との同席写真を映し出す前、飯塚氏は「自分は三井不動産レジデンシャル・東京オリンピック・パラリンピック選手村事業部に所属し、五輪選手村を建てる仕事に携わっている」と述べ、五輪を含む行政当局とのつながりの深さを印象付けていた。
『マスコミ市民』(2018年7月)
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