◎ 沖縄戦教科書検定 訂正申請審議結果の問題点
▲ 1・22教科書検定意見撤回を求める集会「日本軍の強制」文科省はなぜ認めない! ▲が大江・岩波裁判支援連絡会(大阪)、平和教育をすすめる会(沖縄)、首都圏の会(東京)の共催で文京区民センターで開催された(参加150人)。
●審議会を隠れ蓑に暗躍する●文科省教科書調査官の存在、●密室状態の審議や教科書会社とのやりとりなど●教科書検定制度がはらむ問題、●右翼団体や●政治家の猛烈な運動など、論点は構造的な問題に焦点が絞られ、深化した集会となった。
冒頭、首都圏の会の石山久男さん(歴史教育者協議会委員長)から、昨年11月上旬の6社8冊の「訂正申請」提出以降1月15日の沖縄県民大会代表団の文科省要請までの教科書検定の経過報告があり、そのあと5人の方から報告があった。
1 訂正申請の結果に思う――教科書執筆者として 坂本 昇さん(都立高校教員)
11月1日の訂正申請以降12月18日に再申請するまで、東京書籍の場合、文科省から資料提出指示や「意見」伝達、審議会の「指針」伝達、内諾が6回、出版社から訂正案提示が5回(つまり四訂の末、内諾に至った)、合計11回、平均4-5日に1回の頻繁なやりとりがあった。文科省教科書調査官の意見伝達は取締役クラスの編集者が聞くのみで、執筆者は立ち会えない。調査官は「あくまで意見」というだけで「直せ」と命令はしない。しかし出版社側では「再申請しないと認められないのだろう」と受け止めた。つまり文科省は「誘導」「強制」したのである。
検定の「密室性」はほとんど変わらず、調査官は識者の意見を恣意的に援用する審議会の「指針」を利用し、検定結果は撤回されない結果に終わった。忸怩たる思いが残る。今後も、よりよい教科書作りと検定意見撤回運動を継続したい。
2 今回の訂正申請の問題点 林 博史さん(関東学院大学教授)
教科用図書検定調査審議会日本史小委員会の集団自決に関する「指針」は、軍命を「隊長による自決命令」と狭く捉え、当時の教育・訓練や感情の植え付けなどの「様々な背景・要因」を強調している。しかし一番のポイントは日本軍の存在である。法的行政的な手続きを超え、軍は人の動員や物資調達を区長や住民に直接行っていた。「おかしい」などといえば息子ほどの年代の若い将校や下士官にビンタを張られた。日本軍にいわれたことは、実態としてすべて軍命だった。まず軍の強制・誘導があり、それに「様々な要因」を付加して考えるべきだ。
「沖縄の人の感情を考慮すべき」という考え方があるが、とんでもない。日本軍には「捕虜になるな」「捕虜になるのはひどいやつ」という考えがあり、ここから戦犯裁判で問題になった捕虜虐待が起こり、一方、投降できず餓死したり「玉砕」した日本兵が百数十万人いる。沖縄の「集団自決」(強制集団死)問題は日本の侵略戦争全体にかかわる問題である。
3 「日本軍の強制」を認めない背景 俵 義文さん(子どもと教科書全国ネット21)
われわれが要請した検定意見撤回は実現できなかった。要因として、検定意見撤回を求める意見書採択は本土では50の自治体(1月17日現在)に留まり本土の声が足りなかったこと、マスコミ報道も乏しかったことが挙げられる。
しかし最大の要因は右派組織の猛烈な巻き返し運動である。
もともと昨年3月の検定問題は右派政治家の政治介入から始まった。文科省担当者も「安倍政権に配慮して検定を行った」ことを自民党文教族議員に認めた(共同通信が07年12月に配信した記事)。また昨年10月以降、文科省への「訂正申請に応じるな」との要請はすさまじく、「私たちより数倍上回」ったと文科省も説明した(藤岡信勝「史」08.1月号)。そして平沼赳夫、中川昭一ら衆参の国会議員(自民、民主)で構成する日本会議議連は11月28日の総会で「教科書記述の変更に断固反対する」ことを決議し文科省への働きかけを確認した。
その結果、文科省の姿勢はガラリと変わった。11月半ばまで文科省・布村幸彦審議官は「検定制度に『撤回』の規定がないため撤回できない」と述べていたが、12月に入ると「検定意見は学問的・専門的立場から公正に付けられたものであり、撤回できない」と6月までの強硬な姿勢に戻った。この状況では、いずれ住民虐殺や壕追い出しの記述も削除されかねない。
