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"愛国心"も「答えが一つではない道徳的課題」ですか?

2015年09月19日 | こども危機
◆ 文科省が教科・道徳の新学習指導要領解説書と検定基準を公表
 〝愛国心〟と〝公益優先論〟を徹底教化

永野厚男(教育ライター)

 文部科学省が2018年度から小学校で(中学校は19年度から)検定教科書と評価を導入する「特別の教科・道徳」で、学習指導要領改定時の6千件近い「パブリックコメントの主な意見への回答」の1つとして3月27日、公表した「子供たちが答えが一つではない問題を道徳的課題として捉え、考えたり議論したりする道徳へと質的転換を図る」と一見、多様性を認めるような見解が、同省著作の学習指導要領解説書(7月3日公表)において、〝愛国心〟〝遵法精神・公徳心〟の、少なくとも2つの徳目では、真逆=価値観の押し付けになっている。
 ◆ 「愛国心に統治機構は含まず」との主張は破綻

 パブコメの多数を占めた〝教科化〟反対の意見(【注】参照)を無視し、文科省が3月27日告示した道徳の新指導要領は、僅かな字句修正以外は、改定案(2月4日公表。本誌3月号既報)通り。以下、中学校に絞り検証する。
 新指導要領は〝愛国心〟教育を「優れた伝統の継承と新しい文化の創造に貢献するとともに、日本人としての自覚をもって国を愛し、国家及び社会の形成者として、その発展に努めること」と規定。
 現行指導要領(08年3月告示)と若干、字句の違いあるこの〝愛国心〟規定について、同省の新解説書は、
 ――「国を愛し」とは、歴史的・文化的な共同体としての我が国を愛し、国家及び社会の形成者として、その発展を願い、それに寄与しようとすることであり、そのような態度は心と一体として養われるものであるという趣旨である。「国」や「国家」とは、政府や内閣などの統治機構を意味するものではない。――
 など、現行の解説にはない主張を展開。

