《週刊金曜日・メディアウオッチ》
★ 女性差別撤廃条約は法的拘束力あり
「勧告に法的拘束力なし」はミスリード
太田啓子(おおたけいこ・弁護士。明日の自由を守る若手弁護士の会。)
10月29日、女性差別撤廃条約の実施状況を審査する国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本政府に対する勧告を含む「最終見解」を公表した。指摘は多岐にわたり、選択的夫婦別姓の導入や緊急避妊薬の利用を含む現代的な避妊・中絶を選ぶ権利、人工妊娠・中絶の配偶者同意要件の廃止、女性が国政選挙に立候補する場合に供託金を一時的に減額する措置については2年以内に状況報告が求められる重要項目となっている。
8年ぶりの日本審査を好機として、日本の女性差別の状況を変えたいというNGO、市民の動きは活発化し、報道も多かった。
CEDAWの勧告の内容は多岐にわたるが、今まで4回(2003年、09年、16年と今回)勧告を受け、国内世論も高まっている選択的夫婦別姓を見出しに掲げる記事が多かった。
「“夫婦同姓”定めた民法 日本政府に改正求める勧告国連委員会」(10/30NHKNEWSWEB)、
「国連女性差別撤廃委、日本に夫婦別姓の導入を勧告 皇室典範の改正も」(10/29朝日新聞デジタル)、
「国連女子差別撤廃委、日本に皇室典範の改正を勧告・・・選択的夫婦別姓の導入も求める」(10/30読売新聞オンライン)
などである。
自身、取材でスイス・ジュネーブ入りしたところ、仕事で使用する旧姓と戸籍上の姓が異なるため警備で止められたという記者の経験が書かれた記事(11/6、東京新聞Web)もあった。
11月1日、選択的夫婦別姓を求める「あすには」など4団体が開催した記者会見について、東京新聞Web版は「選択的夫婦別姓の導入『政府はすみやかに対応を』国連委員会の勧告を受け市民団体代表らが記者会見」の見出しで報じ、TBSのサンデーモーニングも会見に言及。生活ニュースコモンズの記事(11/3)もお勧めだ。
産経新聞は11月1日の社説で「〈主張〉皇位継承への干渉政府は国連の暴挙許すな」とし、「この勧告に法的拘束力はない」と書いている。このようなミスリードが横行しないよう、日本が批准した条約の実現に必要なことが提言されているという勧告の本質をメディアは積極的に紹介してほしい。
★ 信濃毎日の本質的な指摘
この点、NHKがCEDAWの委員長経験がある林陽子弁護士の
「女性差別撤廃条約は法的拘束力がある国際文書で、国際法の趣旨に沿って履行していくことが重要だ。こうした勧告が出たことを、まずは、議員、公務員、法曹関係者などが知り、政府は、どんな制度が日本に足りないのか、当事者と一緒に、積極的に研修や啓発に取り組んでほしい」
というコメントを紹介していたのは重要だ。
また、信濃毎日新聞の社説(11/4)「女性差別の撤廃国際的な約束を果たせ」は、勧告の内容に触れた上で、「勧告が多岐にわたるのは、それだけジェンダー不平等が社会の隅々に深く根を張っている証左でもある。勧告を出発点に、性差別をなくす議論を深めたい」と本質的な指摘をしていた。
DV被害女性やシシグルマザーの貧困、母子の安全に関する勧告もなされた。
弁護士JPニュースは「“女性のDV被害”や“シングルマザーの貧困”に関して国連が日本政府に勧告『無視することは憲法違反になり得る』」(11/5)と報道。
家庭裁判所ではDV事案であっても非親権著と子の面会を強制し、面会時に子や母親が殺害される事件も起きてきたのに、検証はなされないまま今年の通常国会で離婚後共同親権導入の民法改正案が可決された。
CEDAWが「裁判官と家裁調査官が子どもの親権と面会を決定する際、ジェンダーに基づく暴力を十分に考慮するよう能力開発を強化・拡大すること」と勧告した意義は大きい。
今後、性差別解消の重要な道具として勧告を使いこなしていくことが重要だ。メディアも、性差別に関する報道では折に触れCEDAW勧告に言及してほしい。
『週刊金曜日 1497号』(2024年11月15日)
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