4 高校生は何を考えているか――学校現場から 平井美津子さん(大阪・中学校教員)
わたしが勤務する中学では7年前から沖縄に修学旅行に行っている。高文研の書籍などを参考に琉球処分から現代の辺野古の問題まで取りあげた「中学生の沖縄ノート」をつくり配布した。こうした事前学習があったので、ひめゆり学徒の宮城喜久子さんから沖縄戦の話を聞き、ガマの見学をすると涙を流す生徒もいた。
学校に戻り、文化祭で「ひめゆり」の劇を上演したとき、生徒は「日本軍は住民を守らなかった」というセリフを付け加えた。
こうして生徒は昨年3月卒業したが、4月に「沖縄戦教科書の改ざんはおかしい」とメールをくれた人もいた。
卒業生は自分の生活のなかで沖縄のことを考えることはあるのか、教科書検定問題にどんな興味を示すか関心があり、昨年12月21日クラス便り「イーハトーブ」番外編を教え子33人に発送した。内容は沖縄戦教科書検定の問題、県民大会の高校生の発言、大江・岩波裁判についてなどで「いま教科書問題は大詰めだが、君達はどう考える?」と問いかけた。いままでに20人から返信があった。当時社会科嫌いの生徒は「現代社会で、クラスのみんなは731部隊、集団自決、ソテツ地獄にまったく無知でした。『集団自決』も自分たちが『勝手に』『自分の意志で』やったと認識していました。そういう友達に『本当は違う』と言っています。なぜそういう認識になるかというと、教科書がきちんと書かれておらず、政府の教育に問題があると思います」と書いてきた。
ある帰国子女の生徒は「日本人として、これから未来を築いていかなければならない一員として、無関係に思わず真剣に考えなければならない。学校で学ぶ教科書から事実を消してしまうのはとんでもないことで絶対してはならない」と書いた。
一方「知らない」「興味ない」という多くの友人や、否定する教師に囲まれ、壁に突き当たっている卒業生もいた。「現代社会の課題で県民大会の新聞記事を題材に、教科書には正しいことを書いてほしいと発表した。すると教師から『それは偏向した考え方や。県民大会の人数も実際には5万人にも達していない』と、ほとんど説教のようなことを言われた」。
生徒には沖縄の修学旅行で受けた感動がいまも残っていて、世の中をみていてくれたことがわかった。
12月26日の訂正申請結果公表の新聞をみて「先生、よかったやん」とメールをくれた生徒もいる。「いや、そこが問題やねんで!」と答えている。
いま中学には「731部隊や慰安婦問題のことを教えるな」と匿名で3回も抗議の電話を入れる父母がいる。しかし、管理職も含め「正しい教育を行う」ことを確認し匿名の電話は相手にしない方針にしている。
5 「大江・岩波沖縄戦裁判」結審報告
小牧 薫さん(大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会事務局長)
12月21日2年半に及ぶ裁判が結審した。最終弁論で原告側弁護士徳永信一らは256pに及ぶ準備書面を提出した。書面には曽野綾子や小林よしのりの著書の引用が多く見られる。
裁判の過程で梅澤裕氏は原告なのに「沖縄ノート」を提訴後1年もたってから読み、赤松秀一氏は「パラパラ読んだだけ」ということが判明した。梅澤氏は裁判の当初「命令は助役が出した」と主張していた。ところが途中で「那覇あたりの上司(県知事)が出した」と言い、最終的には「愛情による無理心中」になってしまった。
手榴弾の配布は「こういう場合に使え」との条件付きで、慈悲温情によるものだと主張する。
判決は3月28日10時に言い渡される。
最後に寺川徹さん(首都圏の会事務局長)から方針提起が発表された。
3月28日の判決については、大阪では当日、東京では4月9日(水)報告集会を開催する。また現在1万3995筆集まっている「公正な判決を求める署名」の追加分を2月初旬に提出する予定である。
教科書検定については、3月18日に「学習会」を行い、今後も毎年訂正申請を求める活動を継続したい。世論づくりのため市民団体、研究者、労組のパイプをさらに太くしていきたい。
◎『多面体F』
http://blog.goo.ne.jp/polyhedron-f/
▲ 1・22教科書検定意見撤回を求める集会「日本軍の強制」文科省はなぜ認めない! ▲が大江・岩波裁判支援連絡会(大阪)、平和教育をすすめる会(沖縄)、首都圏の会(東京)の共催で文京区民センターで開催された(参加150人)。
●審議会を隠れ蓑に暗躍する●文科省教科書調査官の存在、●密室状態の審議や教科書会社とのやりとりなど●教科書検定制度がはらむ問題、●右翼団体や●政治家の猛烈な運動など、論点は構造的な問題に焦点が絞られ、深化した集会となった。
冒頭、首都圏の会の石山久男さん(歴史教育者協議会委員長)から、昨年11月上旬の6社8冊の「訂正申請」提出以降1月15日の沖縄県民大会代表団の文科省要請までの教科書検定の経過報告があり、そのあと5人の方から報告があった。
1 訂正申請の結果に思う――教科書執筆者として 坂本 昇さん(都立高校教員)
11月1日の訂正申請以降12月18日に再申請するまで、東京書籍の場合、文科省から資料提出指示や「意見」伝達、審議会の「指針」伝達、内諾が6回、出版社から訂正案提示が5回(つまり四訂の末、内諾に至った)、合計11回、平均4-5日に1回の頻繁なやりとりがあった。文科省教科書調査官の意見伝達は取締役クラスの編集者が聞くのみで、執筆者は立ち会えない。調査官は「あくまで意見」というだけで「直せ」と命令はしない。しかし出版社側では「再申請しないと認められないのだろう」と受け止めた。つまり文科省は「誘導」「強制」したのである。
検定の「密室性」はほとんど変わらず、調査官は識者の意見を恣意的に援用する審議会の「指針」を利用し、検定結果は撤回されない結果に終わった。忸怩たる思いが残る。今後も、よりよい教科書作りと検定意見撤回運動を継続したい。
2 今回の訂正申請の問題点 林 博史さん(関東学院大学教授)
教科用図書検定調査審議会日本史小委員会の集団自決に関する「指針」は、軍命を「隊長による自決命令」と狭く捉え、当時の教育・訓練や感情の植え付けなどの「様々な背景・要因」を強調している。しかし一番のポイントは日本軍の存在である。法的行政的な手続きを超え、軍は人の動員や物資調達を区長や住民に直接行っていた。「おかしい」などといえば息子ほどの年代の若い将校や下士官にビンタを張られた。日本軍にいわれたことは、実態としてすべて軍命だった。まず軍の強制・誘導があり、それに「様々な要因」を付加して考えるべきだ。
「沖縄の人の感情を考慮すべき」という考え方があるが、とんでもない。日本軍には「捕虜になるな」「捕虜になるのはひどいやつ」という考えがあり、ここから戦犯裁判で問題になった捕虜虐待が起こり、一方、投降できず餓死したり「玉砕」した日本兵が百数十万人いる。沖縄の「集団自決」(強制集団死)問題は日本の侵略戦争全体にかかわる問題である。
3 「日本軍の強制」を認めない背景 俵 義文さん(子どもと教科書全国ネット21)
われわれが要請した検定意見撤回は実現できなかった。要因として、検定意見撤回を求める意見書採択は本土では50の自治体(1月17日現在)に留まり本土の声が足りなかったこと、マスコミ報道も乏しかったことが挙げられる。
しかし最大の要因は右派組織の猛烈な巻き返し運動である。
もともと昨年3月の検定問題は右派政治家の政治介入から始まった。文科省担当者も「安倍政権に配慮して検定を行った」ことを自民党文教族議員に認めた(共同通信が07年12月に配信した記事)。また昨年10月以降、文科省への「訂正申請に応じるな」との要請はすさまじく、「私たちより数倍上回」ったと文科省も説明した(藤岡信勝「史」08.1月号)。そして平沼赳夫、中川昭一ら衆参の国会議員(自民、民主)で構成する日本会議議連は11月28日の総会で「教科書記述の変更に断固反対する」ことを決議し文科省への働きかけを確認した。
その結果、文科省の姿勢はガラリと変わった。11月半ばまで文科省・布村幸彦審議官は「検定制度に『撤回』の規定がないため撤回できない」と述べていたが、12月に入ると「検定意見は学問的・専門的立場から公正に付けられたものであり、撤回できない」と6月までの強硬な姿勢に戻った。この状況では、いずれ住民虐殺や壕追い出しの記述も削除されかねない。