 この主張は、「国を愛するとは、歴史的に形成されてきた国民・国土・伝統・文化等から成る歴史的・文化的な共同体としての我が国を愛するとの趣旨。統治機構=政府や内閣等を愛せというのではない」との第1次政権の安倍首相(06年11月17日、参院本会議)や小坂憲次文科相(同年5月26日、同教育基本法特別委)の公明党議員への答弁に沿ったもの。
 しかし解説書は、〝愛国心〟の解説の冒頭に「地域社会や郷土を前提としつつ、主権という観点を踏まえた歴史的、文化的な共同体として国家や国は存在する」と明記(以下、傍点は筆者)。「国家主権」を持ち出せば、統治機構を含むのは当然だし、そもそも「国民・国土等から成る共同体」が統治機構を作り出してきたのも歴史の事実。「統治機構は含まないから国を愛せ」という主張は、元々破綻している。
 今年8月3日、学校への〝君が代〟強制や教育委員会による不当処分撤回の裁判を闘っている全国の教職員や支援する保護者ら市民が、衆院第2議員会館で文科省交渉を行った。市民が、「愛国心も(本稿冒頭の)『答えが一つではない道徳的課題』に当然入りますね」と確認を求めたが、教育課程課の担当者は、改定教育基本法2条5号が〝国を愛する態度〟を規定しているとの理由で、明確に回答しなかった。
 このため市民が、06年11月29日の参院教基法特委での那谷屋正義議員(民主)の「改定教育基本法でも残った『個人の尊厳』の背景には、かつて愛国心の美名の下、生命が国家の政策遂行の手段になり、個人が悲惨な状況に置かれたことへの反省があった」との発言を念頭に、「国よりも『個人の尊厳』の方が大事だと言う生徒がいても当然良いはず」と再質問すると、同担当者は首肯しつつも、「そういう授業があって良いのではないか」との再々質問には、改定教基法を理由に回答を避けた。
 【注】3月28日付『産経』は、「道徳教科化賛成が全体の約57%」と報じた。だが文科省教育課程課で数回にわたりパブコメの全コピーを閲覧した研究者や元教諭ら4人は、「右翼的な人は、GHQや日教組非難と、『教育勅語は今も通用する。捏ねつぞう造された自虐史観でなく、国史を柱に教育を』『近隣諸国条項は完全撤廃せよ』等、道徳とは無関係の意見を多く寄せており(近隣諸国条項は社会科)、反対意見の方が多い印象だ。SNSやスマホ対策等、中立的な意見のカウントの仕方でも教科化の賛否数は変わる」と語る。
 ◆ 自民党改憲案と軌を一にする〝公益優先論〟
 〝遵法精神・公徳心〟は、新指導要領では「法やきまりの意義を理解し、それらを進んで守るとともに、そのよりよい在り方について考え、自他の権利を大切にし、義務を果たして、規律ある安定した社会の実現に努めること」と規定。
 これについて解説書は「義務とは、ここでは人に課せられる法的拘束であり、自分の好き嫌いに関わりなくなすべきことである」と記述。
 11年の横浜市教委等に加え今夏、大阪市教委も16年度からの採択を決めた育鵬社版社会科公民教科書は、憲法にも法律にもない〝国防の義務〟を2箇所も記述。集団的自衛権行使の悪法の審議下、戦場に進んで行く若者を増やしかねない。
 そんな懸念の中、解説書は、――「私」を大切にする心と「公」を大切にする心の関係について考えを深めさせることが望まれる。――と主張。
 日本国憲法第12条・第13条は「私(個人)対私」間での人権の衝突時のみ、「公共の福祉」による人権制約がある旨、規定しているが、自民党改憲案は「公共の福祉」を〝公益=公共の利益〟という文言に改悪し、「私対国家権力」間でも人権を制限できるとしている。
 もし解説書にこういう意図があれば、例えば「国が米軍新基地を作ると言ったら、住民は反対せず、騒音も墜落の危険性も我慢し受け入れよ」といった、戦前戦中と同じ〝国益優先論〟につながる恐れがある。
 ◆ 〝愛国心〟チェック徹底する1冊3名の検定体制
 道徳教科書作りでも政府の思い通り進む危険性が高まっている。
 文科省は14年1月改定の全教科共通の「検定審査要項」で、不合格の判定方法に「教育基本法の目標等に照らし、重大な欠陥があると判断されるもの」という趣旨を加筆。前述通り改定教基法は〝愛国心〟を盛る。ゆえに〝愛国心〟の書き振りによっては、一発で不合格となる危険性もある。
 7月23日の同省の教科用図書検定調査審議会(検定審)の総会で了承した検定基準等改定の『報告』は、道徳を含む全教科について、不合格になると翌年6月まで再申請を受け付けず、とした。
 出版社にとって不合格は死活問題。〝自粛〟を一層、加速しそうだ。
 『報告』はまた、道徳科固有の検定基準として、〝愛国心〟を盛り込み易い「伝統と文化、先人の伝記(偉人伝)、スポーツ等の題材」の教材掲載を必須化
 これら教材と内容項目との関係を一覧表で明示させ、かつ「その関係は適切か」も規定するとした。権力側が書かせたい内容を書かせ、チェックも容易になる。
 検定基準では更に、①多様な見方や考え方のできる事柄を取り上げる場合には、特定の見方や考え方に偏った取扱いはなされておらず公正である、②児童生徒の心身の発達段階に即し、多面的・多角的に考えられるよう適切な配慮がされている旨も規定。
 検定審終了後、傍聴者らが「公正とは政府から見ての〝公正〟か。国を批判するか愛するか、多面的に考えるのは不可なのか」と質したが、教科書課専門官は「検定意見は事項でなく個別具体的記述に対し付すので、教科書の原稿が出てこない段階では答えられない」と述べた。
 更に『報告』は、道徳だけは「よりきめ細かな調査が担保できる検定体制が必要」とし、「学校における道徳教育の実情に精通した教員や教委指導主事等を、検定審の専門委員として検定に参画させ、教科書1冊に対し3名程度で調査に当たる」旨、提起。他教科に比べ異例の手厚さだ。
 検定審は反対意見なく『報告』を了承。背景には、社会科の検定基準に「政府統一見解の記述」強制等を追加した13年末、反対意見を述べた大学教授らが再任されなかった政治的経緯がある。
『マスコミ市民』(2015年9月)

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