◆ 再稼働とブラック企業 (東京新聞【本音のコラム】)
松山市の城山公園で、「STOP伊方原発再稼働!11・1全国集会」が開かれたので参加した。
わたしはまだ原発が姿を現すまえ、一九七〇年代のはじめに、愛媛県伊方町でお会いした井田與之平さんのことを話した。旧地主であり、村長だった方で、八十歳を超えて一人暮らしだった。
二階建ての広壮なお宅は荒れ放題で、畳は薄汚れて寒々としていた。井田さんは奥座敷のちいさなこたつに端座していた。
用地買収に反対していた井田さんの留守にやってきた四国電力の社員が「売却しなかったら、土地収用法で安く取られてしまう」と妻のキクノさんをだましてハンを突かせた。それを悔やんで、彼女はいのちを断った。
「絶対安全と土地をとられ、いのちを奪われ、いのちを奪われないまでも、心に深い傷をうけたものは誰が償ってくれるでありましょうか」
わたしは伊方原発を「金権力発電所」と書いたが、それは伊方のことばかりではない。原発はウソと策略とで、貧しい地域に侵攻してきた。
九月の中間決算で、東京電力は三千六百五十一億円の経常利益。原発が稼働していなくても各社とも黒字。
「経営の安定のためには再稼働は必要だ」と東電社長。
消費者のためでも日本経済のためでもない。会社の安定のために、人間のいのちと健康を犠牲にする。これってブラック企業でしょう。
『東京新聞』(2015/11/3【本音のコラム】)
鎌田 慧(ルポライター)
松山市の城山公園で、「STOP伊方原発再稼働!11・1全国集会」が開かれたので参加した。
わたしはまだ原発が姿を現すまえ、一九七〇年代のはじめに、愛媛県伊方町でお会いした井田與之平さんのことを話した。旧地主であり、村長だった方で、八十歳を超えて一人暮らしだった。
二階建ての広壮なお宅は荒れ放題で、畳は薄汚れて寒々としていた。井田さんは奥座敷のちいさなこたつに端座していた。
用地買収に反対していた井田さんの留守にやってきた四国電力の社員が「売却しなかったら、土地収用法で安く取られてしまう」と妻のキクノさんをだましてハンを突かせた。それを悔やんで、彼女はいのちを断った。
「絶対安全と土地をとられ、いのちを奪われ、いのちを奪われないまでも、心に深い傷をうけたものは誰が償ってくれるでありましょうか」
わたしは伊方原発を「金権力発電所」と書いたが、それは伊方のことばかりではない。原発はウソと策略とで、貧しい地域に侵攻してきた。
九月の中間決算で、東京電力は三千六百五十一億円の経常利益。原発が稼働していなくても各社とも黒字。
「経営の安定のためには再稼働は必要だ」と東電社長。
消費者のためでも日本経済のためでもない。会社の安定のために、人間のいのちと健康を犠牲にする。これってブラック企業でしょう。
『東京新聞』(2015/11/3【本音のコラム】)
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