4 高校生は何を考えているか――学校現場から 平井美津子さん(大阪・中学校教員)
わたしが勤務する中学では7年前から沖縄に修学旅行に行っている。高文研の書籍などを参考に琉球処分から現代の辺野古の問題まで取りあげた「中学生の沖縄ノート」をつくり配布した。こうした事前学習があったので、ひめゆり学徒の宮城喜久子さんから沖縄戦の話を聞き、ガマの見学をすると涙を流す生徒もいた。
学校に戻り、文化祭で「ひめゆり」の劇を上演したとき、生徒は「日本軍は住民を守らなかった」というセリフを付け加えた。
こうして生徒は昨年3月卒業したが、4月に「沖縄戦教科書の改ざんはおかしい」とメールをくれた人もいた。
卒業生は自分の生活のなかで沖縄のことを考えることはあるのか、教科書検定問題にどんな興味を示すか関心があり、昨年12月21日クラス便り「イーハトーブ」番外編を教え子33人に発送した。内容は沖縄戦教科書検定の問題、県民大会の高校生の発言、大江・岩波裁判についてなどで「いま教科書問題は大詰めだが、君達はどう考える?」と問いかけた。いままでに20人から返信があった。当時社会科嫌いの生徒は「現代社会で、クラスのみんなは731部隊、集団自決、ソテツ地獄にまったく無知でした。『集団自決』も自分たちが『勝手に』『自分の意志で』やったと認識していました。そういう友達に『本当は違う』と言っています。なぜそういう認識になるかというと、教科書がきちんと書かれておらず、政府の教育に問題があると思います」と書いてきた。
ある帰国子女の生徒は「日本人として、これから未来を築いていかなければならない一員として、無関係に思わず真剣に考えなければならない。学校で学ぶ教科書から事実を消してしまうのはとんでもないことで絶対してはならない」と書いた。
一方「知らない」「興味ない」という多くの友人や、否定する教師に囲まれ、壁に突き当たっている卒業生もいた。「現代社会の課題で県民大会の新聞記事を題材に、教科書には正しいことを書いてほしいと発表した。すると教師から『それは偏向した考え方や。県民大会の人数も実際には5万人にも達していない』と、ほとんど説教のようなことを言われた」。
生徒には沖縄の修学旅行で受けた感動がいまも残っていて、世の中をみていてくれたことがわかった。
12月26日の訂正申請結果公表の新聞をみて「先生、よかったやん」とメールをくれた生徒もいる。「いや、そこが問題やねんで!」と答えている。
いま中学には「731部隊や慰安婦問題のことを教えるな」と匿名で3回も抗議の電話を入れる父母がいる。しかし、管理職も含め「正しい教育を行う」ことを確認し匿名の電話は相手にしない方針にしている。
5 「大江・岩波沖縄戦裁判」結審報告
小牧 薫さん(大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会事務局長)
12月21日2年半に及ぶ裁判が結審した。最終弁論で原告側弁護士徳永信一らは256pに及ぶ準備書面を提出した。書面には曽野綾子や小林よしのりの著書の引用が多く見られる。
裁判の過程で梅澤裕氏は原告なのに「沖縄ノート」を提訴後1年もたってから読み、赤松秀一氏は「パラパラ読んだだけ」ということが判明した。梅澤氏は裁判の当初「命令は助役が出した」と主張していた。ところが途中で「那覇あたりの上司(県知事)が出した」と言い、最終的には「愛情による無理心中」になってしまった。
手榴弾の配布は「こういう場合に使え」との条件付きで、慈悲温情によるものだと主張する。
判決は3月28日10時に言い渡される。
最後に寺川徹さん(首都圏の会事務局長)から方針提起が発表された。
3月28日の判決については、大阪では当日、東京では4月9日(水)報告集会を開催する。また現在1万3995筆集まっている「公正な判決を求める署名」の追加分を2月初旬に提出する予定である。
教科書検定については、3月18日に「学習会」を行い、今後も毎年訂正申請を求める活動を継続したい。世論づくりのため市民団体、研究者、労組のパイプをさらに太くしていきたい。
◎『多面体F』
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