=東京新聞社説=
◆ 「君が代」強制 処分避け対話で解決を
学校現場で教職員に「君が代」の起立斉唱を強制している問題を巡り、国際機関が日本政府に強制を避けるよう勧告を重ねている。
政府は勧告を放置しているが、強制は教員らの内心の自由を侵す。
政府は勧告を受け入れ、処分ではなく教員団体との対話によって問題解決を図るべきだ。
勧告したのは国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)の合同専門委員会「CEART(セアート)」。
東京都や大阪府などの学校現場では、入学式や卒業式の際に「国旗に向かって起立し国歌を斉唱する」ことが求められ、従わない教員らが懲戒処分を受けている。
二〇一四年、日本の教職員組合が「公権力によって敬愛行為を強制され、思想良心の自由を侵害されている」と訴えたことを受け、セアートが審査を実施。一九年と今年六月の二度、日本政府に勧告が行われた。
根拠は一九六六年、日本も参加したユネスコの会議が採択した「教員の地位に関する勧告」。教員の責任や地位などの原則を定めた国際基準で、日本の「君が代」強制は基準に反すると判断した。
君が代は、日本の侵略戦争の象徴だと忌避し、不起立によって抵抗を示す人はいる。
政府は九九年の国旗国歌法制定時に「国民に新たな義務を課すものではない」と説明し、強制を否定した。
しかし東京では、石原慎太郎都政時代の二〇〇三年に出た通達に基づき不起立の教員を懲戒処分にし、大阪でも11年に設けた条例で起立斉唱を義務化した。
処分を受けた教員は再発防止研修が課され、定年退職後の再雇用希望も拒まれた。
勧告はこれら懲罰的行政を戒め、起立しないことは「混乱を生まない市民的自由の範囲」との見解を示している。
勧告は、公務員の教員には職務命令に従う義務があるとする文部科学省の主張も退け「愛国的式典の規則は、国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員にも対応できる内容であるべきだ」と組合との合議による規則作成も求めた。
日本国憲法は締結した条約や確立された国際法規の順守義務を定める。
二度目の勧告は、政府が放置している英文勧告文の和訳を組合と協力して行うよう求めている。言葉の意味を確認する共同作業を通じて見解の相違を埋め、強制の排除に踏み出すべきだ。
『東京新聞』(2022年10月31日【社説】)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/211116?rct=editorial
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます