《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
★ 社会
~戦争と平和、憲法にかかわる記述が後退
社会科の発行者数は3社(地図は2社)で、現行の教科書と変わらないが、記述内容については、下記のようにいくつかの後退があった。
★ 領土問題は政府の主張通り
どの教科書も、日本政府の主張通りの記述
(①日本「固有の」領土である、
②北方領土、竹島はロシア、韓国が不法に占拠しており、日本政府が返還を求めている、
③尖閣諸島については問題が生じていない、の3点)
となっている。
現行本で、「領土は大事だけれど、隣の国々とは仲良くしていきたいね」という子どもの言葉を吹き出しにした教出は、新教科書に「不法に占拠されている領土は、どうしたら返してもらえるのだろう」という、別の子どもの言葉を追加した。
★ 歴史認識にかかわる記述での後退
〈関東大震災での朝鮮人虐殺〉 現行本で「朝鮮人が井戸に毒を入れたなどのうわさが広がり、多くの朝鮮人が殺害された」と、コラムで取り上げていた日文が、新教科書では削除した。本文にも記述はない。(東書と教出は、本文に記載)
〈日露戦争〉 あいかわらず全社が、日露戦争での日本の「勝利」がアジアの国々を「勇気づけた」「独立への自覚と希望を与えた」などと、何の但し書きもなく記述していることは問題である。
日文が、見開き2頁の最後に、「日本にとって朝鮮半島は、とても大切な場所なんだね」という子どもの言葉を付け加えたことは、理解に苦しむ。
〈戦争と朝鮮の人々〉 東書が「兵士になった朝鮮の人々」の写真のキャプションの冒頭に「志願して」と挿入し、説明も以下のように変更した。
・「多くの朝鮮人と中国人が強制的に連れてこられた」⇒「・・・強制的に動員された」
・「日本軍の兵士としで徴兵された」⇒「日本軍に兵士として加わるようになり、のちに徴兵制が取られるようになりました」
〈沖縄戦〉 集団自決について、東書・教出は現行本で「アメリカ軍の攻撃で追いつめられて、多くの住民が集団で死に追い込まれた」などとして、日本軍の強制、関与について触れていない。
日文は、「子どもや女性、高齢者の住民までもが戦争に総動員され、戦闘に巻き込まれました。そのため、追いつめられた住民のなかには『集団自決』した人も多数いました」と記述していたが、新教科書では「総動員」の部分を削除し、「ガマの奥まで焼きつくすアメリカ軍の激しい攻撃に追いつめられた」ことによって集団自決に至ったという書き方に変更した。
★ 憲法に関する記述の後退
〈核兵器廃絶〉 東書は、尼崎市の「核兵器廃絶平和都市宣言」を紹介したコラムを削除。「核兵器廃絶」と「非核三原則」の言葉が無くなってしまった。
日文も「非核三原則」を本文から削除。
教出は、「日本と世界の平和と安全を実現していくためにはどうしたらよいかを考えていきたいな」という子どもの言葉を削除。
〈自衛隊〉 全社が4年生から自衛隊を登場させており、そのほとんどが災害救助の説明と写真。
東書は、憲法の「平和主義」の項目で「日本の平和と安全を守るために、自衛隊の役割は重要です」と記述。違憲・合憲の両論併記が無くなった。
日文は、憲法の「平和主義」の頁を大きく変え、現行本には無かった自衛隊の説明や写真を挿入。文民統制に関するコラムも付け加えた。
教出は、各省庁の仕事を紹介するQRコードで防衛省・自衛隊のキッズサイトに誘導する。そのほとんどが自衛隊の宣伝のような内容。
〈国民主権〉 全社とも「国民主権」の項目の3分の1程度のスペースが天皇関係の説明や写真、資料に割かれている。
東書、教出は、国民主権=選挙権といった説明。日文だけが、世論のはたらきやマスコミの役割に触れている。主権者教育としては、きわめて不十分。
以上のことは、岸田政権による「安保3文書」改悪と大軍拡・「戦争する国」づくりと軌を一にするもの。
子どもたちに、これからの社会をひらく主権者としての力をつけるため、子どもたちが歴史の真実を学び、平和と民主主義、個人の尊厳の大切さを自分事として考えることのできるような教育がすすめられるよう、みんなで声を上げていきたい。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 151号』(2023.8)